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3‐3 宿場町到着(後編)
しおりを挟む【マスター。とても悪い顔をされていますよ】
「おっとそれはよろしくないな。これから中に入れてもらわないといけないのに」
背を向けていた宿場町へと振り返って歩みを進める。
ふと思いつき、ストレージからトレンチナイフを出して鞘と一緒にツナギに留めておくことにした。非武装はいくらなんでもまずいだろう。不自然という意味でも。
遠目だとわかりにくかったが丸太で壁のような柵が作られていた。これで町全体を覆ってあるようだ。門扉は閉じている。誰もいないがどうすればいいのか。
とりあえず門扉を叩いてみようと思ったら、側に板戸があることに気づいた。人の頭が入る程度の小窓を隠してあるようだ。そちらを叩いてみる。
「すみませーん」
三度叩いてしばらく待つと、板が上に持ち上がった。見た目は横滑り出し窓のようだが、もっと原始的で手で押さえている。ただ蓋を開けたという印象だ。
「よっこいせ。はいはい」
小窓からひょこっと顔が覗く。豚に似た人相の悪い太った男だ。生え際が後退してるのに白髪まじりの黒髪オールバック。後ろで結んでるのかもな。
男はこちらを値踏みするような目で見てくる。
俺は仕返しに生え際を凝視しながら笑顔で口を開く。
「すみませんが、扉を開けてもらっていいですか?」
「どちらからいらっしゃったので?」
「テオの街からです」
ジルオラに降りる前、宿場町で身元確認があった場合『どこから来たか訊かれたらテオの街と答えろ』とヨハンに言われていた。なんか調べてくれたらしい。
テオの街を手斧街だと思って『変わった名産品だな』って言ったら『なんの話だ?』って感じになって軽口の叩き合いになったんだよな。
それはどうでもいいとして、ヨハン、既に疑われてるっぽいぞ。
物凄くジロジロ見られてるんだが。大丈夫かこれ?
「テオの街、テオの街ねぇ。ふぅむ、それはまた随分と遠いところから来なすったもんですな。それで、つかぬことをお聞きしますが、どうやってこちらまで?」
「馬です。しかし、この暑さですからね。途中で死んでしまって。食糧にはなってくれましたが大変な思いをしました。荷物もなにもかも失ってこのざまです」
俺は苦笑しつつ、両手を広げて肩を竦めて見せる。流れるように嘘が吐けたことに驚いていた。これもまた精神構造の調整が成せる業ってことか。
俺の嘘八百を信じたのか、男は気の毒そうに顔を顰めた。
「あ、いやそうでしたか。そいつはまた大変な思いをされましたな。今開けます。どうぞお入り下さい。ああ、それともし食事が必要でしたら私の店にお越し下さい」
「それは有り難い。是非お願いします。案内していただいても?」
「ええ、ええ。勿論ですとも。私はイルマと申します。酒場と宿をやっとりますんでね。失礼ですが、お客さんはお貴族様ですかな?」
あからさまに態度が変わってきたな。笑顔で手揉みしてるぞ。しかしどうして貴族だと思ったんだろうな。判断基準は服と言葉遣いくらいしかないが。
なんにせよ貴族を騙る嘘は流石にまずいよな。
ここは苦笑して否定しとくか。
「いえいえ。平民ですよ。俺はセイジといいます。話し方でしたら親が厳しかったもので、躾で自然と身に着いただけのことです。実家が商家だったもので」
「ほほぉ、そういうことでしたか。では跡を継がず?」
「はい。兄がおりましたので気楽なものですよ」
いねぇよそんなもん。どうなってんだ俺の口は。『罪悪感』や『背徳感』がないとこんなに堂々と嘘を並べられるんだな。もはや虚言癖だわ。
あとこのイルマとかいうおっさん、ヨハンばりによく喋るな。物腰柔らかだが胡散臭くて仕方ない。『第六感』が反応してる感じがある。癖者なんだろうな。
その後、宿場町に入った俺はイルマに案内されて彼の経営している酒場に入った。
というか丸太の壁に隣接してたわ。道理でイルマが小窓から顔出す訳だよ。
これ客取る為だろうな。したたかすぎだろイルマ。
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