143 / 423
連載
ここでもできるかな?
しおりを挟む
確かに、今までどおり私たちの食事を自分で作れるのならそれが一番いいのよねぇ……
「でも、学園は集団生活を学ぶところでもあるのだし、私だけがそんな勝手をするわけにはいかないんじゃないかしら。女子寮に入る前に特別寮に入ることになってしまったけれど、そもそも寮生活において自分が料理したいだなんて、そんなわがままを言ってはいけないでしょう?」
だから、いざという時のために、とインベントリに大量の備蓄をしてきたんだもの。
貴族のお嬢様たちはサロンでお茶会を開いたりすることもあるので、紅茶やちょっとしたお菓子の持ち込みは許されている。
まあ、私のようにご飯だのオーク汁だのどら焼きだの持ち込む人はいないと思うけれど、インベントリ内にあるのだから見咎められることもないし。
なんならマリエルちゃんやセイたちを招待してお茶会と称して定期的にご飯会をしてもいいかも、なんて密かに考えていたのだ。
でも、備蓄ばかり食べて寮で食事をしなければ、心配されるか怪しまれるだろう。
ましてや、特別寮では私たちの他にはセイたちやニール先生しかいないからなあ。
ニール先生にはすぐに私たちがろくに食べてないことは気づかれてしまうだろうし、白虎様たちは私たちがこっそり備蓄している料理を食べているのは即座にバレるからきっと黙っていないに決まってる。
「ええ、本来でしたら個人で食事を別に用意させるのは認められません。ですがクリステア様の場合、聖獣の皆様のお世話を理由にご自身で料理する必要があると学園に申請すれば許可されるのではないでしょうか?」
「えっ? そうなの?」
「公爵令嬢自ら料理するというのは非常に珍しいことですが、それが聖獣様のためであるとなれば……。クリステア様が料理なさることはすでに貴族の皆様の間でも周知されていることもありますから」
……まあ、そうね。その点については今更よね。
たとえそれが悪評だろうと、料理していた実績が今回は説得材料になってくれたらいいんだけど。
「……クリステア様、少しここを離れてもよろしいでしょうか? ミセス・ドーラに相談してみます。これからお世話になるのでご挨拶もしたいですし」
「ああ、そうね。ミセス・ドーラにお会いするのは久しぶりなのでしょう? じゃあ手土産も必要よね。これを持っていって」
私はインベントリからどら焼きを取り出しミリアに渡した。
「ありがとうございます! ミセス・ドーラは甘いものには目がない方なのできっと喜ばれます」
ミリアはそう言って、手早く身支度を整えてからミセス・ドーラの元へ向かった。
『くりすてあがここでもりょうりできるようになったらいいね』
聖獣姿に戻った真白が私の隣に座ったので、インベントリからブラシを取り出してブラッシングをはじめる。
「そうね、そうなれば嬉しいわね。でも、許可されなくてもおおっぴらにしなければ、部屋のミニキッチンで料理はできるんだから大丈夫よ」
『何なら我が主が手ずから作ったものが食いたいと学園に直談判するが?』
黒銀もブラッシング待機の姿勢で私の足元に寝そべった。
「やあねぇ、そこまでしなくても貴方たちが食べる分はインベントリにたっぷりあるから問題ないわ。それに、ミリアは何の根拠もなくあんなこと言ったりしないから、きっといい報告をもらえるはずよ」
私はミリアの帰りを待ちながら、ゆっくりとブラッシングを続けた。
「ただいま戻りました」
輝夜のブラッシングを終えたところでミリアが戻ってきた。
「おかえり、ミリア! どうだった?」
待ってましたとばかりに立ち上がって出迎えた私に、ミリアは柔らかく微笑んだ。
「ミセス・ドーラがどら焼きを大変喜んでいらっしゃいましたよ。それから彼女に相談しましたところ、聖獣様のお世話のためであれば問題ないでしょう、とおっしゃいました」
「本当に? やったぁ!」
私が淑女らしさのかけらもなく手放しで喜ぶのをミリアが遠慮がちに遮った。
「ですが、寮の食堂用の厨房での料理はできないそうです。材料は申請すれば準備していただけるそうですが……」
「十分よ! ありがとう!」
「あの……でしたら、どこで料理なさるおつもりですか? ここのキッチンでは手狭ではありませんか?」
「え? そんなことはないと思うけど……あ、でもミリアも使うわよね。どうしようかしら」
ミリアは私のお世話係としてきたのだから、ミリアの仕事場でもあるミニキッチンをたまに借りるだけならともかく、占領するわけにはいかないか。すっかりここで料理すればいいやと思っていたからなぁ。どこで料理しよう……?
