50 / 101
第二章 レッキス編
義父との二人旅(2)
しおりを挟む「【自動地図】が狂うなんてことあるんですか?」
「いや、初めてだ。だから参ってる。『暗黒地帯』という、光源も意味をなさなくなる場所では【自動地図】どころか何一つ見えなくなって迷うことはあるんだが、今回はそうではないからな。どうしたものか」
「暑いですし、下手に動き回るのも良くないですよね……」
俺とノルトエフはGS社製の黒い装備品に身を包んでいる。
革製のグローブとブーツ、体に密着する戦闘服。そして森林迷彩の施された軽鎧装甲というプロテクターのような装備品。
俺は汎用型のG弐型で、ノルトエフは魔力増強型のM弐型。
GS社の本社で、社長のラスコールとその娘のスカーレット、あと転移者の吾妻信と顔合わせついでに揃えてもらった。武器のトンファーも。代金は出世払いだ。
シンについてはソニアから聞いて知っていた。
一度目の人生のパーティーメンバーだったとか。
シンの方も俺のことを知っていた。アメリアからソウルカードのメッセージ機能で伝えられていたらしい。ただソニアが転生者だとは気づいていないようだった。
ソニアは伝える気がないのだという。
自分だけが思い出を持ってるなんて難儀な話だよな。
複雑な気分になったが──それは今どうでもいい。
とにかくワサワサ大森林は熱帯気候なので、これだけ着こんでいればかなり暑い。
ノルトエフも温度調節の魔術式を刻んでこれば良かったと嘆いている。
かといって、脱ぐわけにもいかない。
俺もどうして気温について考えなかったのかと悔いている。
事前の準備を怠るとこういう目に遭うとわかっていたのに。
したたる汗を手で拭いながら、どうしたものかと思案しているとワサワサと草が揺れた。俺たちは音の聞こえた方に向き直って身構える。
森に足を踏み入れてから様々な鳴き声が聞こえていた。
今のところ、蝶や蟻などの小さな虫や、トカゲやカメレオンに似た手の平サイズの臆病な生物しか目にしていないが、攻撃的な魔物と遭遇することも大いに有り得る。
時折、視線を感じたり【孤高の野人】の気配察知で敵意を感じる強い気配を捉えていた。ただかなり気配を隠すのが上手いようで、数秒しか捉えられなかった。
もしかすると、そいつかもしれない。
そう思うが、気配から敵意は感じられない。
別ものか?
いや、油断は禁物だ。偽装している可能性もある。
いよいよかと俺は体を強張らせる。が、草むらをかきわけて出てきたのは、長い白髪に覆われた頭から兎耳を生やした肌の浅黒い少女だった。
「ぴゃ!」
少女は俺たちを目にした瞬間、そんな声を上げ、驚いた顔で兎耳と体をピーンと伸ばした。俺よりかなり小さい。四五歳くらいに見える。
ほとんど人と同じだが、鼻と口がやや兎寄り。着ているのは月の模様の入った薄手の民族衣装で、話に聞いていたレッキス族の特徴と一致していた。
俺とノルトエフは敵意がないことを示す為に構えを解いて両手を軽く上げた。
「やぁ、驚かせてすまないね。君は、レッキス族の子で合ってるかい?」
ノルトエフが微笑み、優しい声で訊ねる。すると少女は、はっとした様子で警戒心を露にし、腰に帯びていた短刀の鞘に手を当てた。
「待ってくれ。こちらに敵対の意思はないんだ。君たちから『パカの根』を買いに来たんだよ。交換できる食べ物もいっぱい持ってきてる。ほら」
ノルトエフがストレージから人参やキャベツを取り出して見せる。俺もストレージから林檎とビスケットの入った袋を取り出して前に出す。
少女は林檎に軽く顔を寄せ、ヒクヒクと鼻を動かした後で、腰に下げた小さな袋からいそいそと茶色い植物の根らしきものを取り出し、俺たちに差し出した。
「コレ、カジル」
「これは?」
「パカ、ネッコ。オマエラ、ゲンカク。コレ、カジル、ナオル」
「ゲンカク? ああ、そういうことだったか……!」
ノルトエフが合点がいったという様子で数回細かく頷き、少女からパカの根を受け取って口に放り込む。そして俺にも一つ手渡した。
「イスカ、これを噛め。『幻覚』を解除してくれる」
「え? もしかして状態異常にかかってたってことですか?」
「どうやらそうらしい。かじってみろ。驚くぞ」
受け取ったパカの根は細いゴボウのような見た目をしていた。嗅ぐとシナモンのような香りがしたので、特に抵抗なく口に入れることができた。
かじると僅かな渋みと苦みが口に広がり、芳醇な香りが鼻を抜ける。
まるでブラックコーヒーのような味わいに驚いているうちに、視界から徐々に木々が消えていき少し先で森が開けているのが見えた。
更に先にはノルトエフの車。
悪路走行の二人旅なのでオフロード型の魔機銃付き四輪駆動装甲車。普段使用している十輪装甲カーゴはGS社の地下駐車場に預けてある。
「うわぁ、すぐそこが出口だったんですね」
「ああ、狂っていたのは【自動地図】じゃなくて俺たちの方だったんだ」
ノルトエフが眉根を寄せて言った後で、少女に顔を向ける。
「ありがとう。助かったよ。よかったら集落に案内してもらえないかな?」
「イイゾ。ツイテコイ。オイ、オマエ、ソレクレ」
少女が林檎を指差したので渡すと、嬉しそうに一口かじってから「ウマイナ。コレ、ウマイナ。ウヒヒ」と嬉しそうに笑って軽快に歩き出した。
俺とノルトエフは一度顔を見合わせてから苦笑して少女の後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる