転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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連載

安定の◯女子でした。

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※「ここでもできるかな?」回を少し修正いたしました。

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「……それはついてなかったわねぇ」
マリエルちゃんに今までの経緯を説明すると、ものすごく気の毒そうな表情で見られてしまった。うん、私もついてなかったと思う。
「でも女子寮に入寮する前に特別寮に入れたのは逆によかったと思ってるの。入学式まではここに居ればいいから、好奇の目にさらされることも、詮索されることもないし……」
まあ、学園長との面会が終わってミリアが来てくれたからこそ、そう思えるんだけど……災い転じて福となす的な?
「ああ、確かに。女子寮で発覚したら、移動したのが誰なのかバレバレだものね。でも、貴族の令嬢たちはクリステアさんなんじゃないかって薄々気づいてるんじゃないかしら。高位貴族が使う部屋から荷物が運び出されたって噂になってたもの」
「えっ」
「退寮したのが誰なのか探ろうとした人もいたみたいだけど、箝口令が出されているみたいで聞き出せなかったって……」
「そ、そうなの……」
確かに、入寮期間に荷物が運び出されたら何事かと思うわよね……
「とりあえず、入学式まではここから出ないほうがよさそうね」
「そうね、そうしたほうが……」
盛大にため息をついた私にマリエルちゃんが労るように声をかけていたその時、談話室の扉が開いた。
「……と、失礼。あれ? 君は……マリエル嬢?」
「え⁉︎ せ、せせせセイしゃまっ⁉︎」
……噛んだ。
突然現れたセイに驚いたみたいね。契約者しかいないはずの特別寮にいきなり現れたんだからそりゃあ驚きもするよね。
「セイ様、なぜここに⁉︎」
「ああ、ええと……僕もクリステア嬢と同じ聖獣契約者なんだ」
「ええええええ⁉︎」
マリエルちゃんは驚きを隠しきれずに大声を上げた。まあ気持ちはわかる。
「あ? なんだ? 騒々しいなぁ……」
「何事ですの?」
「うええええ⁉︎」
セイの背後から白虎様と朱雀様が顔を覗かせたのを見てマリエルちゃんが大声を上げた。
「あ……ええと、彼らは僕の契約聖獣で、白虎と朱雀。トラ、朱雀、彼女はマリエル嬢。クリステア嬢の友人だよ」
「おう、よろしくな!」
「以前バステア商会でお見かけしましたわね。私、朱雀と申します。お見知りおきくださいませ」
「えっ……えええええ⁉︎ お二人がセイ様の契約聖獣⁉︎」
マリエルちゃんはバステア商会で見かけてからずっと気になっていた二人がセイの契約聖獣と聞き、三人を交互に見ながらあわあわしていた。うーん、ずっと驚き通しのマリエルちゃんが気の毒になってきたよ……
「ク、クリステアさぁん……?」
マリエルちゃんが「聞いてないよ?」みたいな表情でこちらを見た。
「私も特別寮に来たらセイ様がいらしたからびっくりしたのよ。セイ様も私と同じような経緯でここに入ったそうなの」
「そうそう。僕もクリステア嬢が入寮してきたから驚いたよ」
二人して初めて知ったように答える。
隠しごとをするのは後ろめたいけれど、セイの事情もあるからなぁ……。ごめんね、マリエルちゃん。
「そうなんですか……」
私を見るマリエルちゃんの顔には「いいなあぁ! 私もここに入寮したいいぃ!」とはっきり書いてあった。残念。ここには契約者しか入れないよ。契約者なら、入りたくなくても入らされるけどね……
「そういえば、そろそろ夕食の時間だけど、戻らなくてもいいのかな?」
セイが時計を見ながら言う。
「えっ……ああ! もうこんな時間⁉︎ 帰らないと!」
マリエルちゃんはあたふたと女子寮に帰っていった。私にアイコンタクトで「また来るから! セイ様たちの情報よろしく!」と念を押して……
すごいね、マリエルちゃんとは念話できないはずなのに、何を伝えたいのかビシバシ伝わってきたよ……?
