転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
94 / 423
連載

情報収集は大事よね!

しおりを挟む
調理場では賄いも食べ終わったようで、清掃や道具の手入れが行われていた。
明日の仕込みだろうか、お米を研いだりしている姿も見える。
ふむ、明日の朝食は和食みたいね。あとでおかずは何か聞いておこうかな。
……と、いけない。本来の目的を忘れるところだった。
私は、調理場内をきょろきょろと見渡してシンの姿を探した。
「あ、いたいた。シン、少し時間あるかしら?」
流しを磨いていたシンを見つけて声をかけると、振り向きざま私の姿を認めたシンはうえっ⁉︎ という表情を一瞬浮かべた。
しかし、周囲の料理人たちの視線に気づいてすぐさま態度を改めた。
「あー……と。お嬢……様、何か御用でしょうか?」
領地の調理場では、シンを勧誘したのは私だと周知されているからか、多少雑な扱いであっても許される空気だった。
だけど、王都では使用人のお行儀の良さも家の格を判断する要素になることもあってか言葉遣いをはじめとした振る舞いも厳しいみたい。
領地の使用人たちも、いざ来客があるとなればビシッと決めるけれど、貴族街では常に商人が色々な家を出入りするからどんなことが噂になるかわからない。だから常に気を抜かないように指導されるんだって。
それにしても、シンにお嬢“様”なんて呼ばれるのは初めの頃以来だからなんだかムズムズするわね……
「ええと、ちょっと聞きたいのだけど……」
「クリステア様! どうなさいました? 私めでよろしければお伺いいたしますが!」
げげ、料理長⁉︎ 調理場から離れていたようで、私の姿を見つけるなり出入り口から素早く移動してきた。
「いえ、あの、今日は何か作るというわけではないの。食材について聞いてみたいことがあって……」
「なんと⁉︎ 食材についてでしたら、なおのこと私めにご相談ください! どんなものだろうと取り寄せてみせます!」
料理長は私とシンの間に割って入り、さあさあ、何なりとお申し付けください! とばかりに期待の目を私に向けた。
ええ~、そう言われても。
動物のモツは食べないのか、なんて料理長には聞きづらいよ……
とはいえ、このまま引き下がるわけにもいかないし、料理長を遠ざけることも難しそうだ。
私は仕方なく調理場の隅の方にある調理台の方へ移動し遮音魔法で周囲から聞き耳を立てられないようにした。
「ええと、つかぬことを聞くのだけれど……」
「はい! なんでございましょう⁉︎」
うっ、キラキラと期待を込めた瞳で私の次の言葉を待つ料理長の背後にブンブンと大きく振られる尻尾の幻影が見えるようだ。
「動物を解体してお肉になるでしょう? その、なんていうか、枝肉にした後のその他の部位ってどうするのかなって」
シン相手なら「解体後のモツは捨てずに食べたりしないの?」と単刀直入に聞けるけれど、料理長だとどう切り出してよいものやらわからず、どうしても回りくどい聞き方になってしまう。
「その他の部位……ですか? 我々は解体屋から直接卸しておりますから、皮や牙などの素材はそれぞれ別の買い手がつくと思いますが……」
あぁ、やっぱりそういう風に捉えられちゃったか。
「あの、そうじゃなくて。普段私たちが食べている部位以外に食べられるところってないのかなと思って」
「クリステア様が召し上がる部位以外……ですか?」
料理長は思い当たらないようで首を傾げた。
うう、普段捨てるところだからか、それを食べるって発想がなさそうだ。
「ええと、そうね、例えば頭部とかスネとか……内臓とか」
私がそう言うと、料理長とシンはギョッとした顔で私を見た。この反応を見るに、そういった習慣はなさそうね……残念。
「あ、ないならいいの。変なこと聞いてごめんなさい」
私は次の対策を練るべく、部屋に戻ろうと立ち上がると、うーん……と考え込んでいた料理長があわてて引き留めた。
「お待ちください。お嬢様が何をお求めなのかは存じませんが、滅多に出回ることのない、知る人ぞ知る美味なる食材があるという噂は聞いております。しかし、それは……クリステア様のお耳に入れてよいお話なのか……」
料理長は珍しく歯切れの悪い口調で言い淀んだ。
んん? 知る人ぞ知る? 滅多に出回らないって⁉︎ それって、もしかして……
「構わないわ。教えてちょうだい」
料理長はきっぱりとした口調で続きを促す私に、一瞬戸惑いを見せたけれど、意を決したように私を見て言った。
「動物の内臓を食す者がいると聞きました。その者たちの話によると、くせになるほど美味いのだそうで。しかし、動物の内臓なんてものは我々料理人の間で食材として流通するものではございません。ですから皆、戯言だと言って試すものはおりませんので……」
キタァァああ! ビンゴおおおぉ!
「その話、詳しく教えてちょうだい」

---------------------------
先週近況ボードでお知らせいたしましたが、そちらをご覧にならない方もいらっしゃると思いますのでこちらでもお知らせさせてください。

レジーナブックス様より拙作「転生令嬢は庶民の味に飢えている」三巻の刊行が決定しまして、7月下旬に発売となります!
レジーナのサイトに刊行予定としてアップされております。書影掲載はまだのようですね。

http://www.regina-books.com/content/recentl

詳細な情報はまた解禁になりましたら都度ご報告させていただきますね。
アルファポリスかレジーナのメルマガに登録されていると私より早く情報が入るかもしれません。いや本当に……

現在も色々と頑張っております٩( 'ω' )و
楽しいお知らせができるよう頑張ります!
何卒よろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。