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第一章 シュンジュ編
神は見ている(1)
しおりを挟む〈神域でレクタスの覗き見を始めるフェリルアトス〉
真っ白で広大な僕の部屋──神域で、御使いの自動管理機能では行えないレクタスの管理業務を一旦終えた僕は、日課になりつつあるイスカの覗き見を始めた。
神域を出てもう八日目。暇を見てちょこちょこ確認していたけど、今日は当代最高レベル保持者のゲイロードと、転移者の生き残りであるアメリアと接触したようだ。
ゲイロードとアメリアがスウ氏族国家に入ったのは知ってたけど、まさか巡り会うとはね。これはイスカにとって最も危うい繋がりになったかもしれない。
さて、どう転ぶかな。僕としては敵対してほしくないけれど、一度目と違って転移者のアーケイディアに対する恨みは強い。彼らが真実を知ったらどうなるか。
はぁ。『どうなったかは自分で確かめて』か。よく言えたもんだよまったく。非を認めたくなくてイスカには言えなかったけど、明らかに僕の責任だ。
それに『彼女』にも悪いことをした。ただでさえ分の悪い賭けなのに。よりややこしくしてしまった。複雑化させる気はなかったんだけど。配慮が足りなかったよ。
アメリアを含む転移者三人は、かつて『彼女』と『その子供二人』と共にパーティーを組み、ラストダンジョン攻略時に最下層で死亡したメンバーだ。
吾妻信。二十八歳。日本人。現在はイスタルテ共和国に本社のあるGS社の社長であり国家運営を行う合議体に属するラスコール社長の警護人を務めている。
アメリア・シルヴェン。二十二歳。フィンランド系アメリカ人。現在はゲイロード帝国初代皇帝であり当代最高レベル保持者でもあるゲイロードと行動を共にしている。
クリシュナ・チャンドラー。インド系日本人。三十二歳。現在は六氏族国家同盟のアル氏族国家の氏族長であるルォシー・アルの警護人を務めている。
唯一の制覇者である『彼女』を驚かす為に、ラフィにその三人だけは絶対に救うように厳命したけれど、まさかその三人しか生き残らないとは思わなかった。
これはアーケイディア王国を舐めていた僕の失態だ。一度目を超える世界への干渉を避ける為だったとはいえ、ラフィの他にも『御使い』を何体か用意すべきだったよ。
もう遅いけどね。
おそらく、イスカも転移者の生き残りが三人であることをアメリアに聞かされることになるだろう。斡旋所の会話で、そうなるような流れができていたから。
『彼女』の行った『リセット』によって失われた命を、イスカはどう思うだろうか。彼のことだから、きっと背負うべき業と捉えてしまう気がする。
僕の所為にすれば良いだけなのに。不器用な奴だよまったく。
それにしても、今日はなんだか様子がおかしいな。
ムーシェンの仲間がイスカを監視してるみたいだ。数も多い。
嫌な感じだ。イスカはゲイロードたちと一緒だから大丈夫だろうけど、縁のできた人たちになにか悪いことが起こるかもしれない。
そうだな、今日は他の人を優先して見てみよう。ええと、まずは……。
ふむふむ、オンソウとヨウリンは朝食をとっているようだ。あれは粥だね。
会話によると、どうやら今日は家でゆっくり過ごすみたいだね。
タイランは庭で水浴びしてるな。メイメイは台所で調理中か。
これから朝食のようだ。この二人もオンソウ夫妻と変わらない感じだね。
ソンリェンとユーエンは寝てる。いびきも寝相もすごいな。
この二人は適当だからなぁ。ドロップアイテムの拾い忘れは笑わせてもらったっけ。イスカが怒るのも無理はないよ。なんのためにダンジョンに行ってるんだよってね。
あとはハオランだけど、おや、斡旋所にいるね。
イスカと入れ違いになったみたいだ。シンイーが首を傾げてる。
「あれ? どうしたのさハオラン。今日は休みじゃなかったのかい?」
「あ、うん。そうなんだけど……」
もじもじするハオランに、シンイーがにやりと笑った顔を向ける。
「ははぁ、イスカに会いたくて来たんだね?」
ハオランが俯いて顔を真っ赤にする。イスカは察しが良い癖に鈍感なところがあるからまだ気づいていないけど、ハオランは女の子なんだよね。多分、初恋中の。
いじられ慣れてないからか、ハオランはまだ俯いたままでいる。
それを見ていたシンイーが、しょうがないねぇとでも言いたげに苦笑する。
「残念だけど、イスカはいないよ」
「え? もう出て行っちゃったの?」
シンイーがカウンターに頬杖をつき、面白くなさそうに溜息を吐く。
「流れ者のでっかい爺さんと姉ちゃんに気に入られて連れてかれちまったよ」
「え?! どういうこと?!」
「ダンジョン攻略に付き合ってほしいみたいだったよ。心配しなくても、ありゃ今日だけの臨時パーティーさ。次に誘われても、多分イスカは断ると思うよ」
「あ、そ、そうなんだ」
「ふふぅん、それでぇ? 今日はどうするつもりだったんだい?」
「へ?! えっと、い、一緒に、ご飯を食べようかなって」
慌てるハオランを見てシンイーが眉を下げて笑う。とても嬉しそうだ。
うん、二人とも良いね。僕まで嬉しくなるよ。
実はイスカをこの街に置くにあたって、状況の確認が必要だったから、ちょっと前から斡旋所の様子を見させてもらってたんだよね。
だからハオランが女であることを隠すように提案したのも、危険な目に遭わないように男物の服を着るように指示したのも、可愛らしい顔をごまかす為に大きな眼鏡をかけさせたのもシンイーだって僕は知ってる。
ハオランが斡旋所に登録しに来たときから、シンイーはずっとハオランの面倒を見てきた。僕の目から見れば、心配性で過保護な姉と年の離れた従順な妹。
見ていてとても心地の良い二人なんだ。幸せになってもらいたい。
うん、特に問題はなさそうだ。それじゃあムーシェンの様子を確認して──。
む?
僕が視点を切り替えようとしたとき、斡旋所の扉が乱暴に開け放たれた。
「た、助けて!」
おや、ムーシェンの取り巻きの一人。魔術師風の女だね。
名前はランズだったかな。血相を変えてどうしたんだろう?
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