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星の守護者編
最終決戦(6)
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ルインとドルモアが長剣で斬り結び、数合の打ち合いの後、魔法を放つ。それを互いに防護壁で防ぎ、或いは躱し、隙と見れば蹴りを打ち込み吹き飛ばす。
どちらかが優勢になったとしても、それは極僅かな差でしかなく、積み上がる前にまた横に並ぶ。そのように、両者の力は拮抗していた。飽くまで、傍目には。
(思った以上に出来るな……)
(なるほど。やはり以前より数段落ちている)
ドルモアは全力を出していなかった。互いの能力差を把握する為、ルインに合わせ、均衡を保てる程度の力に調節しつつ戦っていた。いわば様子見。
それはルインも同様だった。身体能力、反応速度に関しては差異がない。しかし、余力に大きな差があることを実感していた。
「どうした魔王? この程度か?」
「よく言えたものだ」
「卑怯だとでも? 貴様が勝手に立ち向かっただけであろう?」
「減らず口を」
斬り結びの最中、不意に訪れた鍔迫り合い。ドルモアは会話を楽しみたかっただけだったが、図らずもルインから明らかな疲労を感じ取った。
加えて、外界の徒の分身が力を失ったことを覚る。ゲオルグとルリアナが討伐されたという事実は、外界の徒のみならず、ドルモアにとっても大きな衝撃だった。
(まさか、ここまで早く討たれるとは……! 最早、遊んではおれんな……!)
ドルモアは瞬間的に魔力を爆発させ、ルインを弾き飛ばした。そこから一瞬で距離を詰め、一気呵成に攻めたてるつもりで。
だが前に進もうとした瞬間、凄まじい力を感じた。
その方向に顔を向けると、視界が白い光に覆われた。
(何が――)
ドルモアは光に呑み込まれた。
防護壁が消滅し、全身が焼けるような痛みに襲われる。咄嗟に防御姿勢を取り、抜け出そうと試みるも、どこに向かえば逃れられるのか分からない。
まるで激流に押され海中で方向を見失ったような感覚に戸惑い、ドルモアは二の足を踏んだ。その、時間にして僅か数秒の間に、貴族服は燃え尽き、肌が焼け焦げる。
「ぐああああああ!」
ドルモアは激痛に耐え切れず、大きく心を乱した。それを外界の徒が見逃す訳もなく、ドルモアは意識の大半を侵食され、残りはその果てへと追いやられた。
その頃、吹き飛ばされたルインは目を疑っていた。一直線に伸びる白い光の先に、天使と見紛うばかりの姿となったノインがいたからだ。
あまつさえ、今の自分では荷が勝ちすぎていると覚ったドルモアを、この場にいるはずのないノインが圧倒しているのだから、ルインが驚くのも無理はなかった。
そしてノインは――涙を流しながら、ドルモアを見据えて眩い光芒を放っていた。
(お父様……。おじい様……)
(泣くな。いずれまた会える)
(うむ、しばしの別れというだけじゃよ)
ノインの傍らには、微笑むノルギスとゼルビアがいた。二人はノインの肩に手を載せ、力を貸していた。魔力や星の力ではなく、想いの力を。
(ノイン、わしはお前を誇りに思う! さあ、最期にわしらに見せてくれ! お前が邪悪を討ち果たし、この惑星エルモアを救うところを!)
「はい!」
ノインが雄叫びを上げ、全力で光芒を放つ。それはドルモアと外界の徒を凄まじい勢いで押して押して押し続け――やがて惑星エルモアから宇宙へと追い出した。
*
ドルモアの損壊した肉体が、茫漠とした暗闇の中を漂う。その周囲には厚く張られた球状の防護壁。惑星エルモアから出る前に辛うじて展開することが出来ていた。
いくら外界の徒とはいえ、弱体化した生身の体で宇宙を生き抜くことは不可能。必要最低限ではあるが、あの状況で生存できるだけの環境を封じ込めることが出来たことは僥倖だった。
(馬鹿が。いつまでも遊んでおるからこのようなことになる。だが――クククッ。お陰で最高の環境が整った。まさか、またここに帰って来れるとはな)
かつて惑星エルモアに衝突した星の欠片。そこに宿る外界の徒。そのいずれも、飽くまで欠片に過ぎなかった。つまり、本体は別にあるということ。
星を食らう星。それが外界の徒の真名。
外界の徒はそこから剥がれた分身でしかなかったのである。
事ここに至るまで多くの偶然が重なった。
星の欠片のまま、或いは、生半可な者との同化程度であれば、たとえ宇宙に戻ることができたとしても、この広大無辺な闇を彷徨う本体を呼び寄せる力はなかった。
だが、ドルモアに拾われ、紆余曲折を経てその邪悪な意思を喰らい尽くした今、それを果たせるだけの力はある。しかも、その上で宇宙に出れたのだ。これは外界の徒からすれば奇跡。惑星エルモアの乗っ取りと同義と言っても過言ではなかった。
外界の徒は既に自身から特殊な引力を発し、本体の呼び寄せを始めていた。
(ふっはははは! 近い! 近いぞ! まさか、これほど近くにいるとは!)
外界の徒はプラネット・イーターの存在を間近に感じ、狂喜の高笑いを上げた。
そして今宵――惑星エルモアの夜空は赤く染まることとなるのだった。
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