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パンに挟むアレを作るのです!
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「えぇ~? それで、その料理長はどうなっちゃたの?」
料理長が解体時に倒れた騒動から数日後、私はマリエルちゃんをお茶に招待した。
「それがね、しばらくして気がついたからシンは調理場に戻るよう本人に言ったんだけど、てこでも動かなかったそうなのよ」
あの時、料理長は解体シーンを目の当たりにして卒倒したあと、シンが自分たちでやるからと料理長に戻るように伝えたにも関わらず、それを固辞したらしい。
「いいや! 新レシピを知るためならば、これしきのことで怯むわけにはいかんのだ!」
……と、何としてでもそこから離れようとしなかったんだって。
「その根性は認めるけど、腹から内臓を取り出す時や皮を剥ぐ度にヒイヒイ悲鳴をあげるから煩いのなんのって。ま、あらかた解体も終わって枝肉になる頃には、見慣れた状態になったからか、ヨロヨロしつつも手伝い始めたけどな」
シンが心底うんざりとしていたので、よほど面倒臭かったのだろう。
しかしあれだ、今回の料理長については私も同じレベルだから責められないわ。
はあ、私が気安く助手に任命してしまったせいでシンには余計な苦労をかけさせてしまった。申し訳ない。
今度何かで埋め合わせしないとだわ。
「枝肉になってからは普通に手伝ってくれたらしいんだけど、内臓の処理をするのはヒイヒイ悲鳴をあげながらも頑張ったらしいわ」
「うえぇ……オークの内臓でしょう? よくわかんないけど、下処理って大変なんじゃないの?」
「そうねぇ。でもちゃんと下処理をしないと仕上がりに影響するからって言ったら俄然張り切ってやったそうだけど」
料理に対しては本当に真摯だから無碍にできないんだよね……
「ええと……それで? できたのよね?」
マリエルちゃんはもじもじと上目遣いでこちらを見ながら言った。
「え? ……あ、ああ。もちろん。はい、お待ちかねのソーセージよ」
「わぁい、待ってましたぁ!」
私がインベントリからできたてのソーセージを取り出すと、マリエルちゃんは嬉しそうに目を輝かせた。
「シンプルにソーセージだけ食べるのもいいけれど、今回は色々楽しめるようにパンと具材を用意したわ」
ホットドッグ用に焼いたパンには、具材を挟みやすいようにあらかじめ切れ目を入れて軽く焼いておいた。ソーセージ以外の具材としては、レタスなどの新鮮葉野菜に、カレー粉で炒めたキャベツ、みじん切りにした玉ねぎのピクルス等々。もちろん、ケチャップとマスタードも忘れずに。
昨日、お父様達に披露したら組み合わせ次第で色々楽しめると好評だったわ。
あ、あと、マヨラーのマリエルちゃんのためにマヨネーズも忘れずにっと。
「わああ……! ソーセージだけでも嬉しいのに、ホットドッグにして食べられるなんて……私、クリステアさんとお友達になれて本当に……本当に良かったあぁ」
ほわああぁ……とうっとりした表情でよだれを垂らすマリエルちゃんに苦笑する。こんなに喜んでもらえるなら招待した甲斐があるってものよね。
「大袈裟ねぇ。さあ、どうぞ?」
「はあい! いただきます!」
マリエルちゃんは手を前に合わせて「いただきます」をするも、テーブルに並べたパンと具材を前になかなか手を出さない。
「……どうしたの?」
「ええと、あの、これって……どうしたらいい?」
「えっ?」
どうしたらいいってどういうこと?
「いやほら、私って料理苦手だから」
「えええ?」
いやいや。パンにソーセージと好みの具材を挟むだけでしょうに。
「挟むだけってのはわかるけど、私が料理すると台無しになる未来しか見えない」
いやちょっと。キリッと答えても言ってることはダメダメだからね⁉︎
「料理と言うほどのことじゃないと思うけど……ただ好みの具材を挟むだけよ? どの組み合わせでも大抵は美味しくできるはずよ。簡単だからやってみましょう?」
「え……う、うん……ええと。まずは、ソーセージよね?」
「うんうん」
マリエルちゃんはパンを手に取り、切れ目に熱々のソーセージを挟んだ。
「次は……」
マリエルちゃんは少し迷いながらもキャベツのカレー炒めに手を伸ばした。
「これを挟んで……ええと、挟めないんだけど?」
マリエルちゃんは困惑しながら私を見た。
「……そりゃあ、それだけ山盛りにすればね……盛りすぎよ!」
マリエルちゃんはパンからはみ出るどころか山になるほど炒めキャベツを盛り付けていた。
いやそれ、食べにくいどころの話じゃないよね⁉︎
「え、でも美味しそうだからたくさん入れたらもっと美味しいかなって……」
「適量! 物事には適量ってものがあるの!」
私はテヘッと笑うマリエルちゃんにツッコミを入れつつ、溢れた分のキャベツを回収しつつ、量を調整してあげた。
「ええと、次は……マヨネーズかな?」
「えっ」
「よっ……と。うん! 美味しそう!」
私が気づいた時にはマリエルちゃんのカレー粉炒めキャベツとソーセージにぽってりとのせたマヨホットドッグが完成していた。
……うん。多分、普通に食べられると思う組み合わせのはずだし……大丈夫よね。
「いただきまぁす! ……んむっ! んー! 美味しーい!」
マリエルちゃんの満足そうな笑顔を見てひとまず安心した私なのだった。
