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余話~輝夜とクリステアの出会いのお話。(輝夜視点)
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本日11月22日はいい夫婦の日ですが、いいニャンニャンの日として輝夜のお話です。
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まったく酷い目にあった。
その一言に尽きた。
いい獲物に出会えず、魔力もかなり少ない状態だった時に出会ったのは、身なりの良い坊やたちだった。
なかなか美味そうな魔力を持っていたから、黒猫に姿を変えて近づき、油断しているところをパクリといただいちまおうと女っぽくて弱っちそうな方に近寄った。
「んなん。」
「おや?猫か…。お腹空いてるのかい?」
そう言って坊やは手にしていた食い物をアタシの方へ寄越してきた。
よぉし、ここでこいつをパクリとひとのみで…と、思ったところでその食い物からなんとも言えない、美味そうな魔力の残滓を感じられたんだ。
…なんだい、これは。なんとも美味そうじゃないか。
目の前の坊やを食べることを忘れて目の前に落とされた食い物を口にした。
…こりゃ美味いじゃないか。
わずかに感じられる魔力もかなり良いもんだね。しかし、こいつの魔力とはちょいと違うねぇ…。
「美味しいかい?僕の妹が作ったサンドイッチだからね。特別さ。」
「ふぉうひゃよ。…んぐ。こんな美味いのに猫にやるなんて勿体無い。」
一緒にメシを食っていた坊主が言う。
確かに。こんな美味いもんをくれてやるなんざバカだねぇ。ま、これはもうアタシのもんだ。
ハグハグと取り上げられないように急いで食べる。
「うーん…。クリステアは動物が好きだからね。きっとあの子ならこうするかなって。」
坊やはそう言ってふわりとほほえむ。
ふうん。こいつといい、その妹といい、とんだお人好しだねぇ。
どうやら、この美味そうな魔力の持ち主はこの坊やの妹のようだ。
…どうせなら、こいつの住処まで尾けていって、その妹とやらも食っちまおうかね…。
その時は、名案だと思ってたんだ…。
まさか、あんなちびっこいのに驚かされ、媚薬きのこを食わされ、捕縛された挙句に撫で回されて、なけなしの魔力まで奪われちまうなんて思わないじゃないか…ああ、なんてこった。
挙句の果てには、首輪をつけられて飼い猫扱い。このアタシが!!
無理に外そうとしても、あの嬢ちゃんを殺してもアタシまで死んじまうんじゃどうしようもないじゃないか。
ああ、アタシャもうお終いだ…。
そう思っていた。
しばらく過ごしてみれば、元の姿には戻れないがメシには困らないし、美味い魔力も少しはありつける。
獲物を探してまわる労力なんて必要ない。
…なんてこった。あの苦労はなんだったんだ。
日がな一日ぐうたらしてようが食うものに困らないなんて…。
そりゃあ、先住のフェンリルやホーリーベアがヤキモチでネチネチとやってくるのには辟易するが、そんなの問題にならないくらいだ。やり過ごしゃいいんだからね。
とはいえ、これまでの自分に誇りがなかったわけじゃない。
これでいいのかと思わないわけじゃないんだよねぇ…。
そんなことをつらつらと考えながら窓辺でまどろんでいたら、嬢ちゃんの侍女…ミリアとやらが部屋に入ってきた。
「クリステア様…?もう、またきっと調理場にいるのね。」
部屋の主がいないことを確認するとブツブツといいながら、アタシの存在に気づいた。
「あら…新入りの猫ちゃんね。確か…輝夜、だったかしら?」
嬢ちゃんから「この人もご飯をくれる人だから悪さしないようにね!」と言われたから少しは愛想良くしておこうか。
「ぅなん。」
「ふふ、貴女はお留守番なのね?」
そう言いながら背中を撫でる。嬢ちゃんといいこのオンナといい、動物好きらしく撫でるのが上手い。
「素敵な毛並みねぇ…。真っ黒で、ツヤツヤで…。輝く夜、という意味だと聞いたけど…ああ、瞳が金色で月のようね。」
アタシの顔を覗き込んでそう言うが、アタシの瞳が何色かなんて気にした事がない。
「クリステア様は大変な方だから、貴女たちが癒して差し上げてね。貴女の名前…輝く月で照らす夜のように…。」
ふふ、なんてね。と笑って、ミリアとやらは部屋を出ていった。
輝く月の夜…ねぇ。ふん。
美味いもん食わしてもらってんだ。癒すってのはどうしたらいいかわからないが、アタシの命もかかってるしね、ちっとは守ってやってもいいかもしれないね。
