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10‐2 お片付け(後編)
しおりを挟む「いいかリュウエン、頭を伏せて目を閉じてるんだぞ。これからおじちゃんは悪い連中を痛めつけるが、子供が見るにはちと刺激が強いからな」
「セ、セイジ殿、たった一人で大丈夫なのですか? イルマは店の中にいる客に呼びかけておりました。荒くれ者が大勢出てくると思われますが……?」
リュウエンは怯えた顔で言った。顔色が失せ、体も震えている。
さっきまでの権力者の威勢とでも言うべきものが見る影もない。
こりゃトラウマを植え付けられてるな。
おそらく客に怖い思いをさせられた経験があるんだろう。
宮中でも不安や恐怖はあっただろうが、暗殺を仕掛けられても防ぐ護衛が何人もいたに違いない。劣悪な環境で寄る辺のない奴隷として過ごす方が怖いに決まってる。
ちょっとしたことで罵声を浴びせられるだけでなく、いつ不当な暴力を受けて命を落とすかもわからないんだからな。そんな中でよく我慢したな。偉いぞリュウエン。
俺は笑ってリュウエンの頭を撫でる。
「何人いようが、相手にもならんさ。さっきは見るなと言ったが、やっぱり見ておけ。しっかり目に焼き付けろ。俺がお前の恐怖を吹き飛ばしてやる」
俺はバギーから降り、門に向かって進む。すると門扉が開き、ぞろぞろと荒くれ者たちが出てきて横に並んだ。中央にはイルマが立つ。腹立つ顔してんなぁ。
二十メートルほど距離を開けたところで立ち止まりイルマと向かい合う。ざっと見たところ敵は三十人ほど。皆一様に蚊の食うほどにも負けるとは思ってなさそうだ。
「あひゃひゃ! 馬鹿な野郎だ! 逃げ出したかと思ったらいやがった! それで武器も持たんと何をしとる? ははぁ、怖気づいたな? ガキを渡して命乞いか!」
「ブヒブヒうるせぇなあ。口の臭ぇ豚野郎がよぉ。手前ぇみてぇな性根の腐った役立たずのグズが集めた連中なんざ高が知れてんだよ」
鼻で笑って言ってやると、イルマが顔を真っ赤にして俺を指差した。
「ぐ、ぬぬぬ、あいつを殺せっ! 殺した奴には五十やるぞっ!」
激昂したイルマの叫びに応じ、武器を手にした荒くれ者たちが雄叫びを上げて我先にと駆けてくる。俺は平然と右打ち打者のように構えつつエレスに声をかける。
「ストレージから大剣を」
【かしこまりました】
手の中に俺の身長ほどある大剣の柄が現れる。
そのズシリとした重みを感じると同時に思い切り握り込み──。
「よっ、こいしょおおおおおっと!」
力いっぱい振り抜いて、間近に迫っていた荒くれ者を大剣の腹で殴りつけた。三人が吹っ飛び、吹っ飛んだ先でも衝突事故が起きてまた倒れる。
もうドッカンドッカンとボウリングみたいになったわ。
一人を殴りつけると横に並んでる奴も巻き込んじゃうからどんどん重みが増すんだよな。思わずおじさんが立ち上がるときに出す声が出ちまった。
力具合がわからんから本気でやったけど、最初に打った奴は死んじゃったかもな。すごい音してたし。でもぶった斬られるよりはマシだろう。
刃を使わないのが最大限の譲歩だ。俺の慈悲に感謝しろクソ共が。
そもそもお前らは死んでも自業自得なんでな。冥福も祈らんぞ。
大剣をたった一振りしただけで地面に六人が転がった。二人起き上がったが顔が苦痛で歪んでいる。衝突事故でどこかを痛めたんだろう。完全にやる気が削がれてるな。
こんな悠長に観察できるのは、あれだけ勢いづいていた荒くれ者たちがピタリと足を止めてしまったからだ。皆一様に愕然とした表情を浮かべ戸惑いを隠せていない。
話が違うって顔に書いてあるぞ。
「おいおい、怖気づいたか? そこの豚野郎を渡して命乞いでもするか?」
俺が大剣の切っ先をイルマに向けて言うと、荒くれ者たちがそっちに視線を移した。イルマはビクリと肩を跳ね上げ、たじろいだ様子で後退りする。
「お、お前ら! 何を見てやがる! わ、わかった! 百、いや二百やる!」
「それじゃ足りねぇよイルマの旦那! あんたを引き渡した方が目がある!」
「何が商家のボンボンだ! バケモンじゃねぇか! よくも騙しやがったな!」
そんな遣り取りが始まるが、どうして俺が何もしないと思い込んでるんだろうな。目の前の敵から視線を外すなんて愚の骨頂だろう。まぁ、好都合だが。
「エレス、大剣を光弾突撃銃に持ち替え」
【はいマスター。それにしても隙だらけですね】
「俺をお人好しだとでも思ってんだろ。舐めてんだよ」
俺はストレージ操作で武器を持ち替え、光弾突撃銃が手に現れるなりにトリガーを引いた。狙いは荒くれ者たちの足だ。躊躇うことなく撃っていく。
ドフッドフッドフッという音に合わせて銃口から光弾が発射されていき、荒くれ者たちの片足が吹き飛んでいく。悲鳴と呻きが辺りに響き、乾いた大地が赤く染まる。
最後の狙いはもちろんイルマだ。腰が抜けたのか尻もちをついている。動かない的は狙うのが楽でいい。二発撃って両足を吹き飛ばす。
「うぎゃあああああああ!」
子供を蹴る足なんざ必要ねぇだろ。どっちかわかんねぇから両方だ。
俺が振り返ると、リュウエンが助手席で呆然としていた。
俺はバギーに歩み寄りながらストレージに光弾突撃銃を収める。そうしている間に、リュウエンは笑顔になっていた。袖で涙を拭っていたが、表情は明るい。
「心配したか?」
「はい。すみません。これほど差があるとは思っておりませんでした」
「まぁ、見た目がこれだからな。それじゃあギエンのとこに行くか」
「はい!」
「お、そうだ」
俺は振り返り、イルマに向かって片手を上げる。
「じゃあな豚野郎! これから兵長に通報してくるから覚悟しとけや! お前ら全員殺人未遂でお縄だ! ざまぁみやがれ! ほら、リュウエンも何か言ってやれ」
「う、ええと、あ、は、歯を磨け愚か者! 鼻が曲がるかと思ったわ!」
俺は声を上げて笑った。辛辣な一言だが、その程度しか思いつかないというのがリュウエンの心根の表れだろう。もっと酷い目に遭わされたはずなのに口臭て。
晴れやかな気持ちでバギーの運転席に乗り込んだ俺は、恥ずかしくなったのか助手席で顔を赤くして俯くリュウエンに「あいつの口ってウンコ食ってるみたいな臭いしたよな」と言って吹き出させることに成功。子供って屁とかウンコが鉄板だよな。
皇帝だろうが子供は子供ってことだ。
教育にはよくないが、俺といる間くらいはいいだろ。
楽しそうだしな。
俺たちは二人で大笑いしながらダンジョンへと向かった。
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