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【父視点】公爵、娘について語る
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私の名はスチュワード・エリスフィード。
ドリスタン王国のエリスフィード公爵と言えば王族との繋がりも深く、また陛下とは学園で同期であったこともあり、王家に一番近い貴族と名高い。
エリスフィードに産まれた者は大概強い魔力を持つことが多い。私もそうだったが、我が娘のクリステアも多分にもれずその一人だ。しかし、私よりもはるかに多くの魔力を持って産まれたがために制御ができず暴走することが度々起きた。
王都での魔力暴走は危険だと判断し、領地の館で育てることになった。
魔力の制御がうまくできない赤子の頃の娘は、痩せこけ、すぐに熱を出してしまうほど弱々しかった。だが、空気の良い領地で滋養のある食事を食べさせ、なんとか成長することができた。年齢を重ねるにつれて魔力制御もできるようになったことで子供らしくふっくらとしてきた時は心底ホッとしたものだ。
こうなると娘が産まれた時に陛下が「娘ちゃん王家にちょうだい?」などとふざけたことをぬかし……いや仰られた時に、辞退する口実となったので今となってはよかったと言えよう。娘は王家にはやらん。
妻のアンリエッタはヤツ……いや陛下が王太子だった頃の元婚約者なのだが、当時周囲の令嬢からの嫌がらせがひどかったのを知っている。娘をそんな目に決してあわせるものか。そう決意した私はそのまま娘を王都へ連れて行くことなく領地で育てていたのだが、娘はそんな父の想いも知らず、王都にあこがれを抱いていた。社交界にデビューして、華やかなドレスを着て舞踏会へと行きたいのだと娘付きの侍女に語っていたそうだ。
……クリステアよ、私は其方が獲物を狙う獣のようにどこぞの子息を巡って争うような令嬢にはなって欲しくないのだが……あれは時に恐怖を覚えるからな。そう妻にこぼすと「年齢が上がれば上がるほどそうなる傾向があるので、むしろ早いうちに婚約者を決めてやるのが親の役目ですわ」と諭されたのだが……そうなのだろうか。私は親に勧められた婚約には頷かなかったから君と結婚できたと思っているのだがな。そう妻に言うと「もう……あなたったら」と怒ったように照れるのでとても可愛らしい。おっと、妻の可愛いところは私だけが知っていれば良いことなのでここだけの話だ。
しかし、親である我々が婚約者を決めると言っても、私が納得いくような子息などそうそういるものでは無いだろう?
妻としては、過去王太子……今の陛下と婚約していながら破棄に至ったことに王家や実家に負い目もあってか王太子を勧めてくるのだが、我が娘がヤツの……いや、陛下の義理とはいえ娘になるなどというのは承服しかねる。しかし、魔力を持つ娘が王都のアデリア学園に入学するまであとわずか。そうなれば最低限でも社交は避けられぬので、やはり、それまでに決めておくべきなのだろうか……いやいや、なんなら無理に嫁ぐ必要など無いのだから、急がなくても……
そんな益体も無いことを考えていたある日、娘が領地のとある街に行って買い物をしてみたいと言い始めた。買いたいものがあるならば出入りの商会の者を呼べばいいと言ったのだが、娘曰く出入りの商会では扱っていない、なんということはない小物やお菓子などを店で買ってみたいのだそうだ。なんでも、侍女やメイドが休みの日に街へ出かけては買ってくるお土産がとても可愛らしく、自分でも買いに行ってみたいと思ったのだそうだ。危険だから許可するわけには……と思ったのだが「大好きなお父様やお母様にお土産を買ってみたいのですわ」と言われてしまっては許可せざるを得なかった。しかし、それが間違いだった。
初めて館から出て街へと出かけた娘は街中で倒れ、数日間高熱にうなされた。なんということだ。許可などするのではなかった。屋台で食事をした後に倒れたと聞き、毒でも盛られたのではないかと屋台の者を捕らえて地下牢に拘束した。娘に何かあったらただではすまさぬ。
そう思っていたのだか、娘は無事回復した。原因は知恵熱だろうとの診断にホッとした。おそらく初めて見るものばかりで興奮したのだろうとのことだ。やはり行かせるべきではなかったか。
そして屋台で働く少年は冤罪であった。娘可愛さに冷静さにかけた判断で迷惑をかけたことを謝罪したが、娘が追求したところによると職が無くなったかもしれないとのことで、娘の嘆願により我が家の料理人見習いとして雇うことになった。たとえ続かなくても我が家の紹介状を渡せば次の職にあぶれることもあるまい。
そう思っていたのだが、この少年、なかなか面白いものを作るのだ。それには特にクリステアが夢中になり、調理場へ頻繁に出入りするようになったとアンリエッタがこぼしていた。確かに、貴族の令嬢が出入りするにふさわしいとは言えないが「お父様のために考えました」と料理を出されてしまってはなかなか叱りにくいのだった。
そのうち娘の不名誉な二つ名が噂されるようになったのだが……娘の為に詳しくは言わないでおこう。
不敬な輩は私が粛正すればよいのだから。
そういえばその頃からだろうか、王都へ行きたい、早く社交界デビューしたいと言わなくなったのは。娘には教えないように気をつけてはいるのだが、噂のことをどこからか知ったのだろうか?いやそんなはずはない。我が家の使用人にはしっかりと口止めしてある。きっと料理に夢中で社交界には興味が失せたのだろう。
おっと、食事の用意ができたようだ。
