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静かな森の出会い編

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「いちゃーい!」

「大丈夫⁉ えっ、洞窟?」

 ルシウスが私を抱え起こして周囲を見渡す。
 私への心配は一瞬で済ませられたかと思ったけど、やっぱりルシウスは優しかった。
 すぐに私のドレスから土を払い落として無事を確認してくれた。

「怪我は、ないようだね。地面が土で良かった」

 本当だわ。言われて初めて気づいた。
 もしゴツゴツした岩だったら大怪我してたかもしれない。

 頭なんて打ってたら大変だったわ。慎重にしなきゃ駄目ね。
 ただでさえ、幼児で魔法が使えないってハンデを背負ってるんだから。

「取り敢えず、中を……え⁉」

 ルシウスが洞窟の奥を見て動きを止めた。
 私もその方向へ目を向ける。
 闇の中に、二つの光が並んでいた。
 それは段々と大きくなってきた。獣の唸り声も微かに聞こえる。
 蔓の隙間から差し込む光の中に、黒い毛に覆われた前足が出てくる。

《ほお、珍しい。人間か》

 姿を現したのは、大きな黒い狼だった。
 私の目には黄色い光が映る。注意した状態の魔物ね。
 ルシウスが素早く私の前に立つ。そして腰に帯びた鞘から短剣を抜いた。

「ノイン、僕の後ろに隠れてるんだよ!」

 はあっ、もう、最高! なんなのこの皇子様!
 昔憧れたすべてが詰まってる!

 ただ、私の視界がお尻で埋められるのはよろしくないわ。
 かわいいお尻だけど、胸キュンが半減しちゃう。

 ルシウスの勇姿を見るなら……あそこね!

 私はよちよち駆けて、最も良いアングルになる位置に陣取った。
 ここならルシウスと狼の両方が見えるわ。
 ルシウスも狼もビクッてしたけど、お気になさらず。

「ノイン⁉ 何してるんだ⁉」

《変わった奴だ。自分から俺に近づいてくるなんてな》
 
 狼が嘲笑するように鼻を鳴らす。
 それはそうよね。自分の方が明らかに強いものね。
 だけど、その油断が命取りよ。

 こっちは伊達に長く生きてない。考えなしに動くわけないでしょ。
 援護できるように、視界が広くとれる場所に移動したのよ。
 だって、ルシウス一人に任せるわけにはいかないもの。
 彼はまだ子供。守ってあげる存在が必要なんだから。

 私は手の平を前に出して、魔物の言葉で呼び掛けた。

《シクレア、出てきて!》

 手の平の上に、シクレアが出てきて構える。
 すぐに状況を察してくれたようで、臨戦態勢をとってくれた。

《ノイン、興味深いときに呼んでくれるわね。大ピンチって感じじゃない》

《そうなの。悪いけど力を貸して》

《もちろんよ。大事な友だちだもの》

《ありがとう、シクレア》

 私は地面に落ちていた石を拾う。シクレアはぴょんと肩に飛び移った。
 前を向くと、ルシウスと狼がぽかんとしていた。

《お、おい。お前、今、喋ってなかったか⁉》

「ノイン、肩にマンティスベビーが、いや、えっと」

「ルチウちゅ、落ち着いちぇ。わちゃしに、まかせちぇ!」

 ルシウスに声を掛けたあとで、私は狼に向き直る。
 チェックさせてもらうわよ。

【名称】シャドウウルフ 
【真名】???
【種族】魔獣
【性別】オス
【魔物ランク】D
【スキルA】影斬
【スキルB】隠身
【スキルC】???
【スキルD】???
 
 隠身って、なんだか私たちに必要な気がするスキルね。
 よし、交渉開始よ。
 
 
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