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第一章 異変
九話 双子
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昼食後、蓮は自室に戻り休憩することにした。たかが掃除と言えど、なかなか疲れるものだ。
まぁせっかくだしゆっくり昼寝でも────と思ったのもつかの間。誰かがドアをノックし、天茉の声が聞こえてくる。
「少し…お時間いいですか?」
「あぁ、入っていいぞ」
天茉が静かにドアを開け、蓮の部屋にあるソファに腰掛けた。
「すいません、お昼寝しようとしてましたよね。顔が眠たげです」
「エスパーかよお前は……」
天茉の鋭さに驚きつつ、本題に入る。
「それで、どうかしたのか?」
「あ、はい…その前に、確認させてください」
「……何をだ?」
途端に天茉の表情が険しくなり、空気が固くなった。
「僕と姉の天華。蓮さんにはどんな姉弟に見えますか」
唐突な質問に少し戸惑った。何故そんなことを聞くのだろうか。
「まぁ、普通に仲のいい双子…じゃないか?」
「……なら結構です」
いまいちわからない子だとか少し思った。
「これから話すことは蓮さんにしか話すつもりはありません。そしてまた、蓮さんも他の誰かにこの事を話すなんてことはしないでください。それほど真剣で重要なことなので」
「あ、あぁ。了解した」
今のひとことでこれから話すことがどれだけ真剣なのかが伝わってくる。
「……単刀直入に言います。だいぶ昔のことですが、僕達双子にある事件が起きました。その時に僕は、ナイフでお腹を刺されました。────いえ、正しく言うと、僕ではなく、本物の天茉。本当の彼女の弟さんがその時殺されました」
「えっと……唐突すぎてよくわかんないんだが」
「簡単に言えば、僕は天茉ではありません。天茉によく似た他人ってことです」
「ま、待て……お前が天茉じゃないって……は……? 悪い冗談はやめろよ。笑えねぇぞ」
「冗談なんかじゃありません。事実です」
「……じゃあ、お前は誰なんだ……? 天茉はどこに?」
意味がわからない。だが天茉が嘘を言うわけがない。いや、こいつは天茉ではない……のか。
突然のことで頭がこんがらがってきた。
「天茉は死んでいます。ですが、天華は僕を本物の天茉だと勘違いしています」
「……もう一度確認していいか? 冗談じゃないんだよな?」
「はい。紛れもない事実です」
信じ難い話だが、偽物の天茉の表情から伺うに、本当のことみたいだった。
「ですが、まだそこまではいいんです。僕が誰であろうと今はいいんです」
「よくない気もするが……まぁいいか……続けてくれ」
「一番の問題は、天華が本当のことに気付きつつあることです」
「本当のことっていうと……天茉が死んでいるっていう事実か?」
「その通りです。きっと彼女が本当のことを知ってしまえば……いや、思い出してしまえば、今までみたいに過ごすことが出来なくなりそうで、怖くて……」
「……とりあえず、頭の中を整理してもいいか?」
急展開すぎる。頭が話についていかない。
「まず第一に、何故お前を天茉だと勘違いしているんだ?」
「それはつまり、僕が誰なのかって話ですよね。僕は天華と天茉、その二人と昔から仲がよかった友達です。周囲からは、僕と天茉があまりに似ていたので本当は三つ子なんじゃないか、とか言われてました」
「確かに自分と似てる人って全くいないからなぁ」
蓮が苦笑い混じりにそう言った。
「天華はドジなので、たまに本当の弟と僕を見間違える程だったですよ」
「色んな意味であの子やばいぞそれ…」
「そうですね」
やっと天茉(仮)が笑みを浮かべて、少し安心した。
だがそれもつかの間で、すぐに話が元に戻った。
「天華はその事件以降、記憶が混乱しているのか、僕を天茉だと思い込み、本当の僕の存在はなかったことにされています」
「お、おい……それって悲しくないのかよ……」
「……もちろん、僕も最初は戸惑いを隠せなかったです。でも大切な友達がそれで幸せなら、合わせようと思いまして……」
