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輝夜の譲歩
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私たちは追い縋るニール先生をなんとか振り切り自室に戻った……
『はあぁ……ひどい目にあったよ』
部屋に入るなり私の手からするりと抜け出し床に降りた輝夜は、ややふらついた足取りでソファーへ移動し、丸くなった。
「ねえ、輝夜。朱雀様と何をして過ごしたの?」
『聞かなくたってわかるだろ? 強制的に人化させられて、延々と着せ替え人形さ』
……ですよねー。そうだろうと思った。
私はソファーに腰かけると、ぐったりしている輝夜を抱き上げ、膝の上に乗せた。
そして軽く手のひらから魔力を流すように背中を撫でてやると、輝夜は気持ちよさそうに目を細めた。
『あー……そこそこ。そこんとこもっと……』
「ん? ここ?」
『そうだよ。頑張って耐え抜いたアタシをしっかり労りな』
「ふふ、お疲れ様」
輝夜に促されるまま撫でていると、聖獣の姿に戻った真白が隣に座り、もたれかかってきた。
『くりすてあ、おれもなでて?』
「はいはい」
右手で輝夜を撫でつつ、左手で真白を撫でる。
我ながら器用だなと思いつつ撫でていると、黒銀がじっとこちらを見つめていた。
……ええと、すでに両手は塞がってるからね?
以前のように輝夜を掴んで投げたりはしないと思うけど……
黒銀がどうするのか気になって様子をみていると、黒銀も聖獣の姿に変化して私の足元で寝そべった。
おおう……これは身動きできなくなるやつ。
でも、最近は色々と忙しくてモフモフをじっくり堪能できなかったし、ま、いいか。
私は思う存分彼らを撫で回してモフ成分を補給したのだった。
私の魔力を受けてようやく回復したのか、輝夜は軽く伸びをしてから起き上がり、私の膝からぴょんと飛び降りた。
「あっ」
思わず手を伸ばしたけれど、真白がすかさず乗ってきたのでそれ以上動けなくなってしまった。
『はー、やれやれ。アタシは疲れたからもう寝るよ』
輝夜はそう言うと、自分専用のかごが置いてある寝室へ向かった。
うう、いつものことながらドライなんだから。
「ねえ輝夜、明日からは食堂で食べるのよね?」
私の問いに輝夜はピタリと足を止めて、不機嫌そうな顔で振り向いた。
『……あのトリ女にも言われたから夕食は食堂で食べるけど、朝と昼は遠慮するよ。朝っぱらからあいつらに捕まったらアンタらが帰ってくるまで玩具にされちまうじゃないか。そんなのゴメンだね』
トリ女って……朱雀様のこと⁉︎
朱雀様はいったい何を仰ったのかしら?
それを確認する間もなく、輝夜はサッサと寝室に引っ込んでしまった。
黒銀はのそりと起き上がるとソファーにもたれかかるようにして頭を私の膝頭に乗せたので、魔力を流しつつ頭を撫でてやると、気持ちよさそうにぐいぐい押し付けてきた。
やっぱりさっきは我慢してたのね。
私は我慢したご褒美とばかりに魔力を気持ち多めに流してあげることにした。
『フン、あの女のことだ。大方このまま自分たちを恐れて逃げ回るようなら主から数日預かって嫌でも慣れてもらおうか、などと脅しつけたのだろうよ』
「なるほど。それで輝夜は最大限譲歩して、夕食だけ顔を出すことにしたってわけね」
輝夜の言う通り、朝から夕方まで着せ替えごっこに付き合わされるのは朱雀様たちを恐れている彼女には辛い時間になるだろう。
……朱雀様や白虎様に普段はちょっかい出さないようにお願いしておくとするか。
あのお二人の場合、輝夜が一方的に恐れて逃げだすから、余計にちょっかいかけているだけのような気がするし……
『ねえくりすてあ、きょうはもんだいなかった?』
「ん?そうねぇ。今日はずっと座学だったし、特にはなかった……かな」
金髪縦巻きロールさんことアリシアさんが睨んできたくらいで、他には何もなかったからね。
『なにかあったら、すぐにおれをよんでね? かけつけるから』
『うむ、主の憂いを取り除くのは我らの使命。何かあれば必ず言うのだぞ』
「わかったわ。でもね、よっぽどのことがない限り自分で解決しなくちゃいけないの。学園ではそれも学ぶことのひとつなんだから」
ただお勉強を学ぶだけなら家庭教師でこと足りる。
魔法を使える魔力の持ち主がアデリア学園に入学する理由は、社会に出て間違った道に進まぬよう、貴族も平民も自分の力を正しく理解し使えるように導くと同時に学園で円滑な人間関係を築けるようにするためなのだと私は考えている。
だから私も、学園生活初日からハプニングはあったものの、頑張らないとね。
誰とでも仲良くしなくちゃ! なんて思ってないけど、敵を作りたいわけじゃないもの。
アリシア様にはやたらと敵対心を向けられているけれど、私はレイモンド殿下と婚約する気はさらさらないんだから、そのことをわかってもらえたら、きっと態度は軟化するはず。
すぐに誤解を解くのは難しいだろうけど、これからの行動や態度でしめすしかないよね、うん。
「クリステア様、湯浴みの支度が整いましたのでどうぞ」
「はーい、今行くわ」
私が決意を新たにしたところで、ミリアが呼びに来たので、明日のための英気を養うべくお風呂に向かったのだった。
---------------------------
外出自粛で気持ちが滅入る日々が続きますが、自分なりの楽しみを見つけて鬱々とした毎日を乗り切りましょうね!٩( 'ω' )و
『はあぁ……ひどい目にあったよ』
部屋に入るなり私の手からするりと抜け出し床に降りた輝夜は、ややふらついた足取りでソファーへ移動し、丸くなった。
「ねえ、輝夜。朱雀様と何をして過ごしたの?」
『聞かなくたってわかるだろ? 強制的に人化させられて、延々と着せ替え人形さ』
……ですよねー。そうだろうと思った。
私はソファーに腰かけると、ぐったりしている輝夜を抱き上げ、膝の上に乗せた。
そして軽く手のひらから魔力を流すように背中を撫でてやると、輝夜は気持ちよさそうに目を細めた。
『あー……そこそこ。そこんとこもっと……』
「ん? ここ?」
『そうだよ。頑張って耐え抜いたアタシをしっかり労りな』
「ふふ、お疲れ様」
輝夜に促されるまま撫でていると、聖獣の姿に戻った真白が隣に座り、もたれかかってきた。
『くりすてあ、おれもなでて?』
「はいはい」
右手で輝夜を撫でつつ、左手で真白を撫でる。
我ながら器用だなと思いつつ撫でていると、黒銀がじっとこちらを見つめていた。
……ええと、すでに両手は塞がってるからね?
