【完結】竜を喰らう:悪食の魔女 “ドラゴン・イーター” は忌み嫌われる

春泥

文字の大きさ
64 / 70
第五章 ヌガキヤ村の惨劇(フルバージョン)

第十四話 再会

しおりを挟む
 何やら騒々しい。
 意識が戻り薄目を開けたシロのぼやけた視界に映ったのは、生い茂る木々の間で蠢く何か大きなもの――トロちゃん(人間)が、ドラゴンの鼻先にしがみついて、小さな拳で殴りつけている光景だった。
 超大型のドラゴンはリヴァイアによって地に落とされていた。トロちゃんが戦っている(?)のは、それと比べれば随分小ぶり、といっても村の水車よりは大きく、小柄な青年のトロちゃん(丸腰)に勝てる相手とは思えなかった。
 トロちゃんは、シロが見たこともない激情に駆られ、声の限りに叫んでいる。

「にんげんっていうのはー、ちちゃくて弱くて、おまけに目と鼻と口の間が短くて見た目がオモシロイけどー、すぐ壊れちゃうんだー。ダイジにしないと、いけないんだぞー。こんなちっちゃいヒトをひどい目にあわせるなんて、このジャアクなドラゴンめー」

 夢中で喚き散らすトロちゃんの拳が振り下ろされるたび、鈍く重い音と共に鱗にひびが入る。そして、トロちゃんの拳は朱に染まっていく。
 どうやら、自分がもはやトロールではなく人間、しかも成人としては小柄な部類に属する姿になっていることを失念しているらしいと理解すると同時に、シロはあちこち軋む体を地面から引き剥がした。岩石のような顔のトロールの友からずっと「オモシロイ」顔だと思われていたことは不問に付した。

 あんなか細い肉体でトロールの怪力を発揮していたら、壊れてしまう。

「あ、いけません、聖人様!」
 聞き覚えのある女性の声を無視し、肩に触れた指先を振り払った。それは、あまり思い出したくない部類に属する記憶だったし、今気にしている暇はなかった。

「トロちゃん、やめるんだ!」

 子供のような小柄な体を振り落とそうと、木々の間で窮屈そうに長い首を振り回していたドラゴンが、無謀にも自分に向かってくる別のヒトの姿を捉えたその途端、全身の鱗が逆立った。
 ドラゴンに無謀な攻撃を加えていたロちゃんの手が異変を察知して一瞬止まった。
 重く垂れこめた空気を切り裂くような叫び声をあげ、ドラゴンは己の頭部を近くの大木に叩きつけた。
 大木は太い幹を軋ませ大量の枝や葉っぱを雨のように降らせたが、倒れなかった。しかし激突の衝撃でトロちゃんの体は振り落とされ、ごろごろ転がって動かなくなった。
 自身も相当の衝撃を受けたはずのドラゴンは、自由になった頭部を軽く揺らしながら、シロを正面から見据えた。
「トロちゃん!」
 反射的に、吹き飛ばされた友人に駆け寄ろうとしていたシロの足が止まった。感情を示さない金の瞳に射すくめられたかのように。
 薄暗い森の中で丸く広がった黒い瞳孔が近づいてくる。
 その闇の中に吸い込まれる
 魂が
 以前にもこの瞳に危うくからめとられそうになったことをシロは思い出した――いや、思い出すよりも早く、口を突いて出た名前。

「テキサ」

 大きく開いた口の中に、鋭い歯が三重に並んでいるのが見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...