「……まぁ、優しいんだな」
「ですが、最近は何だか考え込むことが多くなってる気がするんです」
「天華が?」
「はい……だからもしかして僕のことに気付きつつあるのではと思いまして……」
「確かに俺も天華のぼーっとしてるところとか見かけること多くなったなぁ」
「まぁ気付いていようといなかろうと、蓮さんには話すつもりでいました」
「でも、なんで俺なんだ?」
「何だか、長いこと一緒にいたわけじゃないのにすごく信用してるっていうか…」
信用されるようなことをした覚えもなかったが、他人からそんなことを言われたのはほとんどなかったがために嬉しかった。
少しばかり照れるような感じがした。
「……とにかく、天華が僕のことを思い出すのは時間の問題だと思います。でも僕には何もできることがなくて……」
「まぁ……あれだ。何かしようとか、してあげようとか、そんなこと考えてるぐらいならあいつと一緒にいてあげたほうがいいんじゃないか? きっと天華もお前と一緒にいたいって思ってるだろう。それが例え、本当の天茉じゃなかったとしても、だ」
だが今はそうやって切り抜けられるが、天茉の言った通りこれは時間の問題だろう。もし天華が本当のことに気付いてしまったら、その時は……その時は……
────わからないが、きっと何とかなるだろう。気にしてばかりいたらこんな世界じゃ生きていけない気がする。
「……そうですね。とにかく、今は彼女の弟、天茉として天華に付き添うことにします。ですが、もし彼女が絶望に陥ってしまったら……その時はお願いします」
「出来る限りのことはするさ」
天茉が微笑む。実に愛らしい。
「蓮さん。この話は他言無用でお願いします。約束ですよ?」
「わかってるって」
「あとは今まで通り、僕のことは天茉として扱ってください」
「当然だ。安心してくれ」
先程までの重い空気はなくなり、緊張が消えていく。
結局昼寝はできなかったが、天茉と仲良くなるいいきっかけになったと思う。正直、さっきの話をまだ信じきってはいないが、嘘ではないことは確かだ。
俺にできることは死んででもやってやろう。誰かのために……
いつしかそんなことを思うようになっていた。
まぁせっかくだしゆっくり昼寝でも────と思ったのもつかの間。誰かがドアをノックし、天茉の声が聞こえてくる。
「少し…お時間いいですか?」
「あぁ、入っていいぞ」
天茉が静かにドアを開け、蓮の部屋にあるソファに腰掛けた。
「すいません、お昼寝しようとしてましたよね。顔が眠たげです」
「エスパーかよお前は……」
天茉の鋭さに驚きつつ、本題に入る。
「それで、どうかしたのか?」
「あ、はい…その前に、確認させてください」
「……何をだ?」
途端に天茉の表情が険しくなり、空気が固くなった。
「僕と姉の天華。蓮さんにはどんな姉弟に見えますか」
唐突な質問に少し戸惑った。何故そんなことを聞くのだろうか。
「まぁ、普通に仲のいい双子…じゃないか?」
「……なら結構です」
いまいちわからない子だとか少し思った。
「これから話すことは蓮さんにしか話すつもりはありません。そしてまた、蓮さんも他の誰かにこの事を話すなんてことはしないでください。それほど真剣で重要なことなので」
「あ、あぁ。了解した」
今のひとことでこれから話すことがどれだけ真剣なのかが伝わってくる。
「……単刀直入に言います。だいぶ昔のことですが、僕達双子にある事件が起きました。その時に僕は、ナイフでお腹を刺されました。────いえ、正しく言うと、僕ではなく、本物の天茉。本当の彼女の弟さんがその時殺されました」
「えっと……唐突すぎてよくわかんないんだが」
「簡単に言えば、僕は天茉ではありません。天茉によく似た他人ってことです」
「ま、待て……お前が天茉じゃないって……は……? 悪い冗談はやめろよ。笑えねぇぞ」
「冗談なんかじゃありません。事実です」
「……じゃあ、お前は誰なんだ……? 天茉はどこに?」
意味がわからない。だが天茉が嘘を言うわけがない。いや、こいつは天茉ではない……のか。
突然のことで頭がこんがらがってきた。