以前のように輝夜を掴んで投げたりはしないと思うけど……
黒銀がどうするのか気になって様子をみていると、黒銀も聖獣の姿に変化して私の足元で寝そべった。
おおう……これは身動きできなくなるやつ。
でも、最近は色々と忙しくてモフモフをじっくり堪能できなかったし、ま、いいか。
私は思う存分彼らを撫で回してモフ成分を補給したのだった。
私の魔力を受けてようやく回復したのか、輝夜は軽く伸びをしてから起き上がり、私の膝からぴょんと飛び降りた。
「あっ」
思わず手を伸ばしたけれど、真白がすかさず乗ってきたのでそれ以上動けなくなってしまった。
『はー、やれやれ。アタシは疲れたからもう寝るよ』
輝夜はそう言うと、自分専用のかごが置いてある寝室へ向かった。
うう、いつものことながらドライなんだから。
「ねえ輝夜、明日からは食堂で食べるのよね?」
私の問いに輝夜はピタリと足を止めて、不機嫌そうな顔で振り向いた。
『……あのトリ女にも言われたから夕食は食堂で食べるけど、朝と昼は遠慮するよ。朝っぱらからあいつらに捕まったらアンタらが帰ってくるまで玩具にされちまうじゃないか。そんなのゴメンだね』
トリ女って……朱雀様のこと⁉︎
朱雀様はいったい何を仰ったのかしら?
それを確認する間もなく、輝夜はサッサと寝室に引っ込んでしまった。
黒銀はのそりと起き上がるとソファーにもたれかかるようにして頭を私の膝頭に乗せたので、魔力を流しつつ頭を撫でてやると、気持ちよさそうにぐいぐい押し付けてきた。
やっぱりさっきは我慢してたのね。
私は我慢したご褒美とばかりに魔力を気持ち多めに流してあげることにした。
『フン、あの女のことだ。大方このまま自分たちを恐れて逃げ回るようなら主から数日預かって嫌でも慣れてもらおうか、などと脅しつけたのだろうよ』
「なるほど。それで輝夜は最大限譲歩して、夕食だけ顔を出すことにしたってわけね」
輝夜の言う通り、朝から夕方まで着せ替えごっこに付き合わされるのは朱雀様たちを恐れている彼女には辛い時間になるだろう。
……朱雀様や白虎様に普段はちょっかい出さないようにお願いしておくとするか。
あのお二人の場合、輝夜が一方的に恐れて逃げだすから、余計にちょっかいかけているだけのような気がするし……
『ねえくりすてあ、きょうはもんだいなかった?』
「ん?そうねぇ。今日はずっと座学だったし、特にはなかった……かな」
金髪縦巻きロールさんことアリシアさんが睨んできたくらいで、他には何もなかったからね。
『なにかあったら、すぐにおれをよんでね? かけつけるから』
『うむ、主の憂いを取り除くのは我らの使命。何かあれば必ず言うのだぞ』
「わかったわ。でもね、よっぽどのことがない限り自分で解決しなくちゃいけないの。学園ではそれも学ぶことのひとつなんだから」
ただお勉強を学ぶだけなら家庭教師でこと足りる。
魔法を使える魔力の持ち主がアデリア学園に入学する理由は、社会に出て間違った道に進まぬよう、貴族も平民も自分の力を正しく理解し使えるように導くと同時に学園で円滑な人間関係を築けるようにするためなのだと私は考えている。
だから私も、学園生活初日からハプニングはあったものの、頑張らないとね。
誰とでも仲良くしなくちゃ! なんて思ってないけど、敵を作りたいわけじゃないもの。
アリシア様にはやたらと敵対心を向けられているけれど、私はレイモンド殿下と婚約する気はさらさらないんだから、そのことをわかってもらえたら、きっと態度は軟化するはず。
すぐに誤解を解くのは難しいだろうけど、これからの行動や態度でしめすしかないよね、うん。
「クリステア様、湯浴みの支度が整いましたのでどうぞ」
「はーい、今行くわ」
私が決意を新たにしたところで、ミリアが呼びに来たので、明日のための英気を養うべくお風呂に向かったのだった。
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