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日記
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しおりを挟むしかし、今にして思えば、そこまでする必要があったのかと首を傾げてしまう。あいつは俺を誘うためにあんな真似をしたのではないかと勘繰っている。
あわよくば、あのまま俺と一戦交えようと考えていたのかもしれない。やはり、怖ろしい奴だ。
俺は、鳴神が雀荘勤めの大学生だとばかり思っていたが、
「そんなの嘘に決まってるじゃないか」
と言って笑われた。じゃあ何なのかと訊いたら、本業は拝み屋だと答えた。
「拝み屋で、雀荘勤めなのか」
「ここは雀荘じゃないよ。雀荘を装っているだけ。お国の仕事をしてるから、公にできないことも色々とあるんだよ。僕は喫茶店とか食事処が良かったんだけどね。各地にあるんだよ、こういう場所が。寄り合い所みたいなものだよ」
何だか、きな臭いので、これ以上は訊かなかった。今も、知らない方が良さそうな気がしているのだが、それでは誘いが消えて情事に及べないではないか、と思ってしまうのが危ない。俺は、男としての難所に差し掛かっている気がしてならない。
冷静に考えてみれば、あいつは半分女な訳だし構わないように思うのだが、残り半分は男なのでやはり問題があるように思えてしまう。俺は思ったよりも頭が固いようだ。
最後だが、鳴神はやはり人を殺していた。
俺を殴った、あの悪人面したハゲ頭は、鳴神の手で殺されていた。
「僕は、殺しも請け負っているからね」
鳴神は平然と言ってのけた。
依頼主は、国家要人のみならず一般人の中にもいて、引き受けるかどうかは鳴神の気分次第だという話だった。
「気が乗らない殺しはしないよ。一般人が依頼してきたときなんかは、むしろ依頼主を殺すことの方が多いね。殺しの依頼なんてのはさ、大体、する方に問題があるんだよ」
殺すにしても、自分の倫理観と照らし合わせるという話だが、俺は頭を抱えた。どのような理由であれ、法がある以上、一個人がそれを無視して人を殺して良いはずがない。
私刑の委託ではないか。そう思ったが、話を進めるうちに心が揺らいだ。
鳴神いわく、俺を殴ったあのハゲ頭は、ペドファイルというものだったという。小児性愛者、或いは、児童性愛者と鳴神が教えてくれた。俺は言葉を聞いただけで胸がむかついたが、鳴神は偏見を持つからそういう風に感じると言った。
「ぺドファイル自体には悪はない。毛嫌いするのは差別だよ」
と前置きして、鳴神は説明を始めた。
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