25 / 117
静かな森の出会い編
12
しおりを挟む*
目覚めると、洞窟の部屋の中にいた。
どうやらルシウスが運んでくれたらしい。
側で寝息をたてていた。とても、かわいい寝顔だ。
いつまでも見ていたいけど、そういうわけにもいかない。
シャドウウルフたちがどうなったか見に行かないと。
私は眠気を我慢してふらふらと立ち上がり、暗がりの中を歩いた。
寝ていたからか、目は闇に慣れていた。
お陰で椅子やテーブルに体をぶつけることなくドアの前に行けた。
そっとドアを開けて部屋を出ると、シャドウウルフが蹲っていた。
体にいくつも傷がある。深くはなさそうだけど、毒が回ってるのよね。
早く治療しないと。
歩み寄ると、シャドウウルフが気だるそうに私の方へ顔を向けた。
《起きたのか》
《えぇ、ごめんなさい。レッドキャップは?》
《ああ、どうにか殺せたが、このざまだ》
シャドウウルフの傍らには、ゲルナ草があった。
私はそれを拾い上げる。
《これ、積んできてくれたの?》
《いや、あの人間がくれた》
ルシウスが……。
あの少年皇子は、一体どれだけ私を胸キュンさせるつもりなのか。
でも今はそれどころじゃないわね。
私は手の平を上に向け、シクレアに呼びかけた。
すると手の平から二十センチくらいの小さな美少女が出てきた。
背中に、ベビーマンティスとよく似た翅が四枚生えている。
《ふぁあ、よく寝たわ》
シクレアは欠伸をしながら、目一杯に伸びをした。
茶色のボブヘアで、花を逆さにしたような、真っ白なドレスを着ている。
《あら、私、人みたいになってるわ。興味深いわね》
《ピクシーに進化してもらったの。それで、早速なんだけど》
私はゲルナ草をシクレアに見せる。
シクレアは表情を引き締めて頷いた。
《分かったわ! 任せておいて!》
そう言うと、シクレアは躊躇いなくゲルナ草をむしゃむしゃと食べ始めた。
《うん、ゲルナ草で間違いないわ。だけど、うぅ、苦いわね。興味深い味だわ》
《ごめんね、シクレアしか頼れないの》
《気にしないで。これも勉強よ。いろいろ知れて嬉しいもの》
シクレアは私の手からゲルナ草を何本か束にして抱えると、素早くシャドウウルフの側に飛んだ。翅がほのかに青く光っていて、闇を照らす帯を引く。
《俺はいい。先にあいつを》
《何言ってるのよ! 今はあなたの方が重傷なんだからね!》
シクレアはシャドウウルフの傷の側を飛び回り、淡い青色の光の鱗粉を撒き散らした。それをしながら、むしゃむしゃとゲルナ草を食べている。
《おお、体が楽に……》
シャドウウルフの体の傷が塞がっていく。
《ごめん、今はそれだけで我慢して。残りは明日ね》
《ああ、十分だ》
シクレアは、ライトウルフの方に向かい、また同じことをした。
私はそれを眺めているうちに、まぶたが重くなってきて——
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる