転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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報告と手配書

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領地の館な転移部屋から王都の屋敷の転移部屋へサクッと転移して、お父様にカルド殿下たちが市場の屋台に出店していたことをお茶の席で報告した。

「……まったく、何をしているのだ、あの御方は」

頭痛がするとばかりに眉を顰めるお父様に同情しつつ、カルド殿下の屋台で手に入れた南国フルーツをいくつか試食として出した。

「これは?」
見慣れない果実にお父様は怪訝そうだ。

「カルド殿下が次に我が国で売り出したい品だそうで、サモナール国の気候で育つフルーツだそうです」

「……そういうことは直接我々に打診してほしいものだが、まあ市場調査したいのはわからんでもない。ふむ、なんとも華やかな色と香りだな」

お父様はフルーツの盛り合わせを矯めつ眇めつして、添えていたフルーツピックを手に取り、鮮やかな色をしたマンゴーを口にした。

傍でソワソワして見ていたお母様もお父様を見て同じくマンゴーを取り口にした。

「なんと甘い。ここまで甘い果実は我が国ではなかなかお目にかかれないぞ」

「まあぁ……これは素晴らしいわ。砂糖煮でもないのに、この甘さだなんて」

そうなんだよねぇ。
りんごやオレンジ、プラムとか、そういう系はまあまあ手に入るけれど、どうも酸味が強いのが多いのよね。
甘い……けど酸っぱ! みたいな。

ものによっては追熟させたらそれなりに甘くなるんだけど、その見極めが難しいのか、腐らせるよりかはってんで、そこそこ甘くなったら出荷しちゃうみたい。
その状態でも十分甘いと思われているからしかたないとは思うけれど。

その点では、カルド殿下率いる商隊が持ち込んだフルーツは熟し具合からしてベストな状態と言える。

まあ、後数日過ぎれば熟し切って傷んでしまうだろうから、エリスフィード領で売っぱらうのは正しい判断だろう。

「まあ、王都では食べられないなんて残念ね。ああ、でも我が家は転移部屋で運べばいいのだわ。ね? あなた?」

「う、うむ。検討しよう」

「ありがとうございますわ、あなた」

お父様とお母様の間でハートマークが飛び交っているみたいだ。
甘ーい! マンゴーより甘いよ!

「周囲の屋台との馴染み具合から見るにかなり前から何度も滞在していたみたいでしたよ」

お兄様もお父様たちの甘い雰囲気に耐えられなかったのか、コホン、と小さく咳払いしてから言った。

「なるほどな。ティリエの報告通りだ」

「え?」

「いやなに、ここしばらくベーコンが他国の商人に定期的に買い占められて、手に入れられなかった者からの苦情が絶えなかったそうでな。見た目の特徴からサモナール人なのではと見当をつけていたところだ」

えええ……何やってんの、カルド殿下。
いや、カルド殿下の仕業とは断定できないけどさ。状況的に怪しすぎるでしょ。

「それで、どうなさったのですか?」

「どうもこうも、とりあえず苦情を申し立ててきたものにはギルドで割符を渡して、翌日引き渡すようにしておいた。後は工房に割符分も含めて少し多めに納品するよう手配して終わりだ」

割符を予約引換券として発行したのか。
さすがお父様。頭いい!

本当は前から導入を検討していたようだけど、それはそれで予約で完売となりでもしたら割符を奪われたりする危険や割符の偽造が横行する可能性があるので二の足を踏んでいたそうだ。

それを防止するために、割符が一致すると光る魔法のインクを開発、割符のギルド控え側に受取人のサインを入れて(字が書けない者はギルドで代筆)受け取り時に本人確認をすることで、割符が一致しても受取人の名乗りがサインと異なると受け取れないというしくみなのだそう。

もし、受け取りの際にトラブルが発生した場合、取り調べをして割符の強奪にしろ偽造にしろ厳罰処分となるそうだ。

ひえー、徹底してるぅ!
まあ、要は窃盗に詐欺なんだから妥当と言えば妥当なんだけども。

それにしても、工房はこのせいでさらに多めに納品しなきゃいけなくなったから大変だったろうな。
アッシュかわいそう……強く生きて!
お父様に工房の増員をお願いしとくからね!

かき氷器の受け取りのときにでも差し入れを持っていくことにしようっと。

「カルド殿下は今夜出航の船で帰国されるとのことでしたので、館に招待できませんでした。ただ、今後入国の際は我が家に逗留をとお伝えしたところ、商人として滞在しているので気持ちだけ受け取っておく、と。ただし、親善での訪問の際は遠慮なく伺わせていただくとのことでした」

あくまで建前としてですが、とお兄様が淡々と報告する。
まあ、うん。社交辞令だろうねぇ。
王都の市場でさえ好きにやってたんだし、かたっくるしいのは嫌いなタイプなんだろう。

「商人として、と言えども、他国の王子が市井を護衛もなくうろつかれるのは困るのだが……」

キュッとお父様の眉間に皺がよった。

確かに、もしカルド殿下が何らかのトラブルに見舞われて負傷どころか亡くなられでもした日には外交問題に発展しちゃうからねぇ。

「……衛兵に領地の市場を定期的に見回らせてカルド殿下の入国を監視しては?」

お兄様がお父様に提案したけれど、館の者はカルド殿下の顔の見分けがつかないので難しい。

王都の使用人たちは屋敷に招待したこともあるのでわかるかもしれないけれど、そのために王都を離れたりはしたがらないだろう。

「それに、サモナール人は褐色の肌色で見分けがつくが、個人の特定までは難しいかもしれぬ」

あー、人種的に見分けがつかないあれか。
ヤハトゥール人もはじめは同じに見えるように、サモナール人もぱっと見わかりにくいらしい。

でも、カルド殿下はその中でも極めて美形の方だと思うし、ティカさんも糸目が特徴的でわかりやすいと思うんだけどな。

「あ、あのぅ……お役に立てるかわかりませんが、これ、使えますか?」

「え?」

マリエルちゃんがそう言ってインベントリから取り出した画帳スケッチブックの一枚をベリベリと剥がして渡してきた。

そこには、カルド殿下とティカさんの姿絵が。

「えっ……カルド殿下とティカさん⁉︎ え、う、上手……っ⁉︎」

「ほう、これはなかなかのものだ」

「あらまあ、素敵に描かれてますこと」

「確かに……でも少し美化されてないかな?」

お父様とお母様が褒める中、お兄様だけがやや辛口評価だ。

まあ、私もそう思う。
……て、いうか……何だか、BでLな雰囲気がダダ漏れしてる気がするのだけど?

いや、構図こそそれっぽくはないのだけど、二人の空気感というか……カルド殿下の色気が二割り増しというか。

「ああ、馬車に乗ってすぐに画帳に何やら描いていたのはそれだったのか」

セイが感心したように姿絵を見た。

マリエルちゃんを見ると「えへ、この情熱パッションを忘れないうちに書き留めておきたくて……」と照れくさそうに言った。

マリエルちゃん、貴女のは情熱じゃなくて妄想でしょうが。

やや呆れながらも、その姿絵はしっかり二人の特徴を捉えており、似顔絵として十分役立つとして、お父様に提供されたのだった。

その姿絵は手配書とともに複製され領地をパトロールする際に衛兵に持たされたそうだけど、予備として多めに複製されたそれが、館内の極一部の使用人(主にメイド)に出回るという現象じけんが起きたらしい。

所持していた者曰く「この絵を見ていると、何だかとてもときめくのです……いえ、この方々のどちらに懸想しているとかではなく。そう、このお二人がいらっしゃらなければこの絵に意味はないのです」などと供述しており……

……まさか、マリエルちゃんのご同輩が領地の館にいる? ええ……⁉︎

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もう9月になろうというのにこの暑さ……!
果たして今年の秋は来るのでしょうか?
そのままいきなり冬になったりしない⁇

皆様体調には気をつけてくださいね!

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