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26‐1 封印の壺(前編)
しおりを挟む昨夜はSTが枯渇したようで、気がつけば朝になっていた。
あられもない姿で目覚めた俺とメリッサはへろへろだった。だがそんな状態で風呂に入ったにもかかわらず、そこでまた発情し元気に愛し合うという訳のわからん事態に陥った。流石におかしい。お猿さんじゃあるまいし、なんなんだこれは。
メリッサも困惑しているようだった。「こんなに効くのかよ……」という呟きを脱衣室でこぼしていたから一服盛ったのかもしれない。俺は聞き逃さないぞそういうの。
疑念を込めた目でじいっと見つめていると、それはもう慌てた様子で肌艶の良い体をバスタオルで拭いて「あ、朝食の準備してくるねー」と言い、素早くインナーを身に着けそそくさと脱衣室を出て行った。うん、どうやら黒で間違いなさそうだ。
だとしても俺は一向に構わんのだが。
何を慌てているんだか。
朝食はバゲットに葉野菜とベーコンを挟んだサンドイッチだった。それを手渡されるなり「い、急ぐよね? 行ってらっしゃーい」と後ろめたいことがあるような苦笑いを浮かべたメリッサに手を振って言われ、早々にコンテナハウスを追い出された。
「おいおい、ポチが置き去りだぞ」
そう独り言ちた直後、扉が開いてシャカシャカとポチが出てきた。
当たり前のように俺の体を這い上がり背中に回り込んで勝手に装着。
【バックパック型ウェアラブルデバイスドール。ポチ、装着完了です】
「あ、うん。ちょっと怒ってないかエレス」
【はい、メリッサに。強引な行動の所為で危うくマスターに置いていかれるところでしたから。ですが待っていてくれたので気が晴れました】
「相棒を置いてく訳ないから安心してくれ」
【うふふ、とても嬉しいです】
そんな会話をしつつサンドイッチをもぐもぐしながら村まで歩く。美味ぇ。
おそらく一服盛ったはいいものの、思いのほか効果があったもんだから俺の体が心配になって気まずかったってとこだろう。別に大丈夫だから気にしなくてもいいのに。
正直に言えばまだまだいける。伊達にVITを上げてないのでSTが多いし回復も早い。枯渇の影響か若干の疲労感や回復の遅れはあるものの体調はすこぶる良いしな。
でもLVが低かったら危なかったよな。確実に精根尽き果ててたわ……。
かつてジェイスが言わんとしていたことが思い出される。あのときは咄嗟に『黙れ』と言ってしまったが、『主に夜』という言葉は嘘ではなかったのだ。
メリッサは強敵だった。とはいえ、俺はメリッサしか知らない。
満足するまで貪欲に仕掛けてくるあの愛し方がこの世界の標準なのであれば、いずれ召喚者の中に死人が出るだろう。あるいは既に出ているかもしれない。
実に怖ろしい。『恐怖感』はオフなので感じてはいないけどもな。
是非とも召喚者の皆さんにはLV上げに励んでもらいたいものだ。
そう思ったのはさておいて、村に入ってすぐにリュウエン一行を見つけ挨拶を交わし、ロジンからオーク肉が精力剤に使われるという事実を聞かされ衝撃を受けた。
なんてこった! 一服盛られた訳じゃなくて昨日の角煮かよ!?
じゃあ俺が犯人じゃねぇかよ!
でもメリッサは効果効能知ってて止めなかったっぽいから同罪でいいよな。
「参ったな。いっぱいあるから民に提供しようと思ってたんだが」
「絶対におやめください。オーク肉は医薬の類です。乾燥して用法用量を守り使うものであって、そのまま食するなど以ての外。大変なことになりますよ」
なるほど、道理で大変なことになった訳だ。
高級食材ってのは嘘だったのか、それとも開拓済みの惑星では何らかの対処法があるから食べても問題ないのか。うん、おそらく後者だ。確信犯だなメリッサ。
今晩はお仕置きだな。どうしてくれようか。
「朝から悪い顔をされますなぁ」
「なぁに、家に悪戯っ娘がいるもんでな。オーク肉をたらふく食わされたんだよ」
「なっ!?」とリュウエン以外が声を揃えて狼狽える。
「そ、それは悪戯の域を超えていますよ。よくご無事で」
「我輩は干し肉で死にかけましたが、ううむ、セイジ殿は凄まじいですな」
「なんだよ、リャンキもカイエンも経験者か?」
「男なら度胸試しに一度は通る道ですのでな。それで怖ろしさを知り懲りるのですよ。かくいう私も若気の至りで死にかけた口です。二度と食べぬと誓いました」
苦笑して言いつつ、リュウエンの耳はしっかり塞いでいるロジン。
配慮ができる男だね。
さて、どうしてロジンとそんな話ができたかと言えば、ロジンもまた明け方に帰還していたからだ。十台の二頭立ての馬車と、黒い革の鎧兜を身に着けたベイロン帝国の兵士二十人と共に村へとやってきていた。どうやら交渉は上手くいったらしい。
合流場所は海岸沿いのどこかという曖昧なものだったが、見覚えのない村が出来ていたからすぐわかったという。何故か俺が村を作ったと勘違いしていたので「いや俺も村が出来てて驚いた口だからな。民が頑張ったんだよ民が」と誤解を解いておいた。
「おや、そうでしたか」
「そうなんだよ。民の技術に脱帽だ。本当に凄いよこの国の民は」
「ふふふ、それは真に喜ばしい言葉ですなぁ」
はぁ、なんとか誤解が解けて良かったわ。
何でも出来る人だと思われたら困るからな。
そんな風に安堵したのも束の間、俺とロジンの遣り取りを聞いていた民が突然「セイジ様がお褒め下さったぞー!」と叫んだもんだから思いきり肩が跳ねた。
その後はもう、あれよあれよという間に民が集っちゃって、また歌や踊りが始まってしまったのでこりゃどうしようもねぇやと逃げの一手を取らざるを得ず……。
リャンキとカイエンに後を任せ、ロジンとリュウエンを引き連れて村から脱出。なんの説明もできないままにバギーに乗って風間さんの家まで向かうことになった。
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