転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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調理場では賄いも食べ終わったようで、清掃や道具の手入れが行われていた。
明日の仕込みだろうか、お米を研いだりしている姿も見える。
ふむ、明日の朝食は和食みたいね。あとでおかずは何か聞いておこうかな。
……と、いけない。本来の目的を忘れるところだった。
私は、調理場内をきょろきょろと見渡してシンの姿を探した。
「あ、いたいた。シン、少し時間あるかしら?」
流しを磨いていたシンを見つけて声をかけると、振り向きざま私の姿を認めたシンはうえっ⁉︎ という表情を一瞬浮かべた。
しかし、周囲の料理人たちの視線に気づいてすぐさま態度を改めた。
「あー……と。お嬢……様、何か御用でしょうか?」
領地の調理場では、シンを勧誘したのは私だと周知されているからか、多少雑な扱いであっても許される空気だった。
だけど、王都では使用人のお行儀の良さも家の格を判断する要素になることもあってか言葉遣いをはじめとした振る舞いも厳しいみたい。
領地の使用人たちも、いざ来客があるとなればビシッと決めるけれど、貴族街では常に商人が色々な家を出入りするからどんなことが噂になるかわからない。だから常に気を抜かないように指導されるんだって。
それにしても、シンにお嬢“様”なんて呼ばれるのは初めの頃以来だからなんだかムズムズするわね……
「ええと、ちょっと聞きたいのだけど……」
「クリステア様! どうなさいました? 私めでよろしければお伺いいたしますが!」
げげ、料理長⁉︎ 調理場から離れていたようで、私の姿を見つけるなり出入り口から素早く移動してきた。
「いえ、あの、今日は何か作るというわけではないの。食材について聞いてみたいことがあって……」
「なんと⁉︎ 食材についてでしたら、なおのこと私めにご相談ください! どんなものだろうと取り寄せてみせます!」
料理長は私とシンの間に割って入り、さあさあ、何なりとお申し付けください! とばかりに期待の目を私に向けた。
ええ~、そう言われても。
動物のモツは食べないのか、なんて料理長には聞きづらいよ……
とはいえ、このまま引き下がるわけにもいかないし、料理長を遠ざけることも難しそうだ。
私は仕方なく調理場の隅の方にある調理台の方へ移動し遮音魔法で周囲から聞き耳を立てられないようにした。
「ええと、つかぬことを聞くのだけれど……」
「はい! なんでございましょう⁉︎」
うっ、キラキラと期待を込めた瞳で私の次の言葉を待つ料理長の背後にブンブンと大きく振られる尻尾の幻影が見えるようだ。
「動物を解体してお肉になるでしょう? その、なんていうか、枝肉にした後のその他の部位ってどうするのかなって」
シン相手なら「解体後のモツは捨てずに食べたりしないの?」と単刀直入に聞けるけれど、料理長だとどう切り出してよいものやらわからず、どうしても回りくどい聞き方になってしまう。
「その他の部位……ですか? 我々は解体屋から直接卸しておりますから、皮や牙などの素材はそれぞれ別の買い手がつくと思いますが……」
あぁ、やっぱりそういう風に捉えられちゃったか。
「あの、そうじゃなくて。普段私たちが食べている部位以外に食べられるところってないのかなと思って」
「クリステア様が召し上がる部位以外……ですか?」
料理長は思い当たらないようで首を傾げた。
うう、普段捨てるところだからか、それを食べるって発想がなさそうだ。
「ええと、そうね、例えば頭部とかスネとか……内臓とか」
私がそう言うと、料理長とシンはギョッとした顔で私を見た。この反応を見るに、そういった習慣はなさそうね……残念。
「あ、ないならいいの。変なこと聞いてごめんなさい」
私は次の対策を練るべく、部屋に戻ろうと立ち上がると、うーん……と考え込んでいた料理長があわてて引き留めた。
「お待ちください。お嬢様が何をお求めなのかは存じませんが、滅多に出回ることのない、知る人ぞ知る美味なる食材があるという噂は聞いております。しかし、それは……クリステア様のお耳に入れてよいお話なのか……」
料理長は珍しく歯切れの悪い口調で言い淀んだ。
んん? 知る人ぞ知る? 滅多に出回らないって⁉︎ それって、もしかして……
「構わないわ。教えてちょうだい」
料理長はきっぱりとした口調で続きを促す私に、一瞬戸惑いを見せたけれど、意を決したように私を見て言った。
「動物の内臓を食す者がいると聞きました。その者たちの話によると、くせになるほど美味いのだそうで。しかし、動物の内臓なんてものは我々料理人の間で食材として流通するものではございません。ですから皆、戯言だと言って試すものはおりませんので……」
キタァァああ! ビンゴおおおぉ!
「その話、詳しく教えてちょうだい」

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先週近況ボードでお知らせいたしましたが、そちらをご覧にならない方もいらっしゃると思いますのでこちらでもお知らせさせてください。

レジーナブックス様より拙作「転生令嬢は庶民の味に飢えている」三巻の刊行が決定しまして、7月下旬に発売となります!
レジーナのサイトに刊行予定としてアップされております。書影掲載はまだのようですね。

http://www.regina-books.com/content/recentl

詳細な情報はまた解禁になりましたら都度ご報告させていただきますね。
アルファポリスかレジーナのメルマガに登録されていると私より早く情報が入るかもしれません。いや本当に……

現在も色々と頑張っております٩( 'ω' )و
楽しいお知らせができるよう頑張ります!
何卒よろしくお願いいたします!
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