……とりあえず、2個目からはマリエルちゃんのリクエストに答えつつ、私が作ってあげることにした。
まぜるな危険……もとい、マリエル危険。
料理長が解体時に倒れた騒動から数日後、私はマリエルちゃんをお茶に招待した。
「それがね、しばらくして気がついたからシンは調理場に戻るよう本人に言ったんだけど、てこでも動かなかったそうなのよ」
あの時、料理長は解体シーンを目の当たりにして卒倒したあと、シンが自分たちでやるからと料理長に戻るように伝えたにも関わらず、それを固辞したらしい。
「いいや! 新レシピを知るためならば、これしきのことで怯むわけにはいかんのだ!」
……と、何としてでもそこから離れようとしなかったんだって。
「その根性は認めるけど、腹から内臓を取り出す時や皮を剥ぐ度にヒイヒイ悲鳴をあげるから煩いのなんのって。ま、あらかた解体も終わって枝肉になる頃には、見慣れた状態になったからか、ヨロヨロしつつも手伝い始めたけどな」
シンが心底うんざりとしていたので、よほど面倒臭かったのだろう。
しかしあれだ、今回の料理長については私も同じレベルだから責められないわ。
はあ、私が気安く助手に任命してしまったせいでシンには余計な苦労をかけさせてしまった。申し訳ない。
今度何かで埋め合わせしないとだわ。
「枝肉になってからは普通に手伝ってくれたらしいんだけど、内臓の処理をするのはヒイヒイ悲鳴をあげながらも頑張ったらしいわ」
「うえぇ……オークの内臓でしょう? よくわかんないけど、下処理って大変なんじゃないの?」
「そうねぇ。でもちゃんと下処理をしないと仕上がりに影響するからって言ったら俄然張り切ってやったそうだけど」
料理に対しては本当に真摯だから無碍にできないんだよね……
「ええと……それで? できたのよね?」
マリエルちゃんはもじもじと上目遣いでこちらを見ながら言った。
「え? ……あ、ああ。もちろん。はい、お待ちかねのソーセージよ」
「わぁい、待ってましたぁ!」
私がインベントリからできたてのソーセージを取り出すと、マリエルちゃんは嬉しそうに目を輝かせた。
「シンプルにソーセージだけ食べるのもいいけれど、今回は色々楽しめるようにパンと具材を用意したわ」
ホットドッグ用に焼いたパンには、具材を挟みやすいようにあらかじめ切れ目を入れて軽く焼いておいた。ソーセージ以外の具材としては、レタスなどの新鮮葉野菜に、カレー粉で炒めたキャベツ、みじん切りにした玉ねぎのピクルス等々。もちろん、ケチャップとマスタードも忘れずに。
昨日、お父様達に披露したら組み合わせ次第で色々楽しめると好評だったわ。
あ、あと、マヨラーのマリエルちゃんのためにマヨネーズも忘れずにっと。
「わああ……! ソーセージだけでも嬉しいのに、ホットドッグにして食べられるなんて……私、クリステアさんとお友達になれて本当に……本当に良かったあぁ」
ほわああぁ……とうっとりした表情でよだれを垂らすマリエルちゃんに苦笑する。こんなに喜んでもらえるなら招待した甲斐があるってものよね。
「大袈裟ねぇ。さあ、どうぞ?」
「はあい! いただきます!」
マリエルちゃんは手を前に合わせて「いただきます」をするも、テーブルに並べたパンと具材を前になかなか手を出さない。
「……どうしたの?」
「ええと、あの、これって……どうしたらいい?」
「えっ?」
どうしたらいいってどういうこと?
「いやほら、私って料理苦手だから」
「えええ?」
いやいや。パンにソーセージと好みの具材を挟むだけでしょうに。
「挟むだけってのはわかるけど、私が料理すると台無しになる未来しか見えない」
いやちょっと。キリッと答えても言ってることはダメダメだからね⁉︎
「料理と言うほどのことじゃないと思うけど……ただ好みの具材を挟むだけよ? どの組み合わせでも大抵は美味しくできるはずよ。簡単だからやってみましょう?」
「え……う、うん……ええと。まずは、ソーセージよね?」
「うんうん」
マリエルちゃんはパンを手に取り、切れ目に熱々のソーセージを挟んだ。
「次は……」
マリエルちゃんは少し迷いながらもキャベツのカレー炒めに手を伸ばした。
「これを挟んで……ええと、挟めないんだけど?」
マリエルちゃんは困惑しながら私を見た。
「……そりゃあ、それだけ山盛りにすればね……盛りすぎよ!」
マリエルちゃんはパンからはみ出るどころか山になるほど炒めキャベツを盛り付けていた。
いやそれ、食べにくいどころの話じゃないよね⁉︎
「え、でも美味しそうだからたくさん入れたらもっと美味しいかなって……」
「適量! 物事には適量ってものがあるの!」
私はテヘッと笑うマリエルちゃんにツッコミを入れつつ、溢れた分のキャベツを回収しつつ、量を調整してあげた。
「ええと、次は……マヨネーズかな?」
「えっ」
「よっ……と。うん! 美味しそう!」
私が気づいた時にはマリエルちゃんのカレー粉炒めキャベツとソーセージにぽってりとのせたマヨホットドッグが完成していた。
……うん。多分、普通に食べられると思う組み合わせのはずだし……大丈夫よね。
「いただきまぁす! ……んむっ! んー! 美味しーい!」
マリエルちゃんの満足そうな笑顔を見てひとまず安心した私なのだった。
……とりあえず、2個目からはマリエルちゃんのリクエストに答えつつ、私が作ってあげることにした。
まぜるな危険……もとい、マリエル危険。
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