そんなことを考えながら、スヤスヤと眠りにつくのであった。
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まったく酷い目にあった。
その一言に尽きた。
いい獲物に出会えず、魔力もかなり少ない状態だった時に出会ったのは、身なりの良い坊やたちだった。
なかなか美味そうな魔力を持っていたから、黒猫に姿を変えて近づき、油断しているところをパクリといただいちまおうと女っぽくて弱っちそうな方に近寄った。
「んなん。」
「おや?猫か…。お腹空いてるのかい?」
そう言って坊やは手にしていた食い物をアタシの方へ寄越してきた。
よぉし、ここでこいつをパクリとひとのみで…と、思ったところでその食い物からなんとも言えない、美味そうな魔力の残滓を感じられたんだ。
…なんだい、これは。なんとも美味そうじゃないか。
目の前の坊やを食べることを忘れて目の前に落とされた食い物を口にした。
…こりゃ美味いじゃないか。
わずかに感じられる魔力もかなり良いもんだね。しかし、こいつの魔力とはちょいと違うねぇ…。
「美味しいかい?僕の妹が作ったサンドイッチだからね。特別さ。」
「ふぉうひゃよ。…んぐ。こんな美味いのに猫にやるなんて勿体無い。」
一緒にメシを食っていた坊主が言う。
確かに。こんな美味いもんをくれてやるなんざバカだねぇ。ま、これはもうアタシのもんだ。
ハグハグと取り上げられないように急いで食べる。
「うーん…。クリステアは動物が好きだからね。きっとあの子ならこうするかなって。」
坊やはそう言ってふわりとほほえむ。
ふうん。こいつといい、その妹といい、とんだお人好しだねぇ。
どうやら、この美味そうな魔力の持ち主はこの坊やの妹のようだ。
…どうせなら、こいつの住処まで尾けていって、その妹とやらも食っちまおうかね…。
その時は、名案だと思ってたんだ…。
まさか、あんなちびっこいのに驚かされ、媚薬きのこを食わされ、捕縛された挙句に撫で回されて、なけなしの魔力まで奪われちまうなんて思わないじゃないか…ああ、なんてこった。
挙句の果てには、首輪をつけられて飼い猫扱い。このアタシが!!
無理に外そうとしても、あの嬢ちゃんを殺してもアタシまで死んじまうんじゃどうしようもないじゃないか。
ああ、アタシャもうお終いだ…。
そう思っていた。
しばらく過ごしてみれば、元の姿には戻れないがメシには困らないし、美味い魔力も少しはありつける。
獲物を探してまわる労力なんて必要ない。
…なんてこった。あの苦労はなんだったんだ。
日がな一日ぐうたらしてようが食うものに困らないなんて…。
そりゃあ、先住のフェンリルやホーリーベアがヤキモチでネチネチとやってくるのには辟易するが、そんなの問題にならないくらいだ。やり過ごしゃいいんだからね。
とはいえ、これまでの自分に誇りがなかったわけじゃない。
これでいいのかと思わないわけじゃないんだよねぇ…。
そんなことをつらつらと考えながら窓辺でまどろんでいたら、嬢ちゃんの侍女…ミリアとやらが部屋に入ってきた。
「クリステア様…?もう、またきっと調理場にいるのね。」
部屋の主がいないことを確認するとブツブツといいながら、アタシの存在に気づいた。
「あら…新入りの猫ちゃんね。確か…輝夜、だったかしら?」
嬢ちゃんから「この人もご飯をくれる人だから悪さしないようにね!」と言われたから少しは愛想良くしておこうか。
「ぅなん。」
「ふふ、貴女はお留守番なのね?」
そう言いながら背中を撫でる。嬢ちゃんといいこのオンナといい、動物好きらしく撫でるのが上手い。
「素敵な毛並みねぇ…。真っ黒で、ツヤツヤで…。輝く夜、という意味だと聞いたけど…ああ、瞳が金色で月のようね。」
アタシの顔を覗き込んでそう言うが、アタシの瞳が何色かなんて気にした事がない。
「クリステア様は大変な方だから、貴女たちが癒して差し上げてね。貴女の名前…輝く月で照らす夜のように…。」
ふふ、なんてね。と笑って、ミリアとやらは部屋を出ていった。
輝く月の夜…ねぇ。ふん。
美味いもん食わしてもらってんだ。癒すってのはどうしたらいいかわからないが、アタシの命もかかってるしね、ちっとは守ってやってもいいかもしれないね。
そんなことを考えながら、スヤスヤと眠りにつくのであった。
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