31 / 81
10‐2 お片付け(後編)
しおりを挟む「いいかリュウエン、頭を伏せて目を閉じてるんだぞ。これからおじちゃんは悪い連中を痛めつけるが、子供が見るにはちと刺激が強いからな」
「セ、セイジ殿、たった一人で大丈夫なのですか? イルマは店の中にいる客に呼びかけておりました。荒くれ者が大勢出てくると思われますが……?」
リュウエンは怯えた顔で言った。顔色が失せ、体も震えている。
さっきまでの権力者の威勢とでも言うべきものが見る影もない。
こりゃトラウマを植え付けられてるな。
おそらく客に怖い思いをさせられた経験があるんだろう。
宮中でも不安や恐怖はあっただろうが、暗殺を仕掛けられても防ぐ護衛が何人もいたに違いない。劣悪な環境で寄る辺のない奴隷として過ごす方が怖いに決まってる。
ちょっとしたことで罵声を浴びせられるだけでなく、いつ不当な暴力を受けて命を落とすかもわからないんだからな。そんな中でよく我慢したな。偉いぞリュウエン。
俺は笑ってリュウエンの頭を撫でる。
「何人いようが、相手にもならんさ。さっきは見るなと言ったが、やっぱり見ておけ。しっかり目に焼き付けろ。俺がお前の恐怖を吹き飛ばしてやる」
俺はバギーから降り、門に向かって進む。すると門扉が開き、ぞろぞろと荒くれ者たちが出てきて横に並んだ。中央にはイルマが立つ。腹立つ顔してんなぁ。
二十メートルほど距離を開けたところで立ち止まりイルマと向かい合う。ざっと見たところ敵は三十人ほど。皆一様に蚊の食うほどにも負けるとは思ってなさそうだ。
「あひゃひゃ! 馬鹿な野郎だ! 逃げ出したかと思ったらいやがった! それで武器も持たんと何をしとる? ははぁ、怖気づいたな? ガキを渡して命乞いか!」
「ブヒブヒうるせぇなあ。口の臭ぇ豚野郎がよぉ。手前ぇみてぇな性根の腐った役立たずのグズが集めた連中なんざ高が知れてんだよ」
鼻で笑って言ってやると、イルマが顔を真っ赤にして俺を指差した。
「ぐ、ぬぬぬ、あいつを殺せっ! 殺した奴には五十やるぞっ!」
激昂したイルマの叫びに応じ、武器を手にした荒くれ者たちが雄叫びを上げて我先にと駆けてくる。俺は平然と右打ち打者のように構えつつエレスに声をかける。
「ストレージから大剣を」
【かしこまりました】
手の中に俺の身長ほどある大剣の柄が現れる。
そのズシリとした重みを感じると同時に思い切り握り込み──。
「よっ、こいしょおおおおおっと!」
力いっぱい振り抜いて、間近に迫っていた荒くれ者を大剣の腹で殴りつけた。三人が吹っ飛び、吹っ飛んだ先でも衝突事故が起きてまた倒れる。
もうドッカンドッカンとボウリングみたいになったわ。
一人を殴りつけると横に並んでる奴も巻き込んじゃうからどんどん重みが増すんだよな。思わずおじさんが立ち上がるときに出す声が出ちまった。
力具合がわからんから本気でやったけど、最初に打った奴は死んじゃったかもな。すごい音してたし。でもぶった斬られるよりはマシだろう。
刃を使わないのが最大限の譲歩だ。俺の慈悲に感謝しろクソ共が。
そもそもお前らは死んでも自業自得なんでな。冥福も祈らんぞ。
大剣をたった一振りしただけで地面に六人が転がった。二人起き上がったが顔が苦痛で歪んでいる。衝突事故でどこかを痛めたんだろう。完全にやる気が削がれてるな。
こんな悠長に観察できるのは、あれだけ勢いづいていた荒くれ者たちがピタリと足を止めてしまったからだ。皆一様に愕然とした表情を浮かべ戸惑いを隠せていない。
話が違うって顔に書いてあるぞ。
「おいおい、怖気づいたか? そこの豚野郎を渡して命乞いでもするか?」
俺が大剣の切っ先をイルマに向けて言うと、荒くれ者たちがそっちに視線を移した。イルマはビクリと肩を跳ね上げ、たじろいだ様子で後退りする。
「お、お前ら! 何を見てやがる! わ、わかった! 百、いや二百やる!」
「それじゃ足りねぇよイルマの旦那! あんたを引き渡した方が目がある!」
「何が商家のボンボンだ! バケモンじゃねぇか! よくも騙しやがったな!」
そんな遣り取りが始まるが、どうして俺が何もしないと思い込んでるんだろうな。目の前の敵から視線を外すなんて愚の骨頂だろう。まぁ、好都合だが。
「エレス、大剣を光弾突撃銃に持ち替え」
【はいマスター。それにしても隙だらけですね】
「俺をお人好しだとでも思ってんだろ。舐めてんだよ」
俺はストレージ操作で武器を持ち替え、光弾突撃銃が手に現れるなりにトリガーを引いた。狙いは荒くれ者たちの足だ。躊躇うことなく撃っていく。
ドフッドフッドフッという音に合わせて銃口から光弾が発射されていき、荒くれ者たちの片足が吹き飛んでいく。悲鳴と呻きが辺りに響き、乾いた大地が赤く染まる。
最後の狙いはもちろんイルマだ。腰が抜けたのか尻もちをついている。動かない的は狙うのが楽でいい。二発撃って両足を吹き飛ばす。
「うぎゃあああああああ!」
子供を蹴る足なんざ必要ねぇだろ。どっちかわかんねぇから両方だ。
俺が振り返ると、リュウエンが助手席で呆然としていた。
俺はバギーに歩み寄りながらストレージに光弾突撃銃を収める。そうしている間に、リュウエンは笑顔になっていた。袖で涙を拭っていたが、表情は明るい。
「心配したか?」
「はい。すみません。これほど差があるとは思っておりませんでした」
「まぁ、見た目がこれだからな。それじゃあギエンのとこに行くか」
「はい!」
「お、そうだ」
俺は振り返り、イルマに向かって片手を上げる。
「じゃあな豚野郎! これから兵長に通報してくるから覚悟しとけや! お前ら全員殺人未遂でお縄だ! ざまぁみやがれ! ほら、リュウエンも何か言ってやれ」
「う、ええと、あ、は、歯を磨け愚か者! 鼻が曲がるかと思ったわ!」
俺は声を上げて笑った。辛辣な一言だが、その程度しか思いつかないというのがリュウエンの心根の表れだろう。もっと酷い目に遭わされたはずなのに口臭て。
晴れやかな気持ちでバギーの運転席に乗り込んだ俺は、恥ずかしくなったのか助手席で顔を赤くして俯くリュウエンに「あいつの口ってウンコ食ってるみたいな臭いしたよな」と言って吹き出させることに成功。子供って屁とかウンコが鉄板だよな。
皇帝だろうが子供は子供ってことだ。
教育にはよくないが、俺といる間くらいはいいだろ。
楽しそうだしな。
俺たちは二人で大笑いしながらダンジョンへと向かった。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる