転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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伝説の鍛冶師

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「伝説の鍛冶師……」
「まじかよ……いいなあ」
「うちの父上がいくら金を積んでも依頼を受けてくれなかったって言ってた」
「いやお前の父親って文官だろ? 無理に決まってんじゃん」

……そこかしこからそんな声が聞こえてくる。
しまった、うっかりしてた。

おじさまが作る武器は使い手の能力を引き出すよう、時には相手と打ち合い、時には共に冒険に出たりして使用者の重心やクセ、弱点などを分析したりして作り上げた武器は、本人も驚くほどの能力アップにつながるのだそう。

そりゃあ戦う職業の人たちからしてみたら、垂涎の品ってやつだよねぇ。

……武器を持つことのない文官まで欲しがっているとは思いもよらなかったけれど。

まあ、それについては国王陛下がお忍び(笑)で
お父様も巻き込んで冒険者を始めた当時にティリエさんと一緒にお目付け役も兼ねてパーティーを組んでいたそうで、その縁で剣を一振り打ってもらったらしく、今は家宝、いや国宝になっている。

その国宝を拵えた鍛冶師に剣を打ってもらったら自慢できると当初おじさまに武器の注文が殺到したそうなのだけど「わしと直接手合わせしてまともにやり合えるなら考えてもいいぞ」と言い放ったそうだ。

おじさまは鍛冶師ながらドワーフあるあるの闘う鍛冶師。
しかも、冒険者としても高ランク。
(それ故に陛下たちのお目付け役として抜擢されたみたいなのよね)

そんなおじさまに敵う貴族なんてなかなかいるはずもなく……
まあ、大抵の場合諦めるよね。

それでも、中には果敢に挑戦してきた人もいたらしいのだけど、コテンパンにやられ尻尾を巻いて退散していったそうな。

そういうわけで、おじさまは滅多に武器のオーダーを受けない、伝説の鍛冶師になったのだった……

まあそれは昔の話で、今の若者たちは伝説と呼ばれた経緯は知らないまま、伝説の文字だけが一人歩きしているのだ、というのは本人おじさま談。

いやいや、荒くれ者の冒険者たちにも畏れられてるよね?
謙遜がすぎる。

とはいえ、本物の騎士や冒険者で見込みのある人には作っていたんだけど……ここ数年は特に仕事を受けないことから、伝説の二文字がさらにひとり歩きしたみたいなんだよね。

……ええと。ここ数年は、主にキッチン用品に精を出してたんですよね……ええはい、私の。

伝説の鍛冶師は、キッチン用品の製作に勤しんでました……と。まあ、そういうわけなのですが。
……いたたまれない。

「いいなぁ、俺もいつか伝説の鍛冶師に認めてもらって俺の剣を打ってもらいたいぜ」
「ははは……」
……本っ当にいたたまれない。

「てかさ、もしかして伝説の鍛冶師のとこに行くんだったら俺もついて行きたいんだけど!」
「は? そんなわけないだろ。世話になっている商会の手伝いにいくだけだし、ガルバノ殿にはいつか作ってやろうと言われているだけだ」

セイの言葉にエイディー様は「えー、なんだよ。ちぇっ残念」と言ってすぐに諦めてくれたのだけれど、周囲はさらにざわついた。

「伝説の鍛冶師と口約束でも製作の約束をしてるとか、アイツすげえな!」
「てことは、かなりの実力者ってことか……」
ギラっとした視線がセイに集中した。

騎士コースだけでなく、文官コースを取っている子息たちまで値踏みするような目でセイを見ていた。

ガルバノおじさまの武器を持っている人はもれなく実力者だという認識があるので、スカウトしたいのだろう。

中には、その武器を無理やり買い取ってやろうと画策しているのかもしれないし。

「じゃあ、もし伝説の鍛冶師に会う機会ができたら、俺もついていっていい?」
「いつになるかわからないから無理」

「えー、そういわずにさあ! あ、じゃあ今度の長期休みに一緒に行かないか?」
「しばらくは商会の手伝いで忙しいから無理」

「えぇ……あ、じゃあさ! クリステア嬢んとこの領地に工房があるんだろ?」
「え? ええまあ……」

「今度の長期休暇に領地に遊びに行ったらダメか?」
「え?」
今なんておっしゃいました?

「……! 何を言ってる! ダメに決まっているだろう!」
「えー? クリステア嬢に案内してもらわないと辿り着けないかもだし。そういえばロニーもクリステア嬢の領地にある魔導具の店に行きたいとか言ってただろ? みんなで行けば楽しいと思うぜ!」

うわあ、陽キャの謎理論きたー!
前世から陰キャ寄りの私とは相容れないやつー!
マリエルちゃんもさすがに「腐腐腐……」と言ってる場合じゃなくなったみたいで「ヒュッ……!」と息を飲んでいた。

「……武器屋には興味はないが、オーウェン師の魔導具店は行かねばならないと思っていたところだ」
ひえっ! ロニー様も参戦してきたぁっ!

「いつ行く? この週末でも構わないが? いや、今製作中の魔導具について質問したいから書面の用意をするには時間が足りないか……じゃあ……」
ロニー様が詰めてくるよぉ……ぴぇ。

「あ、あの、週末は私も用事がございますし、そのお話はまた今度ゆっくりと」
「む、そうか。それでは今のうちに色々と準備しておくとしよう」

「はは……」
いや、この週末はそのオーウェンさんに会いに行くんですけどね。
言ったら絶対「ついていく!」と言って聞かないと思うから言わないけど……!

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