転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
418 / 435
連載

うっかり忘れがちなのよ

学園に戻ってから数日間は穏やかな日々が続いた。

あの後「殿下はそんなにベーコンが食べたかったのかな」と思い、お兄様にカフェのお礼も兼ねて殿下とお兄様の二人をランチタイムにサロンへ招待してBLTサンドをふるまったり、今度王宮のお茶会で振る舞われるであろうかき氷について報告したりなどした。

そしてのんびり週末を迎えるかと思いきや、実家エリスフィード家経由でかき氷機の試作ができたと連絡が入った。

……オーウェンさんから。

「……いくらなんでも、早すぎない⁉︎」
驚きの早さである。

「そうですねぇ……普通、魔導具製作となると、まず道具の形を決めて、用途に合う魔法陣を構築し、起動の方法だの問題なく動作するよう魔法陣やそれらを繋ぐ回路を正確に書いたり彫刻したりと手間がものすごくかかるから、数ヶ月から長くて年単位で待つとか普通でしたよね……?」
マリエルちゃんも首を傾げながら本当なのかと訝しんでいる。

オーウェンさんは魔導具狂いと呼ばれるほどの魔導具作りのオタクだから、他の人より製作スピードは段違いに早いみたいだけど、元々あるものの改造とかではなく、完全新作と言える自動かき氷機……こんなに早くできるものなの⁉︎

「とりあえず王宮のお茶会に出したかき氷の反響なんかも報告したいから週末屋敷に戻るように、ですって」
「ああ……」

反響かぁ……それは確かに気になる。
なんたってかつては悪食令嬢と呼ばれていた私、クリステア・エリスフィードプロデュースのかき氷だ。

美味しいのは間違いないから多分受け入れられるはずだけど、美味しいあまり食べすぎてお腹壊しでもしたら、悪食令嬢のせいで体調不良になったといいががりをつける人がいないとも限らない。

まあ、提供は我がエリスフィード公爵家なのだけども、母と親友の王妃様が主催のお茶会でケチをつける度胸かある人なんて限られてるだろうし。

単純にかき氷が気に入られたとして、どの味が人気だったかとか、もしかしたら料理長が追加で新たにソースやトッピングを作ったのなら私も味見してみたいよねーって。

「週末はまた帰るかぁ……マリエルさんも、行くよね? ね?」
「うう、お、お供しますぅ……」

エリスフィード公爵家に行くのに未だに緊張しまくっているマリエルちゃんを強引に誘い、セイも誘おうと思ったら、すでに抹茶や小豆の大量発注の報告がバステア商会王都支店から上がっているらしく、ひと足先に領地にある本店に向かうそう。

え、もしかして抹茶が品薄になるかも?……私も追加発注しとくべき?
セイに聞いたら、私はVIP扱いだから、私の分は常に確保してくれるって。やったー!

オーウェンさんのかき氷機試運転の立ち会いはしたいそうなので、セイとは領地で合流することになった。

週末、その日選択していた授業を終えた私たちは事前にニール先生に外出許可を得ていたので、そのまま我が家の馬車に乗り込んで屋敷に向かう予定だ。

「セイはいつ本店に?」
「今日の午後支店に顔を出してから向かうつもりだ。こちらで仕入れた商品を運ぶのも頼まれているからな」
「そうなんだ。大変なのね」
「まあ、バステア商会には世話になっているからな。恩は返せる時に返さないと」

えらい。えらいわぁ。
まだこんなに若いのにこれだけ義理堅いって。
今の私はともかく、前世の私が同年代の頃はこんな風に恩を返そうなんて発想には至らなかったと思うよ。

まあ、私は幼い頃から命を狙われるなんてこともなかったわけだけど。
そう考えるとセイってこの若さで波瀾万丈の人生送ってるよね。

「え、何だよ。セイお前また週末いないのかよ⁉︎」
「うわ、エイディー⁉︎」

私がしみじみ思いに耽っていると、エイディー様がセイの背後から忍び寄ってきてガシッと肩を組んだ。

「はわわ……!」
マリエルちゃんが私の隣で慌てて口元を押さえる。
……緩み切った口元を隠しているに違いない。
その証拠に視線は二人を完全にロックオンして離れない。
氷……落としてもいいかな?

「離せって。週末は世話になっている商会の手伝いがあるってこの前も言っただろう」
「先週もだったじゃん。いつになったら一緒に遊びに行けるんだよー?」
つれない様子のセイにブーイングするエイディー様。
……マリエルちゃんの息遣いが段々と荒くなってきたのは気のせいではない、な……

「ちぇー、一緒に武器屋に行こうと思ってたのに」
「……武器屋」
不貞腐れるエイディー様の言葉にセイが少し反応した。

「そそ。学園入学時に騎士コースで真剣に頑張るなら剣を新調してもいいって言われてたからな。父上に頼んで武器屋を紹介してもらったんだ。せっかくだからセイもどうかと思ってな」
「……いや、俺は」
武器屋に行けるとあって心が揺れているようだ。
セイもやっぱり男の子なんだなぁ。

「……いや、俺はいい。新しい武器なら今頼んでいるところだ」
「え! まじかよ⁉︎ どこの武器屋⁉︎」
エイディー様がいつの間に⁉︎ とでも言わんばかりに問い詰めた。

「ああ、ガルバノおじさまよね? 以前頼んでいたものね」
私と一緒におじさまの工房に行った時、ヤハトゥールの刀を見せて武器談義に花が咲いた時間があり、その時に「よし、わしが気が向いた時にでもこっちで使いやすい剣を打ってやろう」とか言ってたもんね。

私の発言にエイディー様だけでなく、周囲の男子生徒からもざわめきが起きた。
え、何?

「ガ、ガルバノおじさまって……も、もしかして伝説の鍛冶師ガルバノ⁉︎」
「え? 伝説……ええと、そうですわね。ガルバノおじさまは我が領地の工房で鍛冶をしていらっしゃる鍛冶師ですわ」
「ま、まじかよ……すげぇ……」

うわぁ、もしかしなくても、またしてもやっちまった案件……!
ガルバノおじさまは私からしてみたら、私を猫可愛がりしている甘々なおじいちゃまみたいな存在だから、巷では伝説とか言われてるようなすごい人ってことを忘れがちなんだよね……

うっ、周囲のざわめきと視線が痛い……っ!

---------------------------
いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` ) 
執筆の励みになっておりますっ!
感想 3,604

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

「妾の子だから」と呑気に構えていたら、次期公爵に選ばれました

木山楽斗
恋愛
父親であるオルガント公爵が大病を患った、その知らせを聞いた妾の子のヘレーナは、いい気味であるとさえ思っていた。 自分と母を捨てた父のことなど、彼女にとっては忌むべき存在でしかなかったのだ。ただ同時にヘレーナは、多くの子がいるオルガント公爵家で後継者争いが起こることを予感していた。 ただヘレーナは、それは自分には関係がないことだと思っていた。 そもそも興味もなかったし、妾の子の中でも特に存在感もない自分にはそんな話も回ってこないだろうと考えていたのだ。 他の兄弟達も、わざわざ自分に声をかけることもない。そう考えていたヘレーナは、後継者争いを気にせず暮らすことにした。 しかしヘレーナは、オルガント公爵家の次期当主として据えられることになった。 彼の兄姉、その他兄弟達が彼女を祭り上げたのだ。 ヘレーナはそれに困惑していた。何故自分が、そう思いながらも彼女は次期当主として務めることになったのだった。 ※タイトルを変更しました(旧題:「どうせ私は妾の子だから」と呑気にしていたら、何故か公爵家次期当主として据えられることになりました。)