転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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え? なぜここに⁉︎

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『ちょいと! 早くここを開けな!』
ぎにゃー! と鳴き声が聞こえ、思わずミリアが手にしていたバスケットを見ると、ガタガタと激しく揺れていた。
え、もしかして……
慌ててバスケットの蓋を開けるとそこにいたのは……
輝夜かぐや!」
『狭っくるしい籠の中にいつまでも閉じ込めておくんじゃないよ、まったく! 息苦しいったらありゃしない!』
にゅっと籠の中から頭を出した輝夜かぐやが周囲の様子を探ってから外に出ようとしたので、私は慌ててバスケットの蓋をバッと閉じた。
『フギャッ⁉︎ 何すんだい! 痛いじゃないか!』
無理矢理押し込める形になったので、頭をぶつけたらしい。
『ごめん、輝夜かぐや! また馬車に乗らなきゃいけないから、もう少し我慢しててね』
輝夜かぐやがフシャーッ! と怒り狂うのを念話で宥めていると、ミリアが申し訳なさそうな顔をしていた。
「あの、昨日からずっと私の傍から離れなくて……お館様が『連れていっても問題ない』とおっしゃいましたし、もしかしたら寂しくてクリステア様に会いたがっているのかもと思い、連れてまいりました」
『違う! アタシだって契約してんだから、アンタの魔力をいただく権利があるんだ! だからついてきただけさ!』
バスケットがガタッと揺れて、ミリアの言葉に間髪入れず輝夜かぐやが反論した。だけど、それなら別に昨日からミリアにべったりくっついてる必要はないわけで……
本来学園にペットの持ち込みは不可だし、ましてや魔獣なんてもってのほかだから、週末にちょいちょい帰って魔力をあげようと思ってたんだけど。
……まあ、聖獣契約のことがバレた今、輝夜かぐやが増えたところで問題ないか。お父様もそう思って許可したに違いないし。
「寂しかった? ごめんね輝夜かぐや
そろ~っとバスケットの蓋を開けようとしたら、当てる気のないネコパンチが飛んできた。
このツンデレさんめ……
「クリステア、早く乗りなさい」
お父様に急かされ、私たちは慌てて馬車に乗り込む。
馬車の扉を閉めると、すぐさまするすると滑るように走りだし、特別寮へ向かいはじめた。
「……とりあえずはなんとかなったが、面倒なのはこれからだな」
お父様がため息混じりに言った。
「これから……とは?」
聖獣契約したことを黙っていたのはどうにかお咎めなしになりそうだし、明日の報告は学園長とお父様がうまいことやってくれるはずだから、私はすっかり安心していたんだけど……
今後は真白ましろ黒銀くろがねの存在を秘密にせず、大手を振って歩けるのに、どんな面倒があるというのか。
「其方が聖獣契約者であることが公になるのだ。面倒がないわけがなかろう」
「そうね。これから貴女に婚約の打診が次々と舞い込むわね」
「ええ⁉︎」
だって、学園に入ったらなんとかなるってお父様が言ったんじゃないの。
「貴女が王太子殿下の婚約者になっておけば、そういうこともないのだけれど。今のところ貴女にその気がないのだから仕方ないでしょう? 黒銀くろがね様と真白ましろ様が貴女の気持ちを尊重するあまり敵意を向けられるのは、王家としても本意ではないはずよ。聖獣契約が如何なるものか一番理解しているのは王家ですからね、他の聖獣と敵対することになるのを警戒して強引に婚約を推し進めることはしないでしょう」
「だが、それゆえに婚約者がいない其方にあわよくば……と思う輩は多いだろう。聖獣契約者が身内にいれば王宮での発言力が増すだろうからな」
「そんな……」
ばかな。私のようなおこちゃまに……って、そうか。この世界では生まれる前から婚約者がいたっておかしくないんだった。
「我が家に直接縁談を申し入れてくる身の程知らずは私が全て排除するので安心しなさい」
「お父様……」
ありがたいけど、排除って何⁉︎ 単にお断りするだけだよね?
不穏な言葉のチョイスは、怖くなるからやめてほしい……
「問題は、学園内で其方に権力目当てに言い寄る輩が少なからずいるだろうということだ」
「へ?」
「そうね。万が一貴女に気に入られて、黒銀くろがね様や真白ましろ様からも認められれば、玉の輿だってありえる、と愚かな考えで近づく殿方もいるでしょう」
「ええっ⁉︎」
何それ、王太子殿下の婚約者になるのは免れても、玉の輿狙いの輩につきまとわれるかもってこと?
「そんなの、嫌です!」
「それが現実というものです。嫌なら王太子殿下の婚約者におなりなさい。それが一番いい解決策なのだから」
「……」
それもやだ。やだやだばっかりじゃいけないのはわかってるけど、つきまとわれるのが嫌だから婚約するなんておかしいし、第一、そんなの王太子殿下に失礼だよ。
「やめなさい、アンリエッタ。黒銀くろがね様と真白ましろ様が護っていらっしゃる以上、クリステアの意思にまかせると決めただろう」
「え?」
「そうですけれど……世間知らずなこの子が、どこぞの馬の骨に絆され騙されないとも限りませんもの。それぐらいなら王太子殿下の婚約者に……」
「アンリエッタ」
「……わかりました。はあ……やはりあの時まとめておくのだったわ……」
お父様が鋭い目で止めると、お母様は渋々引き下がった。
お父様とお母様が、そんな話をしていただなんて……っていうか、お母様ったらやっぱり諦めてなかったのか。
「学園内では親の目は隅々まで届かぬことが多い。だから、ノーマンにしっかり其方を見ておくようにと言ってある」
「お兄様に?」
「ノーマンは王太子殿下の側近候補として忙しいが、王太子殿下の傍にいる分、王太子殿下の動向もわかるし、他の者もそうそう近寄らぬだろう。ノーマンも其方をしっかり監督するとやる気を見せていたから安心するといい」
「はあ……」
お兄様に守っていただけるのはありがたいけれど、それってお友達(予定の同級生たち)も近寄れないってやつなんじゃ……?
マリエルちゃんがいなかったら、ぼっち確定で泣いてるところだよ……
「主は我らが護るゆえ、ノーマンの手助けなど不要だ」
「そうだよ。おれたちがいるんだから、へんなやつらはちかよらせたりしない!」
お父様たちの会話に黒銀くろがね真白ましろが不服そうだ。
「そう言われましても、学園内でお二方が常に娘の傍にいられるわけではありません。ましてや、貴族のはかりごとに聖獣の貴方たちが対処するのは難しいでしょう」
「……む、それは……」
「そんなの、きょうせいはいじょすれば……」
真白ましろ、強制排除とか物騒な発言は慎もう⁉︎
「貴族のやり方に対抗できるのはやはり貴族です。そこは、我々家族におまかせいただきたい」
お父様がきっぱり言うと、二人は渋々ながらも了承した。
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