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星の守護者編
最終決戦(2)
しおりを挟む「畳み掛けよ!」
ゼルビアの号令に合わせ、より攻撃の激しさが増す。
やがて、ルリアナの防護壁が硬質な音を響かせて割れた。
黒く細かなガラス片のように散り、煙のように霧散した防護壁の中から、真っ白い表皮を持つ、のっぺりとした歪な女体に転じたルリアナが姿を現す。
目、鼻、耳がなく、体毛も性器も乳頭もない。
あるのは真っ赤な唇だけ。
そして手足の位置が逆転し、関節も無視している。
そのマネキンの繋ぎ合わせを間違えたような化け物が、ルリアナの声で慟哭する。
「ああああ⁉ 痛い痛い痛いぃいい! 助けてえええ! お許しくださいいいい! お父様あああ! 私騙されてましたのおお!」
「手を休めるな! 卑劣な罠じゃ!」
動揺する護衛を一喝し、ゼルビアは攻撃を続ける。
「ヒィイイイイ! やめてえええ! お父様あああ⁉」
蹲り、怯えたように身を縮めるルリアナを見て、ゼルビアは歯を食いしばった。
直後、乱暴にベランダの扉が開き、アリーシャが姿を現した。
(あれは……⁉ まさかルリアナ⁉ なぜあんな……⁉)
ゼルビアと護衛たちによる猛攻が加えられているルリアナを見て、アリーシャは立ち尽くした。最早それは、ルリアナであるとは思えない程、姿も魔力も変容していた。
だが、アリーシャはルリアナを感じた。その異様な生物の放つ悍ましい気配に、アリーシャは戦慄き、眉を顰めずにはいられなかった。
「アリーシャ⁉」
「あなた! 陛下⁉」
ロディに声を掛けられ我に返ったアリーシャは、アルトを運搬中の面々の側へと慌てて駆け寄った。
「陛下⁉ なぜこのような――」
「見て分かるでしょ! 非常事態だからよ!」
「それよりなぜ来たんだ⁉ シャンティは⁉」
「信用できる者に預けてきました! 私も陛下のお側に!」
「許す! だが何があっても死ぬなよ!」
その遣り取りの最中、爆発音が響いた――。
*
その頃――。
ディーヴァの放った稲妻を受け、焼け焦げた体をアスラの大剣で上下に分断されたゲオルグは、そのあまりの苦痛に断末魔を上げていた。
(聞くに堪えんな)
アスラはギリアムとの戦いの経験から、外界の徒に取り憑かれた者との戦いが油断できないものであると知っていた。ゆえに、トドメを刺そうと大剣を振り上げた。
それを目にしたゲオルグは叫びを止め、怯え切った表情で戦慄いた。
「や、やめろお! もう戦えねぇ!」
「どうせ助からん。潔く死に、星の裁きを受けよ」
アスラは、戦場で助かる見込みのない傷を負い、苦痛に喘ぐ者を大勢見てきた。そして敵味方問わず、苦痛から解放する為にそういった者の命を絶ってきた。
その情け深さは仲間の中で最も大きく、エルモアと強く同調していた。
アスラがゲオルグの命を絶とうとしているとき、ディーヴァは両手を組み合わせて瞑目していた。たとえ相手が悪であったとしても、必ず命を尊び祈りを捧げた。
その礼節は仲間の中で最も弁えられており、エルモアと強く同調していた。
「やめろ、やめてく――うぎゃあああ!」
命乞いをしていたゲオルグの様子が一変した。異変を察し、アスラは即座に大剣を振り下ろしたが、薄く黒みを帯びた透明な球状防護壁に阻まれた。
「何事だ⁉」
アデルがアスラに駆け寄りながら叫ぶ。
「おそらく変異する! アデル殿は騎士を連れて退避してくれ!」
「私も――いや、分かった!」
アデルは剣以外の装備品を失っている。今この場に残っても足手まといにしかならないと判断し、アスラの言葉に従った。
アデルが走り去っていくのと入れ替わりに、ディーヴァがアスラと合流する。
「ドルモアは、惨いことをしますね……」
「ああ、情の欠片も持ち合わせておらんのだろう……」
二人は球状の防護壁に覆われたゲオルグに憐れみの目を向けていた。ゲオルグはまだ意識があった。ギリアムと同じく、途轍もない苦痛を味わっていた。
分断された下半身が蠢き、悶え叫ぶ上半身に合流する。それらが混ざり合い、肉塊に変わったところで、ゲオルグの声が止んだ。
間もなくゲオルグから黒い靄が放出され、空気が変わった。
アスラとディーヴァは突然の重圧に身構える。
「ディーヴァ、あれを割る」
「心得ました」
ディーヴァは背に担いでいた戦棍を手に、ゲオルグを挟んでアスラと向かい合う。
「いくぞ!」
アスラの雄叫びと攻撃を合図に、ディーヴァも雄叫びを上げ防護壁への攻撃を始めた。二人の膂力は凄まじく、十発も打ち込まないうちにヒビが入った。
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