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思いもよらぬ再会
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あ……ありのまま今起こったことを話すぜ。
領地の屋台巡りをしていたら、他国の王子が屋台で売り子をしていたでござる。
何を言っているかわからないと思うが私にも訳がわからんのですよこれが!
「……なぜこんなところにいらっしゃるのでしょうか?」
現在、香辛料や薬草の取引は順調なはず。
むしろスパイスブームで大忙しだから本国に缶詰めになっていると思ってたのに。
「いやー、ははは。香辛料が売れに売れて俺がやることがなくなったから、今度はフルーツを売ってこいと領民に言われてな」
カルド殿下は微妙に視線を逸らしつつ答える。
いやいや、新商品の販路拡大は商隊にまかせたらよいのでは?
「そうなんっすよー。領主使いの荒い領民で俺たち困っちゃう! あ、これ食べてみるっすか?」
ティカさんがしれっと答えつつ、手近にあったフルーツの皮を手際よく剥き、ココナッツっぽい殻で作ったらしきお皿に盛り、ささっとピックを刺して私たちに差し出した。
うーむ、ソツがない。
なんだかうまいこと話題を変えられた気がするけど、目の前のフルーツの魅力には抗い難い。
「い、いただきますわね……」
私がピックを持ち上げると、ティカさんは他のメンバーにもパパパッと配っていく。
おお、手早い。ミリアの給仕に引けを取らないスムーズな動き。
さすが長いことカルド殿下の従者を務めてきただけあるわね、さすティカ!
ティカさんに感心しつつ、手元のカットされたフルーツを見る。
……ふむ、配られたフルーツは見たところマンゴーっぽい感じだけど……
カットしている時からブワッと漂ってきた甘い香りで、いやこれ絶対美味しいやつ! という確信がある。
私は躊躇うことなくパクッとひとくち齧った。すると、むせそうなほどの甘い香りとそれに負けないフルーティーな甘さが口いっぱいに広がった。
うっわあ……すっごい。
うん、これやっぱりマンゴーだわ!
「んん! すっごく甘くて美味しい!」
「ふわぁ……これだけ甘いフルーツって、ドリスタン王国じゃなかなか無いですよぉ」
マリエルちゃんもほわぁ……って頬を緩ませながら同意した。
他の皆も美味しそうにその甘さを堪能していた。
確かに、これだけ甘いマンゴーは前世でもなかなかお目にかかれないと思う。
贈答用の、おひとつン万円とかそういうお高いやつだわ、これ。
ドリスタン王国ではベリー系やリンゴや洋梨っぽいのとか、柑橘系のフルーツは流通しているけれど、マンゴーなどの南国系のフルーツって出回っていなかったはず。
気候の関係で栽培が難しいのかもしれない……いや、温室を作ればいける……かな?
前世と比べて種苗法とか無い世界だからね。
前世の感覚的には褒められたことじゃないけれど、種をとっておいて栽培できるかチャレンジしてもいいかもしれないな……
「な、美味いだろ? ここらじゃサモナールくらいしか採れないやつだぜ」
カルド殿下がニカッと笑って言った。
おおう……すみません。
サモナール国民の販路を妨害するつもりはないけど、試しに栽培してもいいですか?
正直なところ、種や苗を手に入れたところで、サモナール国に近い気温や湿度などの再現や土壌の改良だの色々課題をクリアしてもこの美味しさに敵わないのは重々承知の上だ。
前世でもこっそり苗や種を持ち帰って栽培しても、同じ品質にはならなくて見た目同じでも別物だ、美味しくない! と酷評された、なんて事例があったものね。
そのことを踏まえた上で実験も兼ねて、庭師のトマスおじいちゃんにお土産として渡して栽培をお願いしてみよう。
トマスおじいちゃん、最近私がいないから無茶振りする人がいないこともあって暇だって言ってたからちょうどいいわ。
でもその前に、念のためカルド殿下にお伺いをたてておいて、ダメならスパッと諦めよう。そうしよう。
「あの……これ、我が家で種を撒いて育ててみたいのですけど……」
「ん? あー……ダメとは言わねえけど、多分、ドリスタン王国じゃ育たねぇと思うぞ?」
カルド殿下が逡巡してから答えた。
あ、やっぱり気候とかの条件的に厳しいんだな。
だから、どうせ育たないだろうからやってみたら? なノリで答えたとみた。
「本当ですか? ありがとうございます!」
「いやそれ、一応言っておくけど、サモナール国内でも限られた土地でしか栽培できないぞ。それでもいいならやってみな」
「いや、でん、いや若様それは……」
「ありがとうございます! うちの庭師に育ててみてってお願いしてみますね♪」
ティカさんが待ったと言い出しかけたけれど、言質は取ったどー!
私が嬉しそうに答えるのをカルド殿下はにこにこと眺め、ティカさんはあちゃーって顔で見ていたけれど、言質はとったのだ。
それに、お試しだから、うん。
あ、お父様に温室の建設をお願いしなくては。サモナール国の気候が再現できそうなやつ。
火属性の魔石のいいやつを黒銀に出してもらって、今預けている水属性の魔石を使って、温度と湿度調整ができるようにオーウェンさんに温室の改造をお願いしようっと。
え? 本気出してないかって?
