98 / 423
連載
シンのお願い
しおりを挟む
料理長から情報を得た私は、調理場から出て自室へと向かった。
とりあえず、モツが実際に食べられているというのがわかっただけでも収穫だわ。
あとは、処理の方法だけれど……
前世のモツの扱い方で大丈夫なのかなぁ。
さすがにモツは処理済みのものしか買ったことないから、テレビやネットで見た方法を思い出しながらやってみるしかないか。
「おい、いや、お嬢……さま。ちょっとよろしいですか」
「え?」
背後から声をかけられて振り向くと、そこにはシンがいた。
「あら、どうしたの?」
「あー……さっきの件だけど……いや、ですが」
「料理長やミリアもいないし、別に言葉遣いは気にしなくてもいいのに」
「いや、そういうわけにもいかな……いきません。ここで働く以上はきちんとしないといけませんから」
真面目か。
でもまあ、領地とは違って王都では使用人の格も主人の評価になると言われたら頑張らざるをえないわよね。
「……わかったわ。それで? さっきの件って?」
私はシンに敬語を使われるのに違和感を覚えつつ言い淀むシンの言葉を待った。
「前にも臓物が使えないかと聞いてきたことがあったが、まだ諦めてなかったのか……ですか?」
ああ、そういえば以前にもシンには聞いたことあったんだった。すっかり忘れてたわ。
「あの時も敢えて処分することしか言わなかったが、臓物は肉を買うことができないやつらの貴重な食料なんだ。下ごしらえに手間はかかるが、食えないわけじゃない。高級肉だって手に入れられる貴族が、わざわざ口にしなくてもいいだろ?……すいません。いいと思うんです」
「あ……」
なるほど。シンはあの時、わざと言わなかったのか。
たしかに、貧しい平民の貴重なタンパク源だものね。それを私たち貴族が美食のために取り上げたら、彼らが食べられるものがなくなっちゃうと。
それで、臓物は捨ててるって言うだけに留めていたってことかな。
でも今回の料理長の話で、貧しい平民が臓物を食べていることを知られてしまった。
過去、冒険者ギルドで解体の手伝いをしていたシンがそういう需要があるのを知らないわけがないだろうから、敢えて言わなかったということなんだろう。
「お願いします。臓物についてはそっとしておいてやってください」
シンはそういって頭を下げた。
「ちょ、シン……」
「俺も、冒険者をしていた親がガキの頃に死んでたら、そういうものすら食えなかったかもしれない。俺は運良くギルドの手伝いができたから食うには困らなかったけど、そういうやつらがいるのは知ってたんだ。そいつらから食い物を奪いたくない」
頭を下げたままそういうシンに、私はなんと声をかけたものかと悩んだ。
たしかに、どんな食材だって手に入る私が彼らから貴重な食料を奪うことになりかねない。いや、モツ料理を新作として公表すれば、間違いなく彼らの食卓から消えてしまう。
でもお父様にうっかりソーセージのことを話しちゃったし……どうしよう。困った。
「前に使うからと臓物をインベントリにしまい込んだ時にどうしようかと思ったんだが、使う様子がないから諦めてたと思ってたんだ。黒銀様がオークを狩ってきたりすることがあれば、俺が解体してやるから、ギルドから買い取るのはやめてくれないか」
すっかり敬語がなくなってしまったシンだが、そんなことはどうでもいい。
「……前に? インベントリに……?」
しまい込んだ……?
「ああーっ⁉︎」
「えっ? な、何だ⁉︎」
突然叫んだ私にビクッとしたシンを横目に、インベントリ内を検索した。
……あった。モツが。
ビッグホーンブルをシンに解体してもらった時に、捨てられるくらいなら、と回収してたの忘れてた! タンもまるっと一本!
……でも、ビッグホーンブルの腸は体格に見合ってものすごく太かったから、ボロニアソーセージどころじゃない太さになりそうだし……
初めてのソーセージ作りには向かないよね。
「……お嬢……さま? どうしたんだ……ですか?」
シンが恐る恐る私の様子を伺っていた。
叫んでから考え込んでいたから、シンの存在をすっかり忘れてたわ。
「ねえ、シン?」
「お、おう。いや、はい。なんでしょう」
「オークを狩ってくれば、解体してくれるのね?」
「は? はあ、まあ……」
「わかったわ、ありがとうシン! おやすみなさい!」
「え? ちょっ、おい?」
私はシンにおやすみを言うと、踵を返して自室へと急ぐのだった。
---------------------------
拙作「転生令嬢は庶民の味に飢えている」3巻が書店に並びました!
よろしければお手にとっていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!
すでに手に入れられた方もいらっしゃると思います。ありがとうございます。
1巻と2巻の帯にあったWEBでの書き下ろし番外編の告知がありませんが、今回もありますのでレジーナのサイトにてお読みいただけますと幸いです!
今回は書き下ろし番外編のお知らせの代わりに、他の素敵なお知らせが掲載されております!お持ちの方で見逃されている方は、ぺろっと開いて見てくださいね。
私もとっても楽しみにしております!
