転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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黒銀にお願い

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自室に戻った私は、聖獣の姿で床に寝ていた黒銀くろがねの元へ近寄った。
『主よ、小童こわっぱとの話は終わったのか?』
「小童って……シンのこと? 一応、成人しているんだから、本人にそんなこと言っちゃダメよ?」
シンはヤハトゥール人とのハーフだからか、前世の東洋人のように実年齢よりも若く見えるのだ。
本人はそのことを気にしているみたいだから、コンプレックスを刺激するような呼び方は避けてあげてほしい。
『フン、我からしてみればどいつも小童同然よ。悔しければ名前を覚えてもよいと思えるような働きをすればいいのだ』
……名前すら覚えてないのか。
聖獣って、自分の関心事以外は本当に無頓着というか……
「とりあえず欲しい情報は少しだけ掴めたわ。それで、黒銀くろがねにお願いがあるのだけど……」
私はインベントリから黒銀くろがね専用のブラシを取り出した。
『お願い? 主からの頼みとは珍しいな』
ブラッシングを始めると、黒銀くろがねは気持ち良さそうに目を細めて前脚に顎を乗せてリラックスしている。
「あのね、オークを狩ってきてほしいのだけど……あ、たくさんは要らないからね? 一~二匹でいいから」
以前黒銀くろがねにオークを狩ってきてとお願いしたら、集落を見つけて殲滅してきたことを思い出し、慌てて必要数を付け加えて念を押した。
とはいえ、オークの集落ができていれば後々厄介なことになるので、数が増えないように討伐しなければならない。
そうなるとたくさんは要らないよ! なんて言っていられないのだけど。
ま、その時はティリエさんに相談して納品時期を調整して値崩れしないようにするしかないか……
『ふむ。最近では王都の冒険者ギルドからの依頼でベーコンを手に入れるようとする冒険者が増えているそうだ。其奴らはついでとばかりに領地へ向かう道中、領地では常時依頼となっているオーク肉の素材買い取りのために積極的に狩っていると聞いた。そのため現在、領地ではオークがかなり減っていると聞く』
……領地ではそんなことになってたのか。ベーコンを手に入れるために王都の冒険者ギルドから冒険者におつかいの依頼があることも、ベーコン用の肉確保の為に領地ではオーク狩りが常時依頼になっていることも知っていたけれど。
なんだかんだでいつのまにか数が増えるといわれるオークがすっかりいなくなるほどって、どんだけ狩り尽くしてるの……?
値崩れどころの話じゃなかった。
『そのような状況では、大した個体も残ってはおるまい……河岸を変えてみるか』
「わ、悪いけれどお願いね。本当に少しでいいから。わざわざ探してまでたくさん狩らなくてもいいからね?」
『承知した』
黒銀くろがねはそう言うと、目を閉じて引き続きブラッシングを堪能したのだった。
黒銀くろがねのブラッシングを終えると、いつのまにか私の背中にべったりとくっついていた真白ましろが今度は自分の番とばかりに私の膝に寝転んだ。
もちろん真白ましろにも平等にブラッシングをするつもりでいたので、インベントリに収納していた真白ましろのブラシを取り出して真白ましろの背中に優しくブラッシングし始めた。
しばらくブラッシングしていると、真白ましろがボソリと呟いた。
『……おれも、おーくをかれるのに』
あらら、真白ましろが拗ねちゃった。
こういう時はついつい黒銀くろがねを頼っちゃうからなぁ。
真白ましろは自分でも狩れるって言うけれど、オークとの体格差を考えたら、ついつい黒銀くろがね頼りになってしまうのだ。
真白ましろが、私のために今は敢えて小さな姿でいてくれているのはわかっているけれど、この可愛らしい姿を見慣れているせいか、ついつい甘やかしてしまいたくなるというか……
大きなホーリーベアの姿を見たことがないからってこともある。
……前世のホッキョクグマみたいなのかな?
「もちろん、真白ましろには黒銀くろがねがいない間、私の護衛をしっかりしてもらわないとね。シャーケンの時みたいに、真白ましろにお願いしたい時は遠慮なくお願いするわね?」
『わかった。おれ、ほんとうはおーくをかるより、くりすてあのごえいのほうがいい』
「まあ、ふふ」
きゅ、としがみつく真白ましろをもふもふとなで、ブラッシングを続けたのだった。

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庶民の味三巻は書店にて発売中!
そして、コミカライズが8/8より連載開始しました!毎月第二木曜日更新です。
生き生きと動き回る可愛らしいクリステアをぜひご覧ください!

そうそう、今回書籍三巻の帯にコミカライズの告知を入れたためWEB番外編の告知はありませんが、今回も番外編を書き下ろしております。
まだお読みではない方は、よろしければレジーナのサイトにてお読みくださいませ~( ´ ▽ ` )
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