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26‐3 封印の壺(後編)
しおりを挟む「やはり来ましたな」
背後からそう声をかけられ、俺は肩を竦める。
「ああ、宰相殿の読み通りだった」
ロジンは無事に壺を掘り返したようだ。よくわからない文字が書かれた札で蓋に封をされた白い壺を大事そうに抱えている。大きさも相俟って骨壺を連想してしまう。
「それ、骨壺だっけか?」
「はい。先帝陛下の骨壺とすり替えたものです」
「あー、そうだった。継承の儀でラオを欺いたんだったな」
「はい、おっしゃる通りです」
のんびりと会話しながら二人で並び、遠ざかっていく三体の翼竜を見送る。
「悪いな。速度を見誤って反応が遅れた。咄嗟に撃てなかったわ」
「ここから狙い撃つことはできますかな?」
「無理だな。離れすぎてる。俺の腕じゃ当たらねぇわ」
「それは残念至極」
「ただまぁ、やりようはある。とりあえずバギーに戻るか」
リュウエンには悪いが、ずっと以前にロジンと打ち合わせていたことがある。今回のような事態の対処方法だ。追手がいると聞いた時点から警戒は怠っていなかった。
その追手というのが、翼竜騎兵隊という偵察部隊であることも聞いていた。元々八騎しかいないうちの半数はロジンが逃亡中に多大な犠牲を払って討伐していることも。
随分前からリャンキとカイエンが上空を飛んでいるそれらしい影があると報告を上げていたし、敵が襲撃のタイミングを計っているというのもわかっていた。
なので、こちらもその予測を立てるのが容易だった。狙うならロジンよりもリュウエン。実行するのは人が少ない場所。わかりやすくて非常に助かる。
そんでまた読み通りってのがな。セオリー通りっちゃそうなんだけども、ここに来る途中でロジンが『来るならそろそろでしょう』って言ってたからな。すげぇわ本当。
二人でバギーに乗ってからエレスに声をかける。
「エレス、データ1の〈ロード〉だ。ポチで浮上して周囲の警戒にあたってくれ」
【かしこまりました】
「うわあああっあ、あれ⁉ あれぇ⁉」
壺を高く持ち上げた状態のロジンの膝の上にリュウエンが現れる。
ダンジョンでセーブしなかったのは、データ1がリュウエン専用でデータ2がメリッサ専用にしてあったから。俺が離れてるときに二人に何かあったら困るんでね。
実は事あるごとに上書きしている。これはついさっきバギーを降りる直前のものだ。
挙動不審になるリュウエンに【おかえりなさいリュウエン。では行って参ります】とエレスが言い、ポチが俺の背から離れ空気を噴出させて飛んで行く。
「な、なにが起きたのですか⁉」
「リュウエンが翼竜に連れ去られて空のお散歩をしたんだよ。楽しかったか?」
「そんな訳ないでしょう⁉ 心臓が握り潰されたかと思いましたよ!」
「ふぅむ、信じてはいましたが、やはり目を疑ってしまいますな」
「はははは、俺もびっくりしたよ。リュウエンがひゅーんて飛んでったと思ったらロジンの膝の上に出てくるんだもん。いやぁ、どうなってんだろなこれ?」
「わ、笑い事じゃないですよ! 私で遊ばないで下さい!」
気の抜けた会話をしながらバギーを走らせる。ちゃんとポチがついてきているのを確認しつつ速度を調整。全力を出せばポチの方が速いが警戒中だからな。
ロジンの方も調整中のようで、壺を持った両手を下ろしてリュウエンに委ねていた。間もなく壺をリュウエンが抱え、リュウエンをロジンが抱える形が仕上がった。
「さてさて、どうなるかねぇ?」
「ま、またさっきの竜が来るのですか⁉」
「来るでしょうなぁ。落としたと誤認するほど見晴らしは悪くありませんし」
「そもそもあんな高さから落としたら地上を捜索しても意味ないからなぁ」
「落ち着きすぎです! あ、あれ! セイジ殿、あそこにいます!」
リュウエンが指差した方向に目を遣ると黒い点が三つ確認できた。こらまたお早い登場で。ちょうど良いのでバギーを止めて光弾突撃銃を準備する。
「結構な速度があるからな、俺一人で二体ってのは厳しいぞ?」
「右の一体はお任せを。魔法で撃ち落としてみせましょう」
「んじゃ、俺は左かな。エレスは真ん中を頼むー!」
空中浮揚しているポチに手を振りながら言うと【かしこまりましたー】という拡声機能でエレスから返事があった。ちゃんと聞こえていたようで何よりだ。
そうこうしている間に影が大きくなってきた。ぐんぐん近づいてくる。
「お先に失礼。飛氷刃!」
ロジンが叫んで片手を天に向けた。以前山賊を討伐する際に見たのと同じく、手の先に薄い青色の透き通った氷のような刃が五つ現れた。
それらはヒュッという音を発して一斉に右の翼竜に向かって飛び、間もなく刃渡り二十センチほどの鋭利な刃が翼竜の翼や胴体に深々と突き刺さった。
「ギェッ!」という悲鳴を上げて右の翼竜が落ちるのを確認後、俺はトリガーを引き左の翼竜に銃撃を開始した。ポチも既に中央の翼竜に撃ち始めている。
ドフドフポシュポシュという音が数回鳴り響くと光弾を食らった翼竜が落下していった。俺は四発撃って全弾命中。的が大きいので狙いやすかった。
落ちたのは二三十メートル先なのでエレスに確認を頼む。生きていたらトドメを刺してもらい、死体はストレージに回収してもらうようお願いした。
「ありがとうございます。セイジ殿のお陰で、ようやく仇が討てました」
そう言うロジンの表情は、少しも嬉しそうなものではなかった。
無理もねぇよな。
翼竜騎兵隊もラオに騙されて自分たちに正義があると思い込まされてただけ。宰相という立場からすると、貴重な偵察部隊の壊滅も望ましくはないだろうしな。
複雑な心境を抱えているロジンに「残念だな」と気休めにもならないような声をかける。「全くです」という返事を聞いた後、俺はまた勢いよくバギーを走らせた。
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