「天茉は死んでいます。ですが、天華は僕を本物の天茉だと勘違いしています」
「……もう一度確認していいか? 冗談じゃないんだよな?」
「はい。紛れもない事実です」
信じ難い話だが、偽物の天茉の表情から伺うに、本当のことみたいだった。
「ですが、まだそこまではいいんです。僕が誰であろうと今はいいんです」
「よくない気もするが……まぁいいか……続けてくれ」
「一番の問題は、天華が本当のことに気付きつつあることです」
「本当のことっていうと……天茉が死んでいるっていう事実か?」
「その通りです。きっと彼女が本当のことを知ってしまえば……いや、思い出してしまえば、今までみたいに過ごすことが出来なくなりそうで、怖くて……」
「……とりあえず、頭の中を整理してもいいか?」
急展開すぎる。頭が話についていかない。
「まず第一に、何故お前を天茉だと勘違いしているんだ?」
「それはつまり、僕が誰なのかって話ですよね。僕は天華と天茉、その二人と昔から仲がよかった友達です。周囲からは、僕と天茉があまりに似ていたので本当は三つ子なんじゃないか、とか言われてました」
「確かに自分と似てる人って全くいないからなぁ」
蓮が苦笑い混じりにそう言った。
「天華はドジなので、たまに本当の弟と僕を見間違える程だったですよ」
「色んな意味であの子やばいぞそれ…」
「そうですね」
やっと天茉(仮)が笑みを浮かべて、少し安心した。
だがそれもつかの間で、すぐに話が元に戻った。
「天華はその事件以降、記憶が混乱しているのか、僕を天茉だと思い込み、本当の僕の存在はなかったことにされています」
「お、おい……それって悲しくないのかよ……」
「……もちろん、僕も最初は戸惑いを隠せなかったです。でも大切な友達がそれで幸せなら、合わせようと思いまして……」
「……まぁ、優しいんだな」
「ですが、最近は何だか考え込むことが多くなってる気がするんです」
「天華が?」
「はい……だからもしかして僕のことに気付きつつあるのではと思いまして……」
「確かに俺も天華のぼーっとしてるところとか見かけること多くなったなぁ」
「まぁ気付いていようといなかろうと、蓮さんには話すつもりでいました」
「でも、なんで俺なんだ?」
「何だか、長いこと一緒にいたわけじゃないのにすごく信用してるっていうか…」
信用されるようなことをした覚えもなかったが、他人からそんなことを言われたのはほとんどなかったがために嬉しかった。
少しばかり照れるような感じがした。
「……とにかく、天華が僕のことを思い出すのは時間の問題だと思います。でも僕には何もできることがなくて……」
「まぁ……あれだ。何かしようとか、してあげようとか、そんなこと考えてるぐらいならあいつと一緒にいてあげたほうがいいんじゃないか? きっと天華もお前と一緒にいたいって思ってるだろう。それが例え、本当の天茉じゃなかったとしても、だ」
だが今はそうやって切り抜けられるが、天茉の言った通りこれは時間の問題だろう。もし天華が本当のことに気付いてしまったら、その時は……その時は……
────わからないが、きっと何とかなるだろう。気にしてばかりいたらこんな世界じゃ生きていけない気がする。
「……そうですね。とにかく、今は彼女の弟、天茉として天華に付き添うことにします。ですが、もし彼女が絶望に陥ってしまったら……その時はお願いします」
「出来る限りのことはするさ」
天茉が微笑む。実に愛らしい。
「蓮さん。この話は他言無用でお願いします。約束ですよ?」
「わかってるって」
「あとは今まで通り、僕のことは天茉として扱ってください」
「当然だ。安心してくれ」
先程までの重い空気はなくなり、緊張が消えていく。
結局昼寝はできなかったが、天茉と仲良くなるいいきっかけになったと思う。正直、さっきの話をまだ信じきってはいないが、嘘ではないことは確かだ。
俺にできることは死んででもやってやろう。誰かのために……
いつしかそんなことを思うようになっていた。
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