18 / 81
6‐1 ダンジョン(前編)
しおりを挟む記録係がどんな記録を取っているのか興味があったので少し楽しみにしていたのだがかなり簡易的で拍子抜けした。出身国や名前などの個人情報を任意で話すだけだった。
どちらかと言えば外見的特徴の記入と把握の方が重要で、偽ることのできる個人情報はそこまででもないそうだ。側にいたギエンが立派な口髭を撫でながら教えてくれた。
「外見の特徴はこちらが勝手に記録している。時間がかかる理由はそれだ。探索者が犯罪行為に及んだ報告が入れば、それを元に絵付きの手配書を作らねばならんのでな」
「文字で残してあるだけで似顔絵を描けるものですか?」
「それ専門の絵師がいるのだよ。特徴も詳細に型で分けて残すからな。それなりに精度の高いものが仕上がる。もっとも、変化する部分はどうしようもないがな」
髪型や髭、体格、装飾品などはあえて詳細には残さないそうだ。
むしろそれらを描き加え、日本の指名手配ポスターのようにパターンを変えた似顔絵を何種類か作るという話を聞いて驚かされた。とにかく顔の特徴に力を注ぐとか。
未開惑星と侮るなかれ。すごい人たちがいっぱいいるぞ。
でも、思えば日本でもそうだったな。昔の人の方が技術的に優れていたとかよく耳にしたもんな。機械的な作業が進歩した結果、失われてしまうことも出てくるか。
その途上をまざまざと見せられている気がする。この特徴の捉え方や人相書きの書き方も、カメラが開発されたら継承者が減って失われる運命にあるんだろうな。
感慨深い思いに晒されながらギエンに見送られてダンジョン突入。
事前情報通り中は暗くて足場が悪い。岩肌が剥き出しで単なる岩の洞窟のように感じられる。ピッケルを担いでる冒険者もいたから鉱物資源の採取もできるようだ。
先の一件から俺と距離を取っている三人が角灯に火を入れる。捜索が目的なので三人はそれ以外の荷物は持ってきていない。俺はストレージがあるから関係ないけどな。
「あ、あの、セイジさん、先に行って下さい」
オットーがおずおずとそう言った。こそこそと「お前が言えよ」「嫌よあんたが言いなさいよ」と揉めた結果、オットーにお鉢が回ったらしい。
「いや、俺は角灯持ってないんだが」
「そ、それは、おっさ……あんたが準備しなかったからだろ」
「その、僕らのパーティーでは、先頭を歩くのは、一番強い人って決まってるんです。だから、セイジさんに先に行ってもらわないと困るんですよ」
「ふぅん、あっそ。それで? 誰か角灯貸す気あんのか?」
三人が目配せし合い、今度はリンシャオが口を開いた。
「だ、誰も貸せないわよ。ダンジョンに入るんだから角灯くらいは持ってきて当然でしょ。私たちだって自分の分しか用意してないんだから、無理よ」
「先行させるのにか? 最も危険な立ち位置だぞ?」
「んなもん、あんたの自業自得だろうがよ。一番強い奴が魔物の一撃を防いで、後ろが援護するってのがうちの作戦なんだよ。つべこべ言うなおっさん」
正気かよこいつら。先行する者に視界を与えないってのは常軌を逸してるだろ。もはや作戦云々とかそういう話じゃない。ただの悪意だこんなもんは。
あー、読めたわ。俺を殺す気だなこりゃ。殺して金品奪おうって魂胆だ。俺が金持ってるって知ってるからなこいつら。魔物に襲わせて弱ったところをグサーか。
残念ながら弱らんのよ俺は。浅はかだな本当に。ここまでくると滑稽だわ。
俺の中では評価がだだ下がりだよ。どうしようもねぇな本当に。
正直なところ、こいつらに背を向けて歩くのは御免被りたいところだが、真面目に捜索する気が感じられない奴らの後ろを歩くってのも時間の無駄だよな。
どうしたもんだろか。
んー、ぱっと見だが遠距離武器を持っているようでもないし、フレンドリーファイアのおそれがないのであれば距離を取って先行すれば問題ないかな。
あ、念の為〈機能拡張Ⅳ〉で入手したスキルを使っておくか。
三人に背を向け、胸についているホログラムカードを操作する。この手のスキルは手動操作でないと使用できないんだよな。エレスに頼んで使えるなら楽なのに。
これでよし、と。
作業が済んだので俺は三人に先行するのを承諾し素早く距離を取った。
「エレス、外部出力状態で全身をライトで覆って光源化することは可能か?」
【可能です。光る球体に姿を設定することもできますので】
「なら頼む。明度調節も自動でしてくれると助かる」
【はいマスター。かしこまりました】
後ろの三人がこそこそするなら俺だって負けてられんよな。エレスと小声で遣り取りして光源を手に入れさせてもらった。ざまぁみやがれ。角灯より遥かに便利だぞ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる