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日記
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しおりを挟む一眠りして、真夜中を少し回ったところで目が覚めたので、例の如く、蝋燭の明かりを頼りに日記を書き始めた。まずは、前日の続きから書くことにする。
俺が外で一服を済ませ、部屋に戻ってから一時間ほどして、鳴神が疲れ果てた様子で帰ってきた。その時点での時刻は午後六時半過ぎ。俺の予想より、一時間半ほど遅れていた。
だが、それも当然と言えば当然。当てずっぽうの好い加減な予想を立てているから、合う訳がないのである。
少し考えれば分かることだが、離れ屋に近いところから罠を仕掛けていけば、一つ目より二つ目、二つ目より三つ目と、徐々に罠を設置する位置が離れ屋から遠ざかっていく。
離れ屋から遠ざかるということは、その分、移動する距離が伸びるということで、距離が伸びれば伸びただけ、往復に掛かる時間も増していく。
必然的に、後になるほど離れ屋に戻る時間が遅くなっていくという事になる。
まして、ただ上っているという訳でもない。あんな重い麻袋を三つも担いでいる上に、罠を仕掛けながら進まなくてはいけない。
遭難しないように道の把握もしなくてはいけないし、あまつさえ、ただの山ではない。
何が出るか分からないのだから、十分な警戒も必要になる。加えて、帰り道には自分の仕掛けた罠がある。
注意を怠って踏んでしまえば大怪我だ。
これだけ苦労があれば、疲労の溜まりも早いだろう。その影響で、作業能率が落ちたとしても何ら不思議はない。
実際に同道した訳ではないので、すべては推測に過ぎないのだが、少なくとも俺にはとても真似できないことだと思った。
想像してみたのだが、途中で遭難したり、崖を滑落したり、熊に襲われたり、罠を踏んだり、疲労で倒れたりして、ことごとく死んでしまった。浅はかな予想で、勝手に遅いと思った自分を恥じている。
飯の時間を差し引けば、鳴神が仕事に要した時間は九時間。早い遅い云々というより、この暑い中、九時間も体を酷使しているのがすごい。
やはり、鳴神は傑物なのだ。これだけの難題を、途中でやめることなくやり遂げしまうのだから、そう書いたとしても、決して大袈裟ではないだろう。
やり遂げたと書いたのは、罠を仕掛ける作業が終わったと見ているからだ。
トラバサミ入りの麻袋はまだ二袋残っているが、それは予備のような気がしている。
鳴神の性格上、そういう備えを残すのではないかと勝手に思っている。
推し量らずとも、朝になれば分かることなので、今は措いて、鳴神が戻ったときのことを書く。
俺は、離れ屋に戻った鳴神に、
「お帰り、お疲れさん」
と、労いの言葉をかけた。すると鳴神が、
「ただいま」
と苦笑交じりに返し、
「良さん、悪いけど、今日も泊めてくれ」
と続けた。
俺は最初からそのつもりでいたので快諾した。
まだ日暮れ前だったが、山は暗くなりだすと早い。すぐに漆黒の闇に覆われて何も見えなくなる。時間的にも今日は終わりだろうと思っていたが、その読み通りになった。
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