転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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連載

寮に到着!

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そうこうしているうちに特別寮に着いた。
馬車からミリアの荷物を降ろすと、お父様たちはそのまま屋敷へ帰っていった。
「くれぐれも身辺には気をつけるように」と一言を残して……
「……さ、さあミリア、中に入りましょう! 黒銀くろがね真白ましろ、荷物を運んでくれる?」
「うむ」
「はーい」
二人は入り口にまとめて置かれたトランクやボストンバッグを持ち、扉を開けてくれた。
「あ……あの、ありがとうございます」
そんな二人にミリアが恐縮しつつ、私と一緒に寮に入った。
ミリアがここに来ると決まったのが昨日のことなので、取り急ぎ必要なものだけをまとめてきたらしい。
また後日改めて取りに戻ると言うので、私の休みに合わせて一緒に帰ることにした。
私がインベントリに収納したらいいんだもんね。
ミリアと輝夜かぐやの魔力登録をして部屋に入ると、ようやくバスケットから解放された輝夜かぐやがんんーっと伸びをしてブルルッと身体を震わせた。
『はーやれやれ、やっと自由になれたよ』
輝夜かぐやは新居の様子が気になるようで、自由に室内を見回りはじめた。
ひとまず落ち着くまで輝夜かぐやは好きにさせておいて、ミリアを案内することにした。
「……で、ここがミリアの部屋ね」
ひととおり設備などを説明しながら奥へ進み、ミリア用の部屋に案内した。
黒銀くろがね真白ましろが自分たちの部屋はいらないと言うので、聖獣用の部屋をミリアの部屋として明け渡したのだけれど「まあ! こんな立派なお部屋は私にはもったいないです」と、ミリアが使用人棟に行くと言って聞かなかった。
私はなんとか説得して、ここで生活してもらうことになった。やれやれ……
ミリアの荷物を部屋に置き、荷ほどきもあるだろうからゆっくりするように言って、私は自室に戻ったのだけれど、しばらくしてからいつものお仕着せの服に着替えたミリアがお茶を入れてきた。
「もうミリアったら。ゆっくり荷ほどきすればいいのに……」
「大して荷物は持ってきていませんから。お気遣いありがとうございます」
と、ミリアはにっこりと笑って言った。
彼女は生真面目だから、こういう時に意外と頑固だ。
荷ほどきはきっと私が寝入ってからやるつもりなのだろう。
今日の就寝時間は少し早めにしようと決めて、お茶をいただくことにした。
「ふふ、ここでもミリアが淹れるお茶を飲めるなんて嬉しいわ」
昨日、ニール先生の淹れた紅茶があまりにも衝撃的だったこともあり、いつもの美味しいお茶にほっこりした。
「まあ、ありがとうございます。私も昨日はクリステア様がいらっしゃらない間、お世話ができなくてさみしいと思っておりましたから、こうして学園でもご一緒できて嬉しいです」
あらやだミリアったら、照れるじゃない。
二人してうふふ……と笑いあっていると、お部屋チェックに満足したらしい輝夜かぐやがやってきて、日当たりのいい窓際で寛ぎはじめた。
『やれやれ。アンタに置いていかれたからどうしてくれようと思ってたんだが、こんなに早くこっちに来ることになるとはねぇ……』
輝夜かぐやはくわぁ……とあくびをひとつするとくるりと丸まって、今にも寝落ちそうだ。
輝夜かぐやを置いていったのは悪かったと思ってるわよ。でも契約しているとはいえ、魔獣を連れて行くわけにはいかないじゃない。ましてや、今は黒猫のすがたなんだから。学園のペットの持ち込みは禁止されてるもの」
『誰がペットだい! アタシはね、今じゃこんなナリにされちまったが、誇り高き魔獣なんだ!』
フシャーッ!と怒る姿はどう見ても黒猫です。ありがとうございます。
「もう、ごめんってば……でもお父様が連れてきてもいいって言ったのなら、輝夜かぐやがここで生活する分には問題ないってことよね?」
「ええ、お館様がそのようにおっしゃっていました。輝夜かぐやが私にしがみついて離れないのをご覧になって『いいから、連れていきなさい』とおっしゃいまして。それでようやく離れたんですよ」
「へぇ……輝夜かぐやったら、そんなに置いてかれてさみしかったんだ?」
私がにやーっと笑って輝夜かぐやを見ると、フン!と顔を背けた。
『ア、アタシにだって魔力をいただく権利があるって言ったろ! この娘に着いてくるのは当然さ!』
尻尾をバン、バン! と床に打ち付けると『今日のメシは置いていった罰として豪華にしなよ!』と言って顔を背けたままま再び丸まってしまった。
「あ……そうだ。ご飯なんだけど……」
「はい。食堂までお供いたしますか?」
「ううん。入学までは寮に待機しているように言われたから、寮の一階にある会議室でいただいてるの。料理はアイテムボックスに入れられているから、それを食べることになっているのよ」
「そうでしたか。でしたら給仕は私がやりますね」
「ええ。でも……」
私が口籠ると、ミリアはピンときたようで、苦笑した。
「学園の食堂のメニューは、クリステア様のお口には合わないでしょうね」
「……そうなのよね……」
この会話だけ聞くと、私がとんでもないわがままお嬢様のように聞こえるけど、違うからね?
王国全体の水準で考えたら美食のほうだけど、あれよ、あれ。私が前世の記憶を取り戻した当初みたいな味。
食事情は以前より良くなっているはずなんだけどなぁ……改善されたのはレシピを購入した貴族や食事処だけなのかな?
まあ、今まであの料理で皆満足していたわけだから、わざわざレシピを購入してまで改善はしなかったってことなのかもしれない。
「できれば、今までのような食事を摂りたいのだけれど、難しいわよね……?」
とはいえ、あの料理を食べ続けるのは無理。できるだけお残しをしない程度に量を減らして、部屋で食べるしかないかな……
「……確か、聖獣様の食事は各々で手配することになっていましたよね?」
「え? ええ。材料は学園で手配してくれるそうよ。真白ましろ黒銀くろがねは私たちと同じものが食べられるから、私のと同じものを出してもらっているの」
「まずいけどね」
「うむ、主の料理が至高。あのようなものわざわざ食べたいとも思わぬが、主が耐えておるので我らもそれに倣っておる」
あわわ……やっぱり我慢して食べてたんだよね。ごめん、二人とも。
『はあ⁉︎ アンタのメシが食えないってのかい? 不味いメシ食わされるんなら何のためにここにきたってのさ⁉︎』
ふて寝していた輝夜かぐやも聞き捨てならないとばかりに抗議してきた。
いや別に輝夜かぐやはここで私の料理食べたらいいと思うよ……?
だって、白虎様や朱雀様も同席することもあるんだから、おっかなくて来れないんじゃないかな?
突然、ニャーニャーと抗議しはじめた輝夜かぐやを横目に、ミリアが言った。
「元々、黒銀くろがね様や真白ましろ様のお食事はクリステア様がご用意されていたのですから、ここでもそのようになさってもいいのではないでしょうか?」
「え?」
それってやってもいいことなの?
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