転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
120 / 423
連載

学園へ向かいましょう!

しおりを挟む
「ついにこの日がきてしまったのか……クリステア、其方今からでも遅くはないぞ、通いにしてはどうだ?」
「あなた、娘の門出の日に水を差すようなことをおっしゃらないでくださいな。それに、我が家から通学だなんて時間のムダですわ。さ、クリステア。遅れてはなりませんよ。ノーマン、貴方がきちんとクリステアを監視して頂戴ね」
お父様が今にも泣いてしまいそうな悲しげな表情を浮かべるのに対して、お母様は冷静にお父様の提案を却下した。お母様、監視ってひどくないですか……?
「はい、いってまいります。さあクリステア、お手をどうぞ」
「はい、お兄様。お父様、お母様、いってまいります」
私はお兄様のエスコートで馬車に乗り込んだ。続いてお兄様、そして黒銀くろがね真白ましろが乗り込んだ。
「学園生活が辛くなったら、いつでも帰ってくるのだぞ!」
「あなたったら……さあお行きなさい。体に気をつけてね」
お母様はお父様に寄り添いながら、御者に発車を促しだのだった。

「はあ……行ってしまったか。クリステアが生まれたのがほんの少し前のことに思えるが……子の成長は早いものだな」
私達の乗った馬車が門へ向かって走り去っていくのを見つめながら、お父様はため息をついた。
「ええ、本当に……ところであなた? 久しぶりの夫婦水入らずですけれど、楽しみにしていたのは私だけなのかしら?」
「……む、そうだったな。ではアンリエッタ、庭の花が咲き始めたそうだが、共に散策でもいかがかな?」
「……ええ。喜んで」
はにかむお母様の手を取り、庭園へとエスコートするお父様の姿を車窓から見ていた私は、やれやれと座席に座りなおした。
まったくもう、お父様ったらまだ諦めていなかっただなんて。
私は軽くため息を吐いた。

魔力を持つ者が集う学び舎であるアデリア学園は、特例でもない限り通いは認められていない全寮制だ。
これから数年間、貴族も平民も関係なく同じ学生として学んでいくのだ。
いくら娘馬鹿なお父様だって元卒業生なんだから分かっているでしょうに。
「ふふ。父上が心配するのも無理はないよ。クリステアのことが心配でたまらないんだから」
「お兄様ったら。私だっていつまでも子供じゃありませんからね」
まあ、十歳なんてまだまだ子供だけどね。とはいえ、この世界では十五歳で成人だから、あと五年と考えたらいつまでも子供じゃいられないのは確かだ。
平民で大した魔力も持たない子供は成人を待たずに見習いとして働き出したりしているのだ。それに、これから入学するアデリア学園でも初等部にあたる一年生から三年生まで履修した後は専門分野に分かれて進級するのだけど、特に際立った才能がなければそのまま卒業していく人もいる。
貴族の子女はお嫁に行くための花嫁修行をしたり、平民は就職したりする。
アデリア学園ではマナーもしっかり鍛えられるので、平民の子は卒業後の就職先も良いところを斡旋されるので心配はない。
それなりに才能がある学生は専門の科に進み、得意な分野で活躍するために学んでいくのだ。
お兄様やレイモンド殿下は魔法を極めるために専科へ進級したのだ。
「はあ……それにしてもこれから大丈夫なのかしら。色々と不安しかないのですけれど……」
「それはまあ、なるようにしかならないんじゃないかな」
お兄様は苦笑しながら言うけれど、そこは大丈夫だよって言って欲しかった!
確かになるようにしかならないのは事実だけど!
「一番の心配は真白ましろ黒銀くろがねのことですわ」
「ああ、そうだね……」
結局、いつかバレるからと言われただけで対策をしていないんだよね。こんなに行き当たりばったりでいいのかしら。
「問題ない。我らの人化は完璧だからな」「そうだよ。ひとがおれたちのこと、わかるわけないよ?」
黒銀くろがね真白ましろは、自分達の人型の姿に自信を持っているけれど、それはそれで問題なんだよね。
今日のところは私達の護衛としてついてきているのだけど、男性の姿では女子寮には入れないのだ。
今まで毎日毎晩べったりだったのに、我慢できるのだろうか……
私もモフモフ不足で禁断症状が出ないか心配だわ……
私の心配をよそに、馬車は商人街に入ると、中央広場をぐるりと回りはじめた。
どうやらここは前世でいうところのロータリーみたいな場所なのかしら。
「お兄様、あそこに馬車がたくさん停まっていますね」
中央広場の一角に馬車がたくさん停まっていて、大勢の人が乗り降りしていた。
「ああ、あそこは乗合馬車の停留所だね」
なるほど、バスターミナルみたいなところかな?
「あっ、制服を着た子がいますね」
「平民の学生だろうね。学園行きの乗合馬車があるから、それに乗るんだろう」
「そうなのですね」
あの中に同級生になる子や先輩がいるってことなのね。
車窓から学生たちを眺めながら、馬車は学園の方向へ駆け出したのだった。

---------------------------
あけましておめでとうございます!
やっと学園編がスタートです。
自分なりのペースで頑張りますので
よろしくお願いいたします( ´ ▽ ` )
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。