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9‐3 皇帝の事情(後編)
しおりを挟む「エレス、魔物を体に入れるって可能なのか?」
【魔物によっては可能です。おそらくリュウエンには水で構成された魔物が封印されていたのではないかと推測します。あるいは受け継いでいるのかもしれません】
「リュウエン、どうなんだ?」
「はい。水の精霊は、レイジェン皇国の初代皇帝フウケンから脈々と受け継がれている力だと聞いています。そもそもその力がこの国の起源という話です」
そういうことか。
つまり、ここは元々雨が降らない地域だった訳だ。そこに水の精霊を宿した者がやってきて雨を降らせた結果、有り難がった人々に持ち上げられて皇帝になったと。
リュウエンいわく、水の精霊は第一子に受け継がれていくそうだ。ただし、水の精霊を宿しているからといって必ずしも皇帝になれるという訳でもないらしい。
皇帝に相応しくないと判断されれば、弟妹へと移されてしまうのだという。もっとも、受け入れる側も水の精霊を宿せるだけの器が必要だそうだが。
「もし宿すだけの器がなければどうなるんだ?」
「書には大半が命を落とすと記されていました。元の体へ戻すのが早ければ助かりますが、気が触れるとありましたので、その後の生活は悲惨なものになるようです」
なんだよそりゃ。もはや子供を使った人体実験じゃねぇか。
思わず眉間にしわが寄る。
「そのロジンってのはセグウェイに宿したんだろう? とんでもねぇな」
「いえ、ロジンがそのような危険な賭けをするとは思えません。おそらくセグウェイは水の精霊を宿していないでしょう」
「というと?」
「本来であれば精霊を移すことを公にし、兄姉から弟妹へと精霊を移す儀式を執り行います。しかし、今回は秘密裏に壺へと封印されましたので……」
リュウエンが俯き言葉を止めた。それが原因で現在の状況に追い込まれていることを悔しく思ったからだろう。俺は顎を擦って後を引き継いだ。
「つまり、宿しているふりで済むってことだな」
「そうなります。ゆえに、雨が降らない日が続いているのでしょう」
確かに辻褄は合う。
だが一国の宰相がそんな馬鹿な真似をするだろうか?
干ばつが続けば皇帝の力を疑われるのは明白だ。既にセグウェイが水の精霊を宿しているのか怪しまれていても不思議ではない。
これじゃあいつ反乱が起きてもおかしくないというのに。
人は身内の為なら狂ってしまうものなのかねぇ?
「まぁ、急ぐ必要があることはわかった。明日の早朝から皇都に向かおう。それじゃ、リュウエン立て。おじちゃんと遊びに行こう。メリッサ、ちょっと行ってくるわ」
「えー、どこ行くのー?」
「ちょっとそこまでな。気が済んだら帰ってくるわ」
俺は戸惑うリュウエンを連れてコンテナハウスを後にした。今度は扉の位置をエレスに把握してもらったのでメリッサの生首ホラーは見なくて済みそうだ。
「どちらに向かわれるのですか?」
「もう二度と立ち寄らない場所だな。それよりリュウエンに訊きたいんだが、この国では奴隷に対する虐待ってのは罪に問われるのか?」
リュウエンは一瞬呆けたような顔をしたが、すぐに察したようで笑顔になった。
「はい。奴隷への虐待もそうですが、行き倒れを見つけた際には身元の確認の為に兵舎への報告が必要です。それを怠れば誘拐として扱われます」
「そうか。また法に委ねるか?」
「そうですね。蹴られた分くらいは返しておきたいとも思いますが、それをしたところで足を痛めるだけのような気もしますので止めておきます」
「偉いぞリュウエン。よし、あとはおじちゃんに任せとけ」
俺はストレージからバギーを出し、目を丸くして口をあんぐりと開けたリュウエンを抱え上げて助手席に乗せシートベルトを着ける。
どうせもう二度と立ち寄らないんだ。
幻覚を見たとでも思わせておけばいいだろう。
向かう先はもちろん宿場町。虐待豚野郎をとっちめてやるとしようかね。
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