いやですわ、お試しですわよ、お試し。
ただ、やるからには全力で私の財力と(お父様という)コネと場所(魔改造した温室)を手配するだけで、あくまでもお試し、なんですのよ。ほほほ。
「……クリステアさんが悪い顔してる」
「ほんとだ。なにかたくらんでるかおだ」
「そのようだな。まあ、我は主の意向に従うまでよ」
「うん、それはそう~」
「……テア?」
おおっと⁉︎ お兄様が笑顔で「後でちゃんと説明するように」って圧をかけるう!
いや、説明はしますけれども。
「……若様、許可出してよかったんすか、これ?」
「……いや、俺も今ちょっと後悔しかけてる」
ティカさんと殿下が何かボソボソと内緒話してるけど、あー、あー、聞こえなーい!
それはそれとして、これはかき氷のソースに使えそう!
冷たいと甘さって感じにくくなるけれど、この甘さならマンゴーそのものを凍らせてかき氷にしても問題なく美味しいはず。
他にも、ライチやドラゴンフルーツなどによく似た南国フルーツがあったので山盛りになるほど購入したのだった。
「こりゃ持ち帰るには多すぎるから、おまけもつけて領主館に運んでおく」
カルド殿下はそう言って「さすがにここでインベントリに収納するには多すぎるからな」と小さな声で付け加えた。
「わあ、ありがとうございます!」
確かに、何箱ものフルーツがごっそり消えたら、このバッグがマジックバッグなんですって説明したところでそのバッグが貴重すぎて狙われちゃうからね。ありがたやー!
「できれば時間停止機能のあるマジックボックスで保管しておけ。これ以上は腐りやすいからな」
「……エリスフィード領で販売するのも、それが理由だったりします?」
「ああ、輸送中に追熟させているんだが、ここまでが限界だな。マジックバッグやボックスに入れられたらいいんだが、これだけの量を運ぶとなると輸送費がかかりすぎる」
すでに香辛料の品質を維持するために大容量のマジックバッグを手に入れているそうなのだけど、フルーツの分もとなるとマジックバッグやボックスそのものが高価なためにそれ狙いの盗賊に襲われかねない。
そうなると護衛の数も増やさなきゃいけなくなるしで二の足を踏んでいるそう。
「エリスフィード領は治安もいいしな。ここら辺で売り捌くのがちょうどいいんだよ」
「なるほど、そうなのですね」
確かに、エリスフィード領は街道もしっかり整備されているし、オーク目当ての冒険者がついでに他の魔物も狩ってくれているから安全といえば安全か。
「若様、それだけじゃないっしょー?」
「うるさい!」
「?」
「美味しいフルーツがエリスフィード領で買えると聞きつけたクリステア嬢が買いにくるかもなって言ってたじゃないっすかー」
「へ?」
「いっ言ってない! そ、そんなこと言ってないからなっ!」
「……まだ、諦めてないのですか。テア、代金は僕が払っておくからセイのところへ行きなさい」
「え? あ、はい……」
急に涼しくなったと思ったら、お兄様が冷気を放っていた。
いや今はそれ心地よいだけだと思いますが?
……なんてツッコミが入れづらいほどおこなお兄様の様子に、私たちはカルド殿下たちへ挨拶もそこそこに、そそくさとバステア商会に向かうのだった。
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現在、香辛料や薬草の取引は順調なはず。
むしろスパイスブームで大忙しだから本国に缶詰めになっていると思ってたのに。
「いやー、ははは。香辛料が売れに売れて俺がやることがなくなったから、今度はフルーツを売ってこいと領民に言われてな」
カルド殿下は微妙に視線を逸らしつつ答える。
いやいや、新商品の販路拡大は商隊にまかせたらよいのでは?
「そうなんっすよー。領主使いの荒い領民で俺たち困っちゃう! あ、これ食べてみるっすか?」
ティカさんがしれっと答えつつ、手近にあったフルーツの皮を手際よく剥き、ココナッツっぽい殻で作ったらしきお皿に盛り、ささっとピックを刺して私たちに差し出した。
うーむ、ソツがない。
なんだかうまいこと話題を変えられた気がするけど、目の前のフルーツの魅力には抗い難い。
「い、いただきますわね……」
私がピックを持ち上げると、ティカさんは他のメンバーにもパパパッと配っていく。
おお、手早い。ミリアの給仕に引けを取らないスムーズな動き。
さすが長いことカルド殿下の従者を務めてきただけあるわね、さすティカ!
ティカさんに感心しつつ、手元のカットされたフルーツを見る。
……ふむ、配られたフルーツは見たところマンゴーっぽい感じだけど……
カットしている時からブワッと漂ってきた甘い香りで、いやこれ絶対美味しいやつ! という確信がある。
私は躊躇うことなくパクッとひとくち齧った。すると、むせそうなほどの甘い香りとそれに負けないフルーティーな甘さが口いっぱいに広がった。
うっわあ……すっごい。
うん、これやっぱりマンゴーだわ!
