【完結】竜を喰らう:悪食の魔女 “ドラゴン・イーター” は忌み嫌われる

春泥

文字の大きさ
2 / 70
第一章 正直者は馬鹿を見る?

第一話 ヌガキヤ村にドラゴン現る

しおりを挟む
 抜けるような青空の下で農作物の収穫に勤しむ人々の胸には、一抹の不安もなかった。
 ヌガキヤ村は、山間に広がる盆地にある。人口は千にも満たない小さな集落だが、人々は山の斜面も活用して小麦や果物、米などを栽培し、ここ数年の豊作続きで潤っていた。
 それというのも、新しく村長になったヌーが、まだ村の財政が苦しかった時分から子供の教育に力を入れ、村での義務教育を無償にしたばかりか、優秀な子供は村費で山向うの大きな町に「留学」させ、最先端の高等教育を受けさせたのだ。
 勉強を終えた子供たちの中には、そのまま都会に残る者もいた(ヌー村長は高等教育を終えた後は自由にしてよいと子らに通達していた)が、大半はヌガキヤ村に帰って来て、農作物の品種改良や、川を整備して自然災害の発生を抑えるなどの貢献をした。それが、ここ数年の豊作続きへと繋がったのだ。
 しかし、このように先見の明があったヌー村長でも、予見できないことがあった。それは――

「お母さん、あれなあに?」
 両親が鎌で刈り取った稲を束にして集めるお手伝いをしていた子供の一人が、青空を見上げて言った。
「えっ?」
 母親は軋む腰を延ばして鎌を持っていない方の手でトントン叩きながら、子供の指さす先を見た。
 それは黒い点で、よく見ると羽がついているのがわかる。
「鳥ね。ヒバリかしら」
「なんだ、サボってたら今日中に終わらないぞ」
 父親も手を止めて、腰を延ばしながら片手を庇代わりにして目の上に翳し、空を見た。
 平坦な土地に広がる田んぼでは、他の家族たちも総出で農作業に励んでいる。黄金色に実り頭を垂れていた稲が刈り取られた跡の切株が、どんどん増えていく穏やかな風景。山の斜面の果物畑で作業している者達の姿も遠くに見える。
 その山の上、はるか彼方に浮かぶものを目で捕えた時、父親は肝が冷えるのを感じた。
 まさか、そんなことが
 話には聞いていたが、実物を見たことはなく、彼の曾爺さんが若い頃旅の途中で遭遇したことがあるという、既にこの時代でも半ば伝説と化したその生き物は

 ドラゴン

 我に返った父親は、鎌を足元に落とすと、兄や姉の真似をしてお手伝い、と称して積み上げた稲の山にダイブするなどしていた末娘を抱き上げ、震えを懸命に抑えようとしながら、よく通る大声で言った。
「みんな、落ち着いて聞いてくれ」
 少し離れた田で作業をしていた村人たちも、何事かと手を止めた。
「あれは、ドラゴンだ。みんな、慌てず、落ち着いて山の中に逃げるんだ」

 当然、村はパニックに陥った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...