転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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ティリエさんにお願い

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……うん、まあ、こうなるんじゃないかと薄々気づいていたのよ。
私はハハ……と乾いた笑いとともに目の前の光景に目を向けた。
『主が一、二匹でよいと言っていたのは覚えていたのだが……興に乗ってしまい、つい……』
私の傍にいた黒銀くろがねはフェンリル姿の大きな体躯を縮こまらせ、すまなそうに言った。

黒銀くろがねにオークを狩ってきてほしいとお願いした翌朝。
私が目覚めた時には黒銀くろがねの姿はなかった。
真白ましろの話によると、黒銀くろがねは昨夜私が寝付いたのを確認してから転移でどこかへ跳んだらしい。
それを聞いた私は、早速狩りに出たのかと黒銀くろがねの仕事の速さに驚きながらも、なかなか戻らないから嫌な予感がしていたのだ。
その結果が……
『またたいりょう、だね』
「……そうね」
真白ましろのコメントにどうにか応えた私は、目の前に積み上げられたオークの山を眺めていたのだった。
真白ましろとの会話後、程なくして戻ってきた黒銀くろがねを労い、オーク狩の成果を尋ねたのだけど……
『う、うむ。狩ってはきた、の、だがな……』
と、なんとも歯切れの悪い返事が返ってきたので、嫌~な予感はさらに増した。
そんな黒銀くろがねに連れられて転移した先にあったのが、結界内に積み上げられたオークの山だった……というわけ。

『オークを探しておったら、集落を見つけたのでな、それで、つい……な』
「そう……」
ああ、うん。
オークの集落を見つけたのなら仕方ない。
野放しにしてオークの数が爆発的に増えたら厄介なことこの上ないので、見つけたら可及的速やかに討伐しなくてはいけないというのもわかっている。
以前、領地でもオークの集落ができていたことがあった。
その報告を受けた冒険者ギルドが早めに集落を潰そうと、急いで冒険者達をかき集めようとしたことも知っている。
だから、黒銀くろがねの対応は間違ってない。
でも、黒銀くろがねだけで殲滅しなくても良かったんじゃないかなぁ⁇

「また、ティリエさんが大変ね……」
ふう、とため息まじりに吐き出した。
領地にある冒険者ギルドのギルドマスターで、オネエなエルフのティリエさんが「いやああぁ! ちょっとおぉ、またなのぉ⁉︎」と悲鳴をあげそうな想像しかできない。本当に申し訳ない。
『……うむ。あのエルフには苦労をかけるが、もはやしかたあるまい。それに、そろそろ領地むこうではオークの買い取りの件数が減っておるようだし、補充としてはちょうど良いのではないか?』
うんうんと頷きながら黒銀くろがねは答える。だけどこの山、前回殲滅した時とさほど変わらない数だよ⁉︎ どこでこれだけのオークがいる集落を見つけたの?
いけません、返してらっしゃい! とも言えないので仕方ない。
我が家用にある程度の数を確保したら、残りの三分の一を王都の冒険者ギルドに少しずつ買い取りに出すとして、残り三分の二はティリエさんに託すことにしよう。
前回と比べて、ベーコンの需要が高まっていることだし、案外喜ばれるかもしれない、よね? ……多分。
後のことはティリエさんに丸投げしようと決めた私は、黒銀くろがね達に我が家用に状態の良い個体選んでもらい、王都の冒険者ギルドの納品用に確保した分と一緒にインベントリへ収納した。その残りは領地の冒険者ギルドへ運んでもらうよう黒銀くろがねにお願いした。
後で黒銀くろがねから聞いたのだけど、持ち込んだオークの山を見たティリエさんは「ま、またなのぉ⁉︎ い、いえ。ごめんなさいね。思わず取り乱しちゃって。オークが足りなくなってきてたから助かるわ。……でもね? 素材が不足してるのは確かなのだけど、もうちょっと……こう、どかっ! とまとめてじゃなくて、定期的に、且つ適度な数での納品をお願いすることってできないのかしらね……?」と引きつり笑いでオークの山を私物のマジックバッグに収納していたそうだ。
……ティリエさん、本当にごめんなさい。

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