詳しくは後日、近況のほうでお知らせしますね♪
とりあえず、モツが実際に食べられているというのがわかっただけでも収穫だわ。
あとは、処理の方法だけれど……
前世のモツの扱い方で大丈夫なのかなぁ。
さすがにモツは処理済みのものしか買ったことないから、テレビやネットで見た方法を思い出しながらやってみるしかないか。
「おい、いや、お嬢……さま。ちょっとよろしいですか」
「え?」
背後から声をかけられて振り向くと、そこにはシンがいた。
「あら、どうしたの?」
「あー……さっきの件だけど……いや、ですが」
「料理長やミリアもいないし、別に言葉遣いは気にしなくてもいいのに」
「いや、そういうわけにもいかな……いきません。ここで働く以上はきちんとしないといけませんから」
真面目か。
でもまあ、領地とは違って王都では使用人の格も主人の評価になると言われたら頑張らざるをえないわよね。
「……わかったわ。それで? さっきの件って?」
私はシンに敬語を使われるのに違和感を覚えつつ言い淀むシンの言葉を待った。
「前にも臓物が使えないかと聞いてきたことがあったが、まだ諦めてなかったのか……ですか?」
ああ、そういえば以前にもシンには聞いたことあったんだった。すっかり忘れてたわ。
「あの時も敢えて処分することしか言わなかったが、臓物は肉を買うことができないやつらの貴重な食料なんだ。下ごしらえに手間はかかるが、食えないわけじゃない。高級肉だって手に入れられる貴族が、わざわざ口にしなくてもいいだろ?……すいません。いいと思うんです」
「あ……」
なるほど。シンはあの時、わざと言わなかったのか。
たしかに、貧しい平民の貴重なタンパク源だものね。それを私たち貴族が美食のために取り上げたら、彼らが食べられるものがなくなっちゃうと。
それで、臓物は捨ててるって言うだけに留めていたってことかな。
でも今回の料理長の話で、貧しい平民が臓物を食べていることを知られてしまった。
過去、冒険者ギルドで解体の手伝いをしていたシンがそういう需要があるのを知らないわけがないだろうから、敢えて言わなかったということなんだろう。
「お願いします。臓物についてはそっとしておいてやってください」
シンはそういって頭を下げた。
「ちょ、シン……」
「俺も、冒険者をしていた親がガキの頃に死んでたら、そういうものすら食えなかったかもしれない。俺は運良くギルドの手伝いができたから食うには困らなかったけど、そういうやつらがいるのは知ってたんだ。そいつらから食い物を奪いたくない」
頭を下げたままそういうシンに、私はなんと声をかけたものかと悩んだ。
たしかに、どんな食材だって手に入る私が彼らから貴重な食料を奪うことになりかねない。いや、モツ料理を新作として公表すれば、間違いなく彼らの食卓から消えてしまう。
でもお父様にうっかりソーセージのことを話しちゃったし……どうしよう。困った。
「前に使うからと臓物をインベントリにしまい込んだ時にどうしようかと思ったんだが、使う様子がないから諦めてたと思ってたんだ。黒銀様がオークを狩ってきたりすることがあれば、俺が解体してやるから、ギルドから買い取るのはやめてくれないか」
すっかり敬語がなくなってしまったシンだが、そんなことはどうでもいい。
「……前に? インベントリに……?」
しまい込んだ……?
「ああーっ⁉︎」
「えっ? な、何だ⁉︎」
突然叫んだ私にビクッとしたシンを横目に、インベントリ内を検索した。
……あった。モツが。
ビッグホーンブルをシンに解体してもらった時に、捨てられるくらいなら、と回収してたの忘れてた! タンもまるっと一本!
……でも、ビッグホーンブルの腸は体格に見合ってものすごく太かったから、ボロニアソーセージどころじゃない太さになりそうだし……
初めてのソーセージ作りには向かないよね。
「……お嬢……さま? どうしたんだ……ですか?」
シンが恐る恐る私の様子を伺っていた。
叫んでから考え込んでいたから、シンの存在をすっかり忘れてたわ。
「ねえ、シン?」
「お、おう。いや、はい。なんでしょう」
「オークを狩ってくれば、解体してくれるのね?」
「は? はあ、まあ……」
「わかったわ、ありがとうシン! おやすみなさい!」
「え? ちょっ、おい?」
私はシンにおやすみを言うと、踵を返して自室へと急ぐのだった。
---------------------------
拙作「転生令嬢は庶民の味に飢えている」3巻が書店に並びました!
よろしければお手にとっていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!
すでに手に入れられた方もいらっしゃると思います。ありがとうございます。
1巻と2巻の帯にあったWEBでの書き下ろし番外編の告知がありませんが、今回もありますのでレジーナのサイトにてお読みいただけますと幸いです!
今回は書き下ろし番外編のお知らせの代わりに、他の素敵なお知らせが掲載されております!お持ちの方で見逃されている方は、ぺろっと開いて見てくださいね。
私もとっても楽しみにしております!
詳しくは後日、近況のほうでお知らせしますね♪
211
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!
酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。
確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。
だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。
当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。
結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。
当然呪いは本来の標的に向かいますからね?
日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。
恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。