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21‐2 十階の主(後編)
しおりを挟む【ここを突破すればマスターが最深階到達者ですね】
「もうここで終わりでいいんだが」
愚痴をこぼしつつ、無駄に重厚な主部屋の扉を押し開く。すると──。
「お?」
部屋の雰囲気が変わった。暗灰色だった壁の色味が白に近くなり、どこかに照明があるのかエレスの〈ライト〉が必要ないくらい明るくなった。
洞窟から石積の遺跡へと場所が移ったという印象で、床を埋め尽くす石畳の中央に、岩をくっつけ合わせたような歪な石像が立っている。背丈は三メートルほどだ。
「部屋が人工物っぽくなったと思ったら主もかよ。エレス、あれはなんだ?」
【検索の結果、ゴーレムが近似種に該当します】
「多分そうじゃないかと思ってたがやっぱりそうか」
【光弾突撃銃を出しますか?】
「あー、どうすっかな。いや、接近戦で仕留めるわ」
接近戦を選んだ理由はゴーレムの行動パターンを見ておきたかったから。
五階の主だったハイオウガがそうであったように、魔物のラインナップが変更された時点でおそらくゴーレムが階を彷徨きだすと予想がついたのでそうした。
予想が外れても初見だし慣れておいた方が無難だ。
どこで戦うことになるかもわからんからな。
それにバカスカ撃ってるが光弾突撃銃の弾は無料じゃない。弾倉に魔力を充填するのに費用がかかる。その請求書を俺に渡すのが愛しのメリッサってのがまた……。
なんとも世知辛いよな。給料とは別ってところがちゃっかりしてるよ。もっとも、それ以上の働きをしてくれてるから口が裂けても文句は言えんが。
「稼ぎに来たんだから支出は少なくしないとな」
【十分少ないと思いますが】
「いや、まだだ。もっと収入と支出のことを考えるべきだった」
ダメージを受けても回復薬入りのカプセル一つで事足りる。そっちの方が光弾一発よりも安く済む。なんなら食事をとりながら休息するだけでもHPは自然回復する。
【ですが、マスターがダンジョンに入ってから使用したのは光弾四発だけですし、光源の燃料費もかかっていません。現状、装備品のメンテナンスも不要です】
「む、言われてみりゃそうか」
ノーダメージな上に奪った金棒使って討伐してりゃそうなるよな。そういや俺、ジョニーとヨハンから『金のかからない男』って呼ばれてたわ。
あれはこういうことか。的を射てんな二人共。
「無自覚にどケチの道を進むところだった。ありがとなエレス」
【いえ、大したことでは。それより〈アナリシス〉の使用を進言します】
「おうよ」
ゴーレムに向かって〈アナリシス〉を使う。ホログラムカードにゴーレムの情報が表示されるが、相変わらず最初は何一つ明かされていない。名前の入力しとこ。
「やっぱ初戦だと〈アナリシス〉で情報は見えねぇな」
【そういう仕様ですから仕方ありません。ですが弱点はレクタスと同じかと】
「訊くまでもなく打撃だろう」
【はい、その通りです】
「金棒はお誂え向きって訳だな。そんじゃ、行ってくるかね」
金棒を手に、ゆっくりとゴーレムに歩み寄る。するとゴーレムはすぐに反応した。それまではただの岩人形という感じだったが、目に光が灯り俺に顔を向けた。
そこで俺はハッとした。
もしかして反応するラインがあるのか?
五階のハイオウガが全く反応しなかった理由とも繋がる。
もしこの推測が正しければ、出入口で光弾突撃銃を撃っているだけで、どの階の主も簡単に仕留めることができてしまうのではなかろうか?
あーもう、また失敗したよちくしょう。
そっちを検証すべきだったと思いつつ、足を速めて金棒を振り上げる。するとゴーレムがこちらに手の平を向けた。鈍重すぎる防御行動だ。欠伸が出るっての。
そう思った瞬間、嫌な予感がした。『第六感』が項の毛をちりつかせる。
「下か!」
叫んで間もなく、床から鋭く尖った岩が突き出した。咄嗟に横に跳んだお陰で回避できたが心臓が縮んだ。まさか魔法を使うとは思っていなかった。
手のひらを向けるのは防御行動じゃなくて魔法の予備動作だったのか。
観察と理解を進めつつ、石畳を蹴って攻撃を再開する。
その途端、またゴーレムに手のひらを向けられた。
「馬鹿にしすぎだろ!」
流石に頭にきた。今見たばかりの攻撃を食らう訳がない。
一旦横に跳んでからまた距離を詰めにかかる。
だがそこで予期せぬ事態が起きた。
ゴーレムの手の形が変わった。中指を折り込んで親指で留めている。
「デコピン!?」
驚きのあまり思わず叫んだ直後、ゴッという音を発してゴーレムの中指が放たれた。それと同時に、十メートルもない距離からボウリングの球ほどの岩塊が飛んできた。
凄まじい速度で眼前に迫る岩塊を首を傾げて躱すが、完全には躱し切れず頬と耳を掠めた。少しピリッと痺れが走ったのでHPが減少したとわかる。
うおおお、久し振りにヒヤッとしたあああ。
岩塊が直撃していたら転倒していたかもしれない。だがそうならなかったってことは金棒を振りかぶった俺がゴーレムに肉薄してるってことなんだわ。
「危ねぇだろうがあっ!」
心臓が遅れて縮み上がるという稀有な経験をさせてもらったお礼にデコピンしてきた手から順に四肢を金棒で粉砕してやった。
というのは言い訳で、実際は頭をぶん殴れなかっただけだ。お陰で五発も殴る羽目になった。なになに、〈アナリシス〉の情報だと弱点は頭で打撃が通ると。
いやそれは予想通りなんだけどもな。その頭を打つのが難しいんだわ。
ただでさえ高い位置にあって狙いにくいのに両手が邪魔で頭が遠い。それに魔法とデコピンも厄介で、更に頭を打つ難易度が上がっている。
こんなのが道中で出現するってか。おじさん信じたくねぇなぁ。何体かでつるんでたりするんだろうなぁ。面倒臭ぇなぁもうと溜め息が出る。
ドロップアイテムは『ゴーレムコア』という野球ボールサイズの黒い球体のみ。装備がもらえないからこいつと道中遭遇しても大ハズレ扱い決定だな。
そう心に決めて、俺は階下へ向かう部屋の扉を開けた。
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