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実食です!

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皆で作ったごはんと味噌汁が完成した。
セイたちは今後も料理を手伝うと張り切っていたから、少しずつでもいいから覚えてもらおうっと。
うーん、さすがにこれだけでは足りないだろうから、追加でインベントリにストックしていたオーク肉のしょうが焼きを出すことにしよう。
幸い、いざという時のためにインベントリにはたくさんストックしてあるし、家に戻ったら補充すればいいものね。
頑張るところは頑張る。でもって、手を抜けるところは抜く。これ重要。
これから授業もあることだし、無理しない程度にやっていかないとね。

「……今日は見たことないメニューだね?」
魔獣たちの給餌を終えて戻ってきたニール先生が、配膳された和食を見て戸惑っていた。
「セイ様の故郷であるヤハトゥールの料理です。我が家では以前からヤハトゥールの食材を使って料理しておりましたの。領地にヤハトゥールの品を扱う商会がありまして、興味を持ったのがきっかけなのですわ。先生のお口に合えばいいのですが」
「へえ……これがヤハトゥールの」
ニール先生が興味津々で見ていると、セイが説明してくれた。
「故郷の料理ということで僕も調理を手伝いました。これがごはん……パンの代わりと思っていただければ。それから味噌汁、味噌という調味料を使ったスープです。そしてこれは、ええと……」
セイが私をチラッと見るので、私が代わって説明することにした。
「こちらはオーク肉のしょうが焼きですわ。スライスしたオーク肉に生姜……我が国ではジンジーと呼んでいる薬草とヤハトゥールの調味料を使った料理です」
「えっ? 薬草を料理に使ったのかい⁉︎」
ニール先生が驚いているが、我が家ではすっかり食材として認知されてしまったので久々の反応だ。
「はい。ジンジーは料理に使うと臭み消しやアクセントになってよいのです」
「へえ……臭み消しに? いいことを聞いたな」
ニール先生はメモ帳を取り出し、早速メモをした。
「それにオーク肉だって? 最近は品薄なのによく手に入ったねぇ。僕も魔獣たちの餌の分を確保するのに苦労してるんだよ。この前の分だってようやく丸々一体手に入れたんだ」
あ……っ、それは我が家のベーコン事業のせいですね、きっと。
先日のオークの生首を思い出してウップとなりながら、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
私のインベントリにはまだまだストックがあるから、今度実家からと言ってオークを提供したほうがいいかもしれない。
魔獣たちの食べるものがないのはかわいそうだもの。
「魔獣たちの中には内臓を好んで食べる個体がいるもんだから、内臓だけ別ルートで手に入れたりするのに苦労するんだよねぇ。以前は貧民街スラムまで足を運んでたんだけど、そこでも最近は手に入らなくてねぇ……」
うっ……内臓とか、食事の時にグロい話はやめてほしい。
ん? 内臓を探しに貧民街スラムへ? それって……
「ニール先生、もしかして貧民街スラムの住人に内臓の処理の仕方を教えたりなさいました?」
「え? ……ああ、教えたことがあるねぇ。彼らが生臭い内臓をそのまま焼いて食べていたから、少しでもマシな味になるようにと思ってね」
……まさか、ソーセージ作りの時に噂で聞いた人物がニール先生だったとは!
「いや~、僕も以前魔獣と同じものを食べてみようと思って挑戦して見たんだけど、そのままじゃ臭くて食べられたもんじゃなかったからねぇ。研究がてら色々と試してみたんだよね。その成果を教えただけさ。でもなぜそんなことを知ってるんだい?」
……聖獣&魔獣愛が極まって、同じものを食べようとするなんて、ニール先生って本当に……魔獣バ……いや、オタ……いや、うん、なんだ。研究熱心ですね!
「そうだったのですか……我が家の料理人からそんな噂を聞いたものですからひょっとして、と思いまして」