恐るべし、腐のパワー……!
「さーてと、俺らもメシにしよーぜ。気は進まねぇけど」
「そうですわね……あのお食事はちょっと……」
白虎様と朱雀様はそう言いながら、チラッとこちらを見る。
うーん、これは遠回しに催促されているっぽい……?
「お前たち、贅沢を言うもんじゃない。出されたものはありがたくいただくべきだろう」
セイが嗜めると二人は「ふへぇ~い」「そうですわね、申し訳ございません」と言いながら、食堂代わりの会議室へ向かった。
やっぱり白虎様たちもあの料理には辟易してるんだろうなぁ。
やっぱり、ニール先生に解体部屋……じゃない、厨房を明け渡してもらって、皆で食べられるようにしたほうが良さそうね。
私は食堂に向かおうとしたものの、ミリアと輝夜かぐやを部屋に残していることを思いだした。
……そういえば、ミリアはセイや白虎様たちのことを知ってるけど、セイが男の子だってこと知らなかったんだった!
どうしよう、セイのことをどう説明したらいい?
思わず歩みを止めた私に気がついたセイが振り向いた。
「クリステア嬢、どうした?」
「あの……私の身の回りの世話をするためにミリアが来ているの。それで……あの」
「ああ、あの侍女か……」
私の言いたいことを察したようで、どうしたものかと考えている様子だ。
『おい、お嬢。あのおっぱいのでっかいねーちゃんが来てんのか?』
ちょっと、白虎様⁉︎ 突然念話してきたと思ったらなんですかその発言はあぁ⁉︎
『……あー、ニールってヤローが食堂にいるからこのまま念話を続けるぞ。セイに確認したけどな、家の事情であの格好をしていたとかそんな感じで上手いことごまかしてくれりゃ同一人物だってのはバラしてもいいってよ』
『えっ⁉︎ でも……いいのですか?』
『お嬢の兄貴も疑ってたが、あのねーちゃん相手じゃな。さすがにあんだけ顔付き合わせてりゃごまかしきれねぇだろ。お前さんの外聞もあるから、内緒にしとけって言っときな。あのねーちゃんなら、お前の不利になることはしねぇだろ。後で口裏合わせたいからどう説明したのかは報告しろよ?』
『は……はい』
次期帝ってことや、四神獣の皆様の役割とかそういったことをぼかして説明すればいいってことよね? その上で男の子と頻繁に会っていたという不名誉な誤解を受けないために秘密にするよう厳命しておきなさいって? ……セイや白虎様たちに気を遣わせてしまって申し訳ない。
でも、そうするのがお互いのためによさそうだから、ありがたくその提案に乗ることにしよう。
「ん? 侍女のねーちゃんを部屋で待たせてんのか? じゃあ食事するって教えたほうがいいんじゃねえ? セイ、俺らは先に行こうぜ」
「あ、ああ……」
白虎様はそう言うと、心配そうに私を見るセイの背中を押して行ってしまった。
男の子だもん、変装とはいえ女装してたなんて知られたくないだろうに……それに、家の事情とぼかして伝えたところで、それがどう今後に影響するかわからないのに教えてもいいって、人が良すぎるよ、セイ。
……よし、ミリアにセイのことを伝えて、セイたちにこれ以上迷惑をかけないようにしよう! うん!
セイたちの信用を裏切らないために!
勢い込んでくるりと振り返った途端、白虎様からの念話が。
『あっ、このことは貸しにしとくから、報告の時には美味いもんたっぷりよろしくなっ!』
……つくづく、残念聖獣様だよ、白虎様はあぁ!

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ちょうど二年前の本日6/28が庶民の味書籍化一巻の出荷日でした。
ラノベ作家デビューして二年……あっという間に経ってました。びっくり……
三年前の4月の終わりに書き始めてここまでこれたのは読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます!
兼業ゆえにマイペースではありますが、コツコツ頑張りますのでこれからもよろしくお願いいたします( ´ ▽ ` )
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