イスカソニア~異世界で十歳に転生した中年の俺が無能と呼ばれる子供と出会ってからの話~

月城 亜希人

文字の大きさ
33 / 101
第一章 シュンジュ編

神は見ている(1)

しおりを挟む
 
〈神域でレクタスの覗き見を始めるフェリルアトス〉


 真っ白で広大な僕の部屋──神域で、御使いの自動管理機能では行えないレクタスの管理業務を一旦終えた僕は、日課になりつつあるイスカの覗き見を始めた。
 神域を出てもう八日目。暇を見てちょこちょこ確認していたけど、今日は当代最高レベル保持者のゲイロードと、転移者の生き残りであるアメリアと接触したようだ。

 ゲイロードとアメリアがスウ氏族国家トライブに入ったのは知ってたけど、まさか巡り会うとはね。これはイスカにとって最も危うい繋がりになったかもしれない。

 さて、どう転ぶかな。僕としては敵対してほしくないけれど、一度目と違って転移者のアーケイディアに対する恨みは強い。彼らが真実を知ったらどうなるか。

 はぁ。『どうなったかは自分で確かめて』か。よく言えたもんだよまったく。非を認めたくなくてイスカには言えなかったけど、明らかに僕の責任だ。

 それに『彼女』にも悪いことをした。ただでさえ分の悪い賭けなのに。よりややこしくしてしまった。複雑化させる気はなかったんだけど。配慮が足りなかったよ。

 アメリアを含む転移者三人は、かつて『彼女』と『その子供二人』と共にパーティーを組み、ラストダンジョン攻略時に最下層で死亡したメンバーだ。

 吾妻アガツマシン。二十八歳。日本人。現在はイスタルテ共和国に本社のあるGS社の社長であり国家運営を行う合議体に属するラスコール社長の警護人を務めている。

 アメリア・シルヴェン。二十二歳。フィンランド系アメリカ人。現在はゲイロード帝国初代皇帝であり当代最高レベル保持者でもあるゲイロードと行動を共にしている。

 クリシュナ・チャンドラー。インド系日本人。三十二歳。現在は六氏族国家同盟リウトライブユニオンのアル氏族国家トライブの氏族長であるルォシー・アルの警護人を務めている。

 唯一の制覇者である『彼女』を驚かす為に、ラフィにその三人だけは絶対に救うように厳命したけれど、まさかその三人しか生き残らないとは思わなかった。

 これはアーケイディア王国を舐めていた僕の失態だ。一度目を超える世界への干渉を避ける為だったとはいえ、ラフィの他にも『御使い』を何体か用意すべきだったよ。

 もう遅いけどね。

 おそらく、イスカも転移者の生き残りが三人であることをアメリアに聞かされることになるだろう。斡旋所の会話で、そうなるような流れができていたから。
『彼女』の行った『リセット』によって失われた命を、イスカはどう思うだろうか。彼のことだから、きっと背負うべき業と捉えてしまう気がする。

 僕の所為にすれば良いだけなのに。不器用な奴だよまったく。

 それにしても、今日はなんだか様子がおかしいな。
 ムーシェンの仲間がイスカを監視してるみたいだ。数も多い。

 嫌な感じだ。イスカはゲイロードたちと一緒だから大丈夫だろうけど、縁のできた人たちになにか悪いことが起こるかもしれない。

 そうだな、今日は他の人を優先して見てみよう。ええと、まずは……。

 ふむふむ、オンソウとヨウリンは朝食をとっているようだ。あれは粥だね。
 会話によると、どうやら今日は家でゆっくり過ごすみたいだね。

 タイランは庭で水浴びしてるな。メイメイは台所で調理中か。
 これから朝食のようだ。この二人もオンソウ夫妻と変わらない感じだね。

 ソンリェンとユーエンは寝てる。いびきも寝相もすごいな。
 この二人は適当だからなぁ。ドロップアイテムの拾い忘れは笑わせてもらったっけ。イスカが怒るのも無理はないよ。なんのためにダンジョンに行ってるんだよってね。

 あとはハオランだけど、おや、斡旋所にいるね。
 イスカと入れ違いになったみたいだ。シンイーが首を傾げてる。

「あれ? どうしたのさハオラン。今日は休みじゃなかったのかい?」
「あ、うん。そうなんだけど……」

 もじもじするハオランに、シンイーがにやりと笑った顔を向ける。

「ははぁ、イスカに会いたくて来たんだね?」

 ハオランが俯いて顔を真っ赤にする。イスカは察しが良い癖に鈍感なところがあるからまだ気づいていないけど、ハオランは女の子なんだよね。多分、初恋中の。

 いじられ慣れてないからか、ハオランはまだ俯いたままでいる。
 それを見ていたシンイーが、しょうがないねぇとでも言いたげに苦笑する。

「残念だけど、イスカはいないよ」
「え? もう出て行っちゃったの?」

 シンイーがカウンターに頬杖をつき、面白くなさそうに溜息を吐く。

「流れ者のでっかい爺さんと姉ちゃんに気に入られて連れてかれちまったよ」

「え?! どういうこと?!」

「ダンジョン攻略に付き合ってほしいみたいだったよ。心配しなくても、ありゃ今日だけの臨時パーティーさ。次に誘われても、多分イスカは断ると思うよ」

「あ、そ、そうなんだ」

「ふふぅん、それでぇ? 今日はどうするつもりだったんだい?」

「へ?! えっと、い、一緒に、ご飯を食べようかなって」

 慌てるハオランを見てシンイーが眉を下げて笑う。とても嬉しそうだ。

 うん、二人とも良いね。僕まで嬉しくなるよ。

 実はイスカをこの街に置くにあたって、状況の確認が必要だったから、ちょっと前から斡旋所の様子を見させてもらってたんだよね。

 だからハオランが女であることを隠すように提案したのも、危険な目に遭わないように男物の服を着るように指示したのも、可愛らしい顔をごまかす為に大きな眼鏡をかけさせたのもシンイーだって僕は知ってる。

 ハオランが斡旋所に登録しに来たときから、シンイーはずっとハオランの面倒を見てきた。僕の目から見れば、心配性で過保護な姉と年の離れた従順な妹。

 見ていてとても心地の良い二人なんだ。幸せになってもらいたい。

 うん、特に問題はなさそうだ。それじゃあムーシェンの様子を確認して──。

 む?

 僕が視点を切り替えようとしたとき、斡旋所の扉が乱暴に開け放たれた。

「た、助けて!」

 おや、ムーシェンの取り巻きの一人。魔術師風の女だね。
 名前はランズだったかな。血相を変えてどうしたんだろう?
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...