うーん、と思案する私に、ミリアがおずおずと答えた。
「私のことはお気になさる必要はございませんが……あの、ミセス・ドーラから特別寮には専用の厨房があると伺いまして」
「専用の?」
「はい。ですが、今まで特別寮にはニール先生がいらっしゃるだけでしたので……」
「なるほど、ニール先生は料理なんてしないから、使われてないってことね? うーん、てことはまず掃除からかぁ……」
多少埃が積もってようが、クリア魔法でどうにかなる程度ならいいけど。
ああそうだ、ミニキッチン同様設備も古いかもしれないから、お父様に頼んで魔導具を寄贈してもらわないといけないわ。
「あ、あのですね。その厨房なのですが……どうも現在はニール先生の解体部屋になっているそうなのです」
「……え? 解体……部屋?」
「はい。ニール先生の使役している魔獣の餌のための解体部屋になっていると……過去にニール先生が学園に申請して許可を得た上でしているのだそうですが……」
「えええええ⁉︎」
ああ、そういえば、解体に使っているとかそんなこと言っていた気がする!
転寮のゴタゴタですっかり忘れてた。
「ニール先生を立ち退かせることができたらそこを使ってもよいでしょう、とのことなのですが……」
「そ、そう……」
「ニール先生の解体部屋」って聞いただけで、結構スプラッタでおどろおどろしいのを想像してしまう。うっぷ。
あんな紅茶を淹れたりするような人が厨房をきれいに使っているとは考えられないんだよね……
たとえ明け渡してもらったとしてもまともに使えるようになるのかな?
だ、大丈夫かなぁ……?
「でも、学園は集団生活を学ぶところでもあるのだし、私だけがそんな勝手をするわけにはいかないんじゃないかしら。女子寮に入る前に特別寮に入ることになってしまったけれど、そもそも寮生活において自分が料理したいだなんて、そんなわがままを言ってはいけないでしょう?」
だから、いざという時のために、とインベントリに大量の備蓄をしてきたんだもの。
貴族のお嬢様たちはサロンでお茶会を開いたりすることもあるので、紅茶やちょっとしたお菓子の持ち込みは許されている。
まあ、私のようにご飯だのオーク汁だのどら焼きだの持ち込む人はいないと思うけれど、インベントリ内にあるのだから見咎められることもないし。
なんならマリエルちゃんやセイたちを招待してお茶会と称して定期的にご飯会をしてもいいかも、なんて密かに考えていたのだ。
でも、備蓄ばかり食べて寮で食事をしなければ、心配されるか怪しまれるだろう。
ましてや、特別寮では私たちの他にはセイたちやニール先生しかいないからなあ。
ニール先生にはすぐに私たちがろくに食べてないことは気づかれてしまうだろうし、白虎様たちは私たちがこっそり備蓄している料理を食べているのは即座にバレるからきっと黙っていないに決まってる。
「ええ、本来でしたら個人で食事を別に用意させるのは認められません。ですがクリステア様の場合、聖獣の皆様のお世話を理由にご自身で料理する必要があると学園に申請すれば許可されるのではないでしょうか?」
「えっ? そうなの?」
「公爵令嬢自ら料理するというのは非常に珍しいことですが、それが聖獣様のためであるとなれば……。クリステア様が料理なさることはすでに貴族の皆様の間でも周知されていることもありますから」
……まあ、そうね。その点については今更よね。
たとえそれが悪評だろうと、料理していた実績が今回は説得材料になってくれたらいいんだけど。
「……クリステア様、少しここを離れてもよろしいでしょうか? ミセス・ドーラに相談してみます。これからお世話になるのでご挨拶もしたいですし」
「ああ、そうね。ミセス・ドーラにお会いするのは久しぶりなのでしょう? じゃあ手土産も必要よね。これを持っていって」
私はインベントリからどら焼きを取り出しミリアに渡した。
「ありがとうございます! ミセス・ドーラは甘いものには目がない方なのできっと喜ばれます」
ミリアはそう言って、手早く身支度を整えてからミセス・ドーラの元へ向かった。
『くりすてあがここでもりょうりできるようになったらいいね』
聖獣姿に戻った真白が私の隣に座ったので、インベントリからブラシを取り出してブラッシングをはじめる。
「そうね、そうなれば嬉しいわね。でも、許可されなくてもおおっぴらにしなければ、部屋のミニキッチンで料理はできるんだから大丈夫よ」