今日のメニューは娘特製のオーク汁だ。
さてと、行かなくては。なんと言ってもオーク汁は熱々を食べるのが美味いのだから。
ドリスタン王国のエリスフィード公爵と言えば王族との繋がりも深く、また陛下とは学園で同期であったこともあり、王家に一番近い貴族と名高い。
エリスフィードに産まれた者は大概強い魔力を持つことが多い。私もそうだったが、我が娘のクリステアも多分にもれずその一人だ。しかし、私よりもはるかに多くの魔力を持って産まれたがために制御ができず暴走することが度々起きた。
王都での魔力暴走は危険だと判断し、領地の館で育てることになった。
魔力の制御がうまくできない赤子の頃の娘は、痩せこけ、すぐに熱を出してしまうほど弱々しかった。だが、空気の良い領地で滋養のある食事を食べさせ、なんとか成長することができた。年齢を重ねるにつれて魔力制御もできるようになったことで子供らしくふっくらとしてきた時は心底ホッとしたものだ。
こうなると娘が産まれた時に陛下が「娘ちゃん王家にちょうだい?」などとふざけたことをぬかし……いや仰られた時に、辞退する口実となったので今となってはよかったと言えよう。娘は王家にはやらん。
妻のアンリエッタはヤツ……いや陛下が王太子だった頃の元婚約者なのだが、当時周囲の令嬢からの嫌がらせがひどかったのを知っている。娘をそんな目に決してあわせるものか。そう決意した私はそのまま娘を王都へ連れて行くことなく領地で育てていたのだが、娘はそんな父の想いも知らず、王都にあこがれを抱いていた。社交界にデビューして、華やかなドレスを着て舞踏会へと行きたいのだと娘付きの侍女に語っていたそうだ。
……クリステアよ、私は其方が獲物を狙う獣のようにどこぞの子息を巡って争うような令嬢にはなって欲しくないのだが……あれは時に恐怖を覚えるからな。そう妻にこぼすと「年齢が上がれば上がるほどそうなる傾向があるので、むしろ早いうちに婚約者を決めてやるのが親の役目ですわ」と諭されたのだが……そうなのだろうか。私は親に勧められた婚約には頷かなかったから君と結婚できたと思っているのだがな。そう妻に言うと「もう……あなたったら」と怒ったように照れるのでとても可愛らしい。おっと、妻の可愛いところは私だけが知っていれば良いことなのでここだけの話だ。
しかし、親である我々が婚約者を決めると言っても、私が納得いくような子息などそうそういるものでは無いだろう?
妻としては、過去王太子……今の陛下と婚約していながら破棄に至ったことに王家や実家に負い目もあってか王太子を勧めてくるのだが、我が娘がヤツの……いや、陛下の義理とはいえ娘になるなどというのは承服しかねる。しかし、魔力を持つ娘が王都のアデリア学園に入学するまであとわずか。そうなれば最低限でも社交は避けられぬので、やはり、それまでに決めておくべきなのだろうか……いやいや、なんなら無理に嫁ぐ必要など無いのだから、急がなくても……
そんな益体も無いことを考えていたある日、娘が領地のとある街に行って買い物をしてみたいと言い始めた。買いたいものがあるならば出入りの商会の者を呼べばいいと言ったのだが、娘曰く出入りの商会では扱っていない、なんということはない小物やお菓子などを店で買ってみたいのだそうだ。なんでも、侍女やメイドが休みの日に街へ出かけては買ってくるお土産がとても可愛らしく、自分でも買いに行ってみたいと思ったのだそうだ。危険だから許可するわけには……と思ったのだが「大好きなお父様やお母様にお土産を買ってみたいのですわ」と言われてしまっては許可せざるを得なかった。しかし、それが間違いだった。
初めて館から出て街へと出かけた娘は街中で倒れ、数日間高熱にうなされた。なんということだ。許可などするのではなかった。屋台で食事をした後に倒れたと聞き、毒でも盛られたのではないかと屋台の者を捕らえて地下牢に拘束した。娘に何かあったらただではすまさぬ。
そう思っていたのだか、娘は無事回復した。原因は知恵熱だろうとの診断にホッとした。おそらく初めて見るものばかりで興奮したのだろうとのことだ。やはり行かせるべきではなかったか。
そして屋台で働く少年は冤罪であった。娘可愛さに冷静さにかけた判断で迷惑をかけたことを謝罪したが、娘が追求したところによると職が無くなったかもしれないとのことで、娘の嘆願により我が家の料理人見習いとして雇うことになった。たとえ続かなくても我が家の紹介状を渡せば次の職にあぶれることもあるまい。
そう思っていたのだが、この少年、なかなか面白いものを作るのだ。それには特にクリステアが夢中になり、調理場へ頻繁に出入りするようになったとアンリエッタがこぼしていた。確かに、貴族の令嬢が出入りするにふさわしいとは言えないが「お父様のために考えました」と料理を出されてしまってはなかなか叱りにくいのだった。
そのうち娘の不名誉な二つ名が噂されるようになったのだが……娘の為に詳しくは言わないでおこう。
不敬な輩は私が粛正すればよいのだから。
そういえばその頃からだろうか、王都へ行きたい、早く社交界デビューしたいと言わなくなったのは。娘には教えないように気をつけてはいるのだが、噂のことをどこからか知ったのだろうか?いやそんなはずはない。我が家の使用人にはしっかりと口止めしてある。きっと料理に夢中で社交界には興味が失せたのだろう。
おっと、食事の用意ができたようだ。
今日のメニューは娘特製のオーク汁だ。
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