転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
164 / 423
連載

わけがわからないよ?

しおりを挟む
知らない間に私の作ったお菓子を神龍様が召し上がっていたでござる。

な、何を言っているかわからないと思うが、私も何を言っているのかわからない……えええ?

「クリステア嬢……うちの者が何やらすまない……」
動揺を隠しきれない私を見て、セイが申し訳なさそうに言った。
「い、いえ……セイが悪いわけじゃないもの……あ、いえ、その、玄武様と青龍様もワザとしたわけじゃないんだし……あの、こ、これで神罰が下るなんてことは……?」
ないよね? お願いだからないと言って⁉︎
「あ? いやいやンなわけねーだろ。お嬢の作るモンはどれも美味いしな!」
私が恐る恐る尋ねると、セイよりも白虎様のほうが早く反応した。
隣では朱雀様がうんうんと頷き同意した。
「ええ、クリステア様の作られるプリンや茶碗蒸しは絶品ですもの! まったく、ここは羊羹よりプリンをお出しするべきところですのに、玄武も気が利きませんわね。……そうですわ、クリステア様! 今度は私が献上して参りますから、プリンを分けていただけませんこと?」
は? プリンって……朱雀様が食べたいだけですよね⁉︎
いやいや、グッドアイデア! みたいなお顔でこちらを見るのはやめてくださいませんか⁉︎
「いやいや、オーク汁やおにぎりだろ? あ、唐揚げもいいかもなぁ……ってわけで、くれ!」
白虎様も乗っからないでくださいませんか⁉︎
「それはバカトラの好みでしょうに! クリステア様、バカトラは放っておいてよろしいですわよ」
「馬鹿言え、お前だってそうだろうが! プリンだの茶碗蒸しだの、プルプルとしたもんばっかハマりやがって、ここはやっぱりガッツリと食いごたえのあるモンのほうがいいっての!」
「なぁんですってぇ⁉︎」
「あぁん⁉︎ 文句あんのか⁉︎」
お二人の間で火花が散っているかのような一触即発の雰囲気に、私はサーッと血の気が引いた。
ひえっ⁉︎ ここで神獣大戦争勃発とか、ご勘弁願えませんかね⁉︎
バシッ! バシッ!
「キャッ!」
「イデッ!」
「お前たち、いい加減にしろ!」
お二人の頭にセイの鉄扇制裁が……よ、容赦ない……!
「……クリステア様、申し訳ございませんでしたわ……」
「……悪ィ」
セイはしおしおと謝罪する二人を睨んだ後、私に向かって深々と頭を下げた。
「……本っ当に、うちの神獣たちがすまない」
「い、いえあの、さっき言ったようにセイが悪いわけじゃないんだから謝罪する必要は……」
「それから、バチが当たるとか、そんなことは絶対ない。クリステア嬢の作るものは、ど、どれも美味い……から」
「あ、ありがとう……」
ヤダもう、セイが照れながら言うもんだから、バチが当たらないことにホッとしていいのか、照れたらいいのがわけわかんなくなっちゃうじゃないの。
「ええと、あの。このまま厨房に行きましょうか! ごはんの炊き方からお教えしますから!」
「あ、ああ。そうだな。よろしく頼む」
私の照れ隠しの提案に、お互いギクシャクしながら立ち上がると、人型の真白ましろが後ろから抱きついてきた。
「わっ! なぁに? どうしたの、真白ましろ?」
「……くりすてあは、おれたちのしゅじん、なんだから、こいつらのめんどうを、みるひつようなんて、ないのに……」
真白ましろが私の頭にぐりぐりと額を押し付けながら小さな声でポソリと言った。
真白ましろ……」
「うむ、真白ましろの言う通りだ。おぬしらは我らが主に少々甘えすぎだ。いくら友とは言え、そこは弁えてくれぬか」
黒銀くろがね!」
黒銀くろがねの発言にびっくりして思わず非難の声をあげると、セイに止められた。
「いや、いいんだクリステア嬢。確かに俺たちはクリステア嬢が優しいのをいいことに甘えていた。ここにいる間、迷惑をかけないよう気をつける。……しかし、料理は教えてほしい。少しでも覚えてクリステア嬢の負担にならないようにしたい」
セイがそう言うと、白虎様や朱雀様もしゅんとしていた。
確かに、私もセイたちの置かれている状況に同情して、ついつい甘やかしてしまっている感はあった。それで真白ましろ黒銀くろがねを悲しませてちゃ主人失格よね……私も反省しなくちゃ。
でも私は、故郷を離れて気軽に帰ることもできないセイと前世には戻れない自分をつい重ねて見てしまう。
私には家族や料理があるけど、セイは大事なものを残して、遠くヤハトゥールからここまで海を越えてきたのだ。
ヤハトゥールを出る時に契約した四神獣の皆様が付き添ってくださっているからまだいいものの、それすらなかったら、セイはこの異国でずっと孤独に過ごしていたかもしれない……そう思うとやり切れない。
だから私は、セイの友人として、できることをしてあげたい。
「私はセイたちを負担だなんて思ったことなんてないわ。だけど、料理を覚えるのは悪いことじゃないし、セイたちのためになるのだからちゃんと教えるわね」
「俺たちのため……?」
「ええ、誰だってお腹が空くとイライラしたり悲しくなったりするわ。でも、美味しいごはんをお腹いっぱい食べれば、皆幸せな気持ちになれるでしょう? そんな美味しいごはんを自分で作れたら素敵だと思わない?」
私が戯けたように言うと、セイがクスッと笑った。
「確かに俺たち皆、クリステア嬢の作る料理に幸せにさせてもらっている。俺たちもその幸せを返せるよう頑張るとしよう」
「俺たちもって……まさか俺らもか?」
「あら、当たり前でしょう? クリステア様、私も美味しいプリンをあるじに召し上がっていただけるようになりたいので教えてくださいませ!」
「え、ああ……はい」
朱雀様の場合、自分が食べたいだけのような気もするけど……まあいいか。
「ささ、厨房に向かいましょう? バカトラは食べたくないのなら部屋に戻ればよろしいのですわ」
「馬鹿言え! 俺だって多少は料理できるんだからな! あとは味付けとか、ちょっとしたコツを覚えるだけだっての!」
「バカトラは切って焼くだけしかできないじゃありませんの! 繊細さというものが足りませんわ!」
やいのやいのと騒ぎ立てながら白虎様と朱雀様がセイと連れ立って厨房に向かうのについていこうとすると、真白ましろが隣に立ち、私の手を握った。
「おれも、ごはん、つくれるようになるから、くりすてあ……たべて、くれる?」
真白ましろ……」
「うむ、我も主が幸せな気持ちになれるように覚えるとしよう」
黒銀くろがね……ばかね、私は皆が美味しそうに食べてくれるのが一番幸せなんだから。でも、そうね。皆で作れたら楽しいわね。さあ、私たちも行きましょう!」
「うん!」
「うむ」
私は真白ましろ黒銀くろがねと手を繋ぎ、厨房へ向かったのだった。

---------------------------
公式漫画にコメント機能が実装されております。ぜひご活用くださいませ( ´ ▽ ` )
コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」11話は11月12日(木)更新予定です!
おセイちゃんの◯◯◯◯姿や◯◯姿が拝めますのでお楽しみに!٩( 'ω' )و
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。