転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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まるっと全部お見通しよ!

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「ああ、びっくりした。まさかカルドでん……様がいらっしゃるとは思わなかったわ」

「本当、びっくりですよね。でも、動機というか、目的ははっきりしてますよねぇ?」

 私の素直な感想にマリエルちゃんがにまぁ……と笑みを浮かべて答える。

 マリエルちゃんが指摘しているように、カルド殿下はフルーツの販路拡大が目的のように言っていたけれど、ティカさんが言うとおり私のことが目当てでもあるのだろう。

 ……そろそろスパイスを使った新作レシピが欲しいんでしょう? 知ってた。
 そんなことはまるっと全部お見通しよ!

 でもねぇ、新作レシピは次の外交カードとしても使えそうだから、そうおいそれと渡すわけにはいかないと思うの。

 同意を得ようとマリエルちゃんに話すとマリエルちゃんがチベスナ顔で私を見た。

「……クリステアさん、そろそろ鈍感キャラやめません?」

「失礼ね、誰が鈍感キャラよ。体は子ども、頭脳は大人! ばりに名推理だったじゃないの」

「いや、こればっかりは真実はいつもひとつ、じゃないと言いますか……うう、喪女を拗らせるとここまできてしまうのかな……私も気をつけないと」

何やら小声でぶつぶつと呟いているけれど、どうも失礼なことを言われているのは気のせいじゃないと思う。

そうこうしているうちに、バステア商会の建物の前に到着した。

「あら、クリステア様いらっしゃいませ。ご用事はもうお済みですの?」

店内に入ると、店番をしていたらしき朱雀様に声をかけられた。

「朱雀様! はい、発注依頼は済ませたので完成の連絡が入ったら受け取りに来ようかと」

「左様でございますか。我が主もこちらでの用事は済ませましたのでいつでも帰れますわよ。主に知らせてきますわ」

朱雀様はそう言って、店内にいた他の店員に声をかけて店の奥へと消えていった。

その間、私たちは店内を練り歩いて食材を買い漁ったのだった。

ちょうど、餡子用に小豆を取り寄せていたものが届いていたので、そのまま受け取り持ち帰ることにした。

そろそろストックが無くなりかけていたからナイスタイミングだったわ~。

「クリステア嬢、マリエル嬢。待たせてすまなかった」

店の奥からセイが朱雀様と白虎様を従えて颯爽と出てきた。

「いいえ。久しぶりにバステア商会本店で買い物ができて楽しかったわ。やはり王都より本店の方が品揃えがいいわね」

王都のメイヤー商会が発祥らしき店内ポップを真似て「エリスフィード公爵家クリステア様ご愛用」とか「クリステア様の必需品」とか書いてある紙が添えられているのは見なかったことにしよう、うん。

私がポップから視線を逸らしたのに気づいたセイは「すまない。エリスフィード領だと、こうすると特に料理人らしき客が飛びつくみたいで……」ともうしわけなさそうに謝られた。

「俺がこういうのが王都で流行ってるんだぜって教えてやったんだ。加えてお嬢の名前を出せば売れんのは確実だろ?」

「……バステア商会にはいつもお世話になっているから、気にしないことにするわ」

「……すまない」

ドヤ顔で説明する白虎様の横でため息を吐くセイと、その背後にいる店員さんたちが凄い勢いでこくこくと頷くもんだから「直ちに撤去しなさい」とは言えなかったよ……

後で領地の料理長に聞いたところによると、バステア商会本店はクリステアの美食の原点として一部の料理人たちから聖地扱いされているとかなんとか。

……なんでやねん!

でもこれがきっかけで和食……ヤハトゥール料理が広まって美味しいものが増えるのなら結果オーライってことでよしとします!
……しないとやってらんない!

せめてものお詫びとたくさんおまけしてもらいバステア商会を出ると、迎えの馬車が待っていた。

「テア、帰るよ」

「お兄様! ……カルド殿下は?」

「ああ、今晩サモナール国へ向かう船に乗るらしいからそのまま別れたよ。さ、馬車を回してきたから屋台を避けて帰ろうか」

馬車が二台居たので、カルド殿下たちを我が家に招待したのかと思ったのだけど、違うらしい。

「鈍感系に束縛系……いや、ヤンデレ系? 泥沼になりそうで混ぜるな危険、な組み合わせでは?」

はい、マリエルさんそこ、ぼそっと不穏な考察をするのはおやめなさい。

私は鈍感系じゃないし、お兄様は束縛系でもヤンデレ系でもない……はず、よね? だよね?

一抹の不安を覚えつつ、お兄様と私、セイとマリエルさんとそれぞれの聖獣の皆様を乗せた二台の馬車はスルスルと走り始めた。

同乗するなら気兼ねなく女子トークで盛り上がれるマリエルちゃんや朱雀様、ミリアの女子組編成がよかったのだけれど、護衛任務的にエリスフィード兄妹がまとまってくれていたほうが護衛しやすいから、と却下された。ちえっ。

聖獣様がいるとはいえ、女子だけが乗る馬車ということで、変な輩に目をつけられたりしないようにと配慮した上の振り分けだと言われちゃあねぇ。しゃーない。

領地の館に戻り、転移で帰る前にひと息入れようとお茶をいただいている間に、餡子を作るための小豆の茹でこぼし作業を料理長がしてくれたので助かっちゃった。

地味に渋切りとかアクとりとかで鍋から離れられないから面倒なのよね、あれ……

砂糖を加える前の状態で受け取り、熱々のままの茹で小豆をインベントリへ。
仕上げは特別寮に帰ってからしようっと。

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