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日記
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しおりを挟む七月二十八日(水)以降記述 鳴神百鹿
先日、良さんが死んでしまったので僕が後を引き継いで書くことにした。
遺産の相続については、彼の祖父、源一郎氏の承諾を得た。代わりに、彼の遺言に従い二人のことは見逃すと確約した。
僕も彼のことは分かっていたつもりだが、彼もまた僕のことを理解してくれていたらしいことが分かってより辛かった。
しかし、実に惜しい人をなくした。僕が配慮を怠らなければ、彼を失うことはなかったかもしれない。喪失感と後悔の念に苛まれている。
僕は本当に彼を愛していたのだと、失ってより深く知ることになった。
日記を読んだが、彼はやはり非凡な才能の持ち主だと驚かされた。洞察力、推理力、記憶力に優れている。特に会話の内容や流れに関しては圧巻としか言えない。よくもここまで記憶していたものだと目を見張った。
推理力もそうだ。彼が生きていたなら、僕の伴侶兼助手として働いて欲しかった。
ただ、彼は自分の矛盾に気づいていない。
僕もこの日記を読むまではその矛盾にまったく気づかなかったが、まだ憶測としか言えないため、それについては明日、確かめてから書くことにする。
彼の遺体についてだが、源一郎氏と話し合ったところ、先に記してある事情もあり、通夜、葬儀は行えないとのことだったので、僕が貰うことにした。
これを書いている間も悩んでいたが、試すことに決めた。道教泰山府君の儀と、僕なりの解釈で紐解いた密教呪術との混合反魂術。
望み薄だが、上手くいけば、彼を此の世に呼び戻せるかもしれない。
手筈が整い次第、儀式を行おうと考えている。
彼の二親、祖母、それに蔵にあった遺体は荼毘に伏すことにした。
山で殺した蜘蛛人たちは裸にして土葬した。トラバサミの回収も済んだ。欺影虫の出てくる彼此繋穴も閉じた。
しばらく山を封鎖するよう、既に国の偉いさんには連絡を入れてあるし、警察の仲立ちも頼んだ。僕の仕事はこれで終わりだ。
すべての準備を、今日一日で済ませた。源一郎氏が協力してくれたので、思いのほか早く準備が整った。彼の二親の確認も、源一郎氏が行ってくれなければできなかった。
どうせ終わればすべて灰になるのだから気にすることもないのだが、もし良さんが生きていれば、そういうところにも気を遣うのではと思ったので、彼の家族だけは区切って荼毘に伏す。
場所は離れ屋だ。火葬場代わりにして良いと源一郎氏が言ってくれたので、短い思い出と一緒に焼き払うことにする。
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