僕はこれに夢想転移という名をつけた。

七瀬黒芭

文字の大きさ
12 / 12
第一章 異変

九話 双子

しおりを挟む
 昼食後、蓮は自室に戻り休憩することにした。たかが掃除と言えど、なかなか疲れるものだ。
 まぁせっかくだしゆっくり昼寝でも────と思ったのもつかの間。誰かがドアをノックし、天茉の声が聞こえてくる。
「少し…お時間いいですか?」
「あぁ、入っていいぞ」
天茉が静かにドアを開け、蓮の部屋にあるソファに腰掛けた。

「すいません、お昼寝しようとしてましたよね。顔が眠たげです」
「エスパーかよお前は……」
 天茉の鋭さに驚きつつ、本題に入る。
「それで、どうかしたのか?」
「あ、はい…その前に、確認させてください」
「……何をだ?」
 途端に天茉の表情が険しくなり、空気が固くなった。
「僕と姉の天華。蓮さんにはどんな姉弟に見えますか」
 唐突な質問に少し戸惑った。何故そんなことを聞くのだろうか。
「まぁ、普通に仲のいい双子…じゃないか?」
「……なら結構です」
 いまいちわからない子だとか少し思った。

「これから話すことは蓮さんにしか話すつもりはありません。そしてまた、蓮さんも他の誰かにこの事を話すなんてことはしないでください。それほど真剣で重要なことなので」
「あ、あぁ。了解した」
 今のひとことでこれから話すことがどれだけ真剣なのかが伝わってくる。

「……単刀直入に言います。だいぶ昔のことですが、僕達双子にある事件が起きました。その時に僕は、ナイフでお腹を刺されました。────いえ、正しく言うと、僕ではなく、本物の天茉。本当の彼女の弟さんがその時殺されました」
「えっと……唐突すぎてよくわかんないんだが」
「簡単に言えば、僕は天茉ではありません。天茉によく似た他人ってことです」
「ま、待て……お前が天茉じゃないって……は……? 悪い冗談はやめろよ。笑えねぇぞ」
「冗談なんかじゃありません。事実です」
「……じゃあ、お前は誰なんだ……? 天茉はどこに?」

 意味がわからない。だが天茉が嘘を言うわけがない。いや、こいつは天茉ではない……のか。
 突然のことで頭がこんがらがってきた。
「天茉は死んでいます。ですが、天華は僕を本物の天茉だと勘違いしています」
「……もう一度確認していいか? 冗談じゃないんだよな?」
「はい。紛れもない事実です」
 信じ難い話だが、偽物の天茉の表情から伺うに、本当のことみたいだった。

「ですが、まだそこまではいいんです。僕が誰であろうと今はいいんです」
「よくない気もするが……まぁいいか……続けてくれ」
「一番の問題は、天華が本当のことに気付きつつあることです」
「本当のことっていうと……天茉が死んでいるっていう事実か?」
「その通りです。きっと彼女が本当のことを知ってしまえば……いや、思い出してしまえば、今までみたいに過ごすことが出来なくなりそうで、怖くて……」
「……とりあえず、頭の中を整理してもいいか?」
 急展開すぎる。頭が話についていかない。

「まず第一に、何故お前を天茉だと勘違いしているんだ?」
「それはつまり、僕が誰なのかって話ですよね。僕は天華と天茉、その二人と昔から仲がよかった友達です。周囲からは、僕と天茉があまりに似ていたので本当は三つ子なんじゃないか、とか言われてました」
「確かに自分と似てる人って全くいないからなぁ」
 蓮が苦笑い混じりにそう言った。
「天華はドジなので、たまに本当の弟と僕を見間違える程だったですよ」
「色んな意味であの子やばいぞそれ…」
「そうですね」
 やっと天茉(仮)が笑みを浮かべて、少し安心した。
 だがそれもつかの間で、すぐに話が元に戻った。

「天華はその事件以降、記憶が混乱しているのか、僕を天茉だと思い込み、本当の僕の存在はなかったことにされています」
「お、おい……それって悲しくないのかよ……」
「……もちろん、僕も最初は戸惑いを隠せなかったです。でも大切な友達がそれで幸せなら、合わせようと思いまして……」
「……まぁ、優しいんだな」
「ですが、最近は何だか考え込むことが多くなってる気がするんです」
「天華が?」
「はい……だからもしかして僕のことに気付きつつあるのではと思いまして……」
「確かに俺も天華のぼーっとしてるところとか見かけること多くなったなぁ」
「まぁ気付いていようといなかろうと、蓮さんには話すつもりでいました」
「でも、なんで俺なんだ?」
「何だか、長いこと一緒にいたわけじゃないのにすごく信用してるっていうか…」
 信用されるようなことをした覚えもなかったが、他人からそんなことを言われたのはほとんどなかったがために嬉しかった。
 少しばかり照れるような感じがした。
「……とにかく、天華が僕のことを思い出すのは時間の問題だと思います。でも僕には何もできることがなくて……」
「まぁ……あれだ。何かしようとか、してあげようとか、そんなこと考えてるぐらいならあいつと一緒にいてあげたほうがいいんじゃないか? きっと天華もお前と一緒にいたいって思ってるだろう。それが例え、本当の天茉じゃなかったとしても、だ」

 だが今はそうやって切り抜けられるが、天茉の言った通りこれは時間の問題だろう。もし天華が本当のことに気付いてしまったら、その時は……その時は……
 ────わからないが、きっと何とかなるだろう。気にしてばかりいたらこんな世界じゃ生きていけない気がする。

「……そうですね。とにかく、今は彼女の弟、天茉として天華に付き添うことにします。ですが、もし彼女が絶望に陥ってしまったら……その時はお願いします」
「出来る限りのことはするさ」
 天茉が微笑む。実に愛らしい。
「蓮さん。この話は他言無用でお願いします。約束ですよ?」
「わかってるって」
「あとは今まで通り、僕のことは天茉として扱ってください」
「当然だ。安心してくれ」
 先程までの重い空気はなくなり、緊張が消えていく。

 結局昼寝はできなかったが、天茉と仲良くなるいいきっかけになったと思う。正直、さっきの話をまだ信じきってはいないが、嘘ではないことは確かだ。

 俺にできることは死んででもやってやろう。誰かのために……
 いつしかそんなことを思うようになっていた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

金色(こんじき)の龍は、黄昏に鎮魂曲(レクイエム)をうたう

藤原 秋
ファンタジー
高校生活最後の夏休み、友人達と地元で有名な心霊スポットに出掛けた氷上彪(ひかみひょう)は、思いがけぬ事故に遭い山中に独り取り残されてしまう。 人生初の気絶から目覚めた彼を待ち受けていたのは、とても現実とは思えない、悪い夢のような出来事の連続で……!? ほとほと運の悪い男子高校生と、ひょんなことから彼に固執する(見た目は可愛らしい)蒼い物の怪、謎の白装束姿の少女、古くから地域で語り継がれる伝承とが絡み合う、現代?和風ファンタジー。 ※2018年1月9日にタイトルを「キモダメシに行って迷い人になったオレと、蒼き物の怪と、白装束の少女」から改題しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...