「んん! すっごく甘くて美味しい!」
「ふわぁ……これだけ甘いフルーツって、ドリスタン王国じゃなかなか無いですよぉ」
マリエルちゃんもほわぁ……って頬を緩ませながら同意した。
他の皆も美味しそうにその甘さを堪能していた。
確かに、これだけ甘いマンゴーは前世でもなかなかお目にかかれないと思う。
贈答用の、おひとつン万円とかそういうお高いやつだわ、これ。
ドリスタン王国ではベリー系やリンゴや洋梨っぽいのとか、柑橘系のフルーツは流通しているけれど、マンゴーなどの南国系のフルーツって出回っていなかったはず。
気候の関係で栽培が難しいのかもしれない……いや、温室を作ればいける……かな?
前世と比べて種苗法とか無い世界だからね。
前世の感覚的には褒められたことじゃないけれど、種をとっておいて栽培できるかチャレンジしてもいいかもしれないな……
「な、美味いだろ? ここらじゃサモナールくらいしか採れないやつだぜ」
カルド殿下がニカッと笑って言った。
おおう……すみません。
サモナール国民の販路を妨害するつもりはないけど、試しに栽培してもいいですか?
正直なところ、種や苗を手に入れたところで、サモナール国に近い気温や湿度などの再現や土壌の改良だの色々課題をクリアしてもこの美味しさに敵わないのは重々承知の上だ。
前世でもこっそり苗や種を持ち帰って栽培しても、同じ品質にはならなくて見た目同じでも別物だ、美味しくない! と酷評された、なんて事例があったものね。
そのことを踏まえた上で実験も兼ねて、庭師のトマスおじいちゃんにお土産として渡して栽培をお願いしてみよう。
トマスおじいちゃん、最近私がいないから無茶振りする人がいないこともあって暇だって言ってたからちょうどいいわ。
でもその前に、念のためカルド殿下にお伺いをたてておいて、ダメならスパッと諦めよう。そうしよう。
「あの……これ、我が家で種を撒いて育ててみたいのですけど……」
「ん? あー……ダメとは言わねえけど、多分、ドリスタン王国じゃ育たねぇと思うぞ?」
カルド殿下が逡巡してから答えた。
あ、やっぱり気候とかの条件的に厳しいんだな。
だから、どうせ育たないだろうからやってみたら? なノリで答えたとみた。
「本当ですか? ありがとうございます!」
「いやそれ、一応言っておくけど、サモナール国内でも限られた土地でしか栽培できないぞ。それでもいいならやってみな」
「いや、でん、いや若様それは……」
「ありがとうございます! うちの庭師に育ててみてってお願いしてみますね♪」
ティカさんが待ったと言い出しかけたけれど、言質は取ったどー!
私が嬉しそうに答えるのをカルド殿下はにこにこと眺め、ティカさんはあちゃーって顔で見ていたけれど、言質はとったのだ。
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あ、お父様に温室の建設をお願いしなくては。サモナール国の気候が再現できそうなやつ。
火属性の魔石のいいやつを黒銀に出してもらって、今預けている水属性の魔石を使って、温度と湿度調整ができるようにオーウェンさんに温室の改造をお願いしようっと。
え? 本気出してないかって?
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「……クリステアさんが悪い顔してる」
「ほんとだ。なにかたくらんでるかおだ」
「そのようだな。まあ、我は主の意向に従うまでよ」
「うん、それはそう~」
「……テア?」
おおっと⁉︎ お兄様が笑顔で「後でちゃんと説明するように」って圧をかけるう!
いや、説明はしますけれども。
「……若様、許可出してよかったんすか、これ?」
「……いや、俺も今ちょっと後悔しかけてる」
ティカさんと殿下が何かボソボソと内緒話してるけど、あー、あー、聞こえなーい!
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他にも、ライチやドラゴンフルーツなどによく似た南国フルーツがあったので山盛りになるほど購入したのだった。
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確かに、何箱ものフルーツがごっそり消えたら、このバッグがマジックバッグなんですって説明したところでそのバッグが貴重すぎて狙われちゃうからね。ありがたやー!
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「……エリスフィード領で販売するのも、それが理由だったりします?」
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「エリスフィード領は治安もいいしな。ここら辺で売り捌くのがちょうどいいんだよ」
「なるほど、そうなのですね」
確かに、エリスフィード領は街道もしっかり整備されているし、オーク目当ての冒険者がついでに他の魔物も狩ってくれているから安全といえば安全か。
「若様、それだけじゃないっしょー?」
「うるさい!」
「?」
「美味しいフルーツがエリスフィード領で買えると聞きつけたクリステア嬢が買いにくるかもなって言ってたじゃないっすかー」
「へ?」
「いっ言ってない! そ、そんなこと言ってないからなっ!」
「……まだ、諦めてないのですか。テア、代金は僕が払っておくからセイのところへ行きなさい」
「え? あ、はい……」
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