『何なら我が主が手ずから作ったものが食いたいと学園に直談判するが?』
黒銀もブラッシング待機の姿勢で私の足元に寝そべった。
「やあねぇ、そこまでしなくても貴方たちが食べる分はインベントリにたっぷりあるから問題ないわ。それに、ミリアは何の根拠もなくあんなこと言ったりしないから、きっといい報告をもらえるはずよ」
私はミリアの帰りを待ちながら、ゆっくりとブラッシングを続けた。
「ただいま戻りました」
輝夜のブラッシングを終えたところでミリアが戻ってきた。
「おかえり、ミリア! どうだった?」
待ってましたとばかりに立ち上がって出迎えた私に、ミリアは柔らかく微笑んだ。
「ミセス・ドーラがどら焼きを大変喜んでいらっしゃいましたよ。それから彼女に相談しましたところ、聖獣様のお世話のためであれば問題ないでしょう、とおっしゃいました」
「本当に? やったぁ!」
私が淑女らしさのかけらもなく手放しで喜ぶのをミリアが遠慮がちに遮った。
「ですが、寮の食堂用の厨房での料理はできないそうです。材料は申請すれば準備していただけるそうですが……」
「十分よ! ありがとう!」
「あの……でしたら、どこで料理なさるおつもりですか? ここのキッチンでは手狭ではありませんか?」
「え? そんなことはないと思うけど……あ、でもミリアも使うわよね。どうしようかしら」
ミリアは私のお世話係としてきたのだから、ミリアの仕事場でもあるミニキッチンをたまに借りるだけならともかく、占領するわけにはいかないか。すっかりここで料理すればいいやと思っていたからなぁ。どこで料理しよう……?
うーん、と思案する私に、ミリアがおずおずと答えた。
「私のことはお気になさる必要はございませんが……あの、ミセス・ドーラから特別寮には専用の厨房があると伺いまして」
「専用の?」
「はい。ですが、今まで特別寮にはニール先生がいらっしゃるだけでしたので……」
「なるほど、ニール先生は料理なんてしないから、使われてないってことね? うーん、てことはまず掃除からかぁ……」
多少埃が積もってようが、クリア魔法でどうにかなる程度ならいいけど。
ああそうだ、ミニキッチン同様設備も古いかもしれないから、お父様に頼んで魔導具を寄贈してもらわないといけないわ。
「あ、あのですね。その厨房なのですが……どうも現在はニール先生の解体部屋になっているそうなのです」
「……え? 解体……部屋?」
「はい。ニール先生の使役している魔獣の餌のための解体部屋になっていると……過去にニール先生が学園に申請して許可を得た上でしているのだそうですが……」
「えええええ⁉︎」
ああ、そういえば、解体に使っているとかそんなこと言っていた気がする!
転寮のゴタゴタですっかり忘れてた。
「ニール先生を立ち退かせることができたらそこを使ってもよいでしょう、とのことなのですが……」
「そ、そう……」
「ニール先生の解体部屋」って聞いただけで、結構スプラッタでおどろおどろしいのを想像してしまう。うっぷ。
あんな紅茶を淹れたりするような人が厨房をきれいに使っているとは考えられないんだよね……
たとえ明け渡してもらったとしてもまともに使えるようになるのかな?
だ、大丈夫かなぁ……?
210
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!
酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。
確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。
だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。
当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。
結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。
当然呪いは本来の標的に向かいますからね?
日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。
恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。