「ええ? どんな噂なのか気になるところだけど……まあいいか。あれねぇ、失敗だったよ」
ニール先生が肩を竦めて言った。え? 失敗って……何が?
……まさか、貧民街スラムの住人を使って実験していたとか⁉︎ ニール先生が人体実験だなんて非人道的なことを⁉︎
「あれで内臓が普通に食べられるようになったもんだから、住人が譲ってくれなくなったんだよねぇ……はあ。失敗したよ、本当に……」
ニール先生はガックリと肩を落として俯いた。……なんだ、びっくりさせないでよね!
私たちが呆れて見ていると、ニール先生は気を取り直したように顔を上げた。
「ま、今更くよくよしても仕方ないけどね! 彼らがまともな食事ができるようになったんだし、よしとしてるよ。ええと、冷めないうちに食べてもいいかな?」
ニール先生はニカっと笑って目の前の料理を指して言った。
「は、はい。いただきましょう」
「はい、いただきます。……おや? 皆の分のカトラリーがないね。忘れたのかな?」
ニール先生が私たちの配膳を見て言った。いつもならナイフやフォークが並んでいるのに、影も形も見当たらないからだ。
「ああ、いいえ。これが私たちのカトラリーです。お箸といってこれを使って食べるのですわ」
私はマイ箸を手に取り、動かして見せた。
「先生は使い慣れたもののほうが食べやすいでしょうから、いつものカトラリーをご用意しました」
「へえ~、それだけで食べるのかい? 面白いね」
うう、あんまりまじまじと見つめられると食べにくいじゃないの。
「うっま! やっぱ米のメシと味噌汁は美味いな!」
「はあ……お味噌汁が染み入りますわぁ……」
白虎様たちは私が躊躇している間に食べ始めたらしく、ガツガツと貪るように食べていた。
ニール先生の視線がそちらに移り、箸の動きを観察していた。ほっ。
「ふーん……摘んだり、切ったりとなかなか合理的なカトラリーなんだねぇ。僕も使ってみても?」
「え、あ……はい」
予備のお箸を取ってこようと立ち上がりかけたものの、ミリアがそれを視線で止め、サッと取りに行ってくれた。
「こちらをどうぞ」
「えーと、こうかな? ん? あれ? 難しいな……」
ミリアから箸を受け取ったニール先生は、見様見真似で箸を使おうとするも、上手く動かせないようで苦戦していた。
「先生、これはこう持つのです」
セイがスッと先生の手を取り、持ち方を矯正して見せた。
「こうしてこれを、こう……」
「ああ、なるほど! こうだね?」
「はい、お上手です」
すぐにコツを掴んだようで、得意げに箸先をカチカチと動かすニール先生を見て、セイが微笑んだ。
「よおし、こうして……あれれ、上手くつかめない……」
ごはんをつまみ上げようとするものの、ポロポロとこぼれてしまった。
「少し練習が必要でしょうね。食べにくければ、いつものカトラリーを使ってくださいね」
セイはニール先生が悪戦苦闘しているのをスルーして席に着き、すました顔で食べ始めた。
おお、私もこれで落ち着いて食べられるかも?
私はさっそく味噌汁の入ったお椀を手に取り、コクリと口にした。
うん、しっかりお出汁が感じられて美味しいし、ごはんもツヤツヤで粘り気があって上手に炊けている。ばっちりだ。
今度はたまご焼きの作り方を教えてほしいと言われているから、頑張らなくちゃ。
ニール先生がお箸と格闘している間に、私たちはしっかり和食を堪能したのだった。

食事を終えた私たちが部屋に戻ろうとすると、ようやくお箸に慣れた様子のニール先生が引き留めた。
「明日はいよいよ入学式だけど、僕は式の準備で朝早くに特別寮ここを出ないといけないんだ。馬車で迎えが来るから、君たちはそれまで談話室で待ってるようにね」
「はい、わかりました」
馬車でお迎え、ねぇ……あんまり、目立ちたくないんだけどな。
できれば、他の生徒に紛れてしまいたかった……お披露目されてしまうからそんなの意味ないのはわかってるけれど。
いよいよ、明日は入学式かぁ。
どうか、どうか無事に入学式を終えて平和な学園生活が送れますように。
私は平穏無事な生活を祈りつつ、自室に戻るのだった。
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