転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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連載

オーク肉で何作ろう?

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朝食後、黒銀くろがね真白ましろは敷地内の散策に出かけたので、私は自室で一人のんびりとお茶を楽しみつつお昼のメニューを考えてみる。
うーん、オーク肉はすでにカット済みだったから、それを活かしたメニュー……そうねぇ、照り焼きにでもしてみるかな。
照り焼きといえば鶏肉を選んでしまいがちだけど、豚肉でも美味しい。もちろん、魚もね。
うん、朝食をあっさりめにしたからお昼はもう少しこってりしたものが食べたいし、照り焼きにしちゃおう。
それに、照り焼きは照り焼きでも、少し変化をつければ完全新作じゃなくても料理長は喜ぶだろうし。
よし、そうと決まれば善は急げってね。
私はミリアに調理場へ向かうと告げて部屋を出たのだった。

調理場に入ると、料理長が待ち構えていた。
え、いつからいたんだろう……まさか、ずっと待ってたの⁉︎
「クリステア様、お待ちしておりました! オーク肉はこちらです!」
料理長は冷蔵室に走ると、バットに盛られたカット済みのオーク肉を取り出し調理台にドーン! と置いた。
「あ、ありがとう……」
「こちら予定通りしょうが焼きになさいますか? それとも……」
新作がいいなぁ……って目で見つめないでくれませんかね、料理長⁉︎
やっぱりそうくるだろうと思ってましたよ!
「……今回は照り焼きにしようと思います」
「照り焼き……豚肉で、ですか?」
あー、鶏肉の照り焼きしか教えてなかったから、照り焼きは鶏肉ってイメージが固定されちゃってるのね。
「鶏肉ばかりが照り焼きじゃないわよ。甘辛な照り焼きのたれは色々と応用が利くの。オーク肉以外にもハンバーグや魚にだって合うんだから」
ああそうだ。照り焼きハンバーガーもいいわねぇ。ポテトも揚げて、セットで食べたい!
今度寮で作ろうかな。
「おお……魚にも合うのですか! 確かに、あのタレならば大抵のものに合うかもしれませんね……」
料理長がメモを取り始めたのを放置してさっそく調理開始することにする。
インベントリから毎度お馴染み割烹着を取り出し装着。手洗いと念のため全身にクリア魔法をかけてっと。
「さて、作りますか」
そのタイミングで調理場を通りがかったシンを捕獲して、アシスタントに任命した。
「まだ休憩中なのに……」とブツブツぼやいていたけれど、ふはは……このメンツだからね。諦めたまえ。
とはいえ、調理は簡単。
「んー……そうね、せっかくだから照りマヨ丼にしましょう」
「「てりまよどん?」」
「照り焼きのタレにマヨネーズを入れるのよ。こってりした味で美味しいわよ」
「「こってり……」」
二人がごくりと喉をならしたのでくすりと笑い、まずはタレ作りからスタート。
ヤハトゥール酒、みりん、醤油、インベントリに保管していたつくりおきのマヨネーズを取り出す。
大体マヨネーズ2.それ以外を1の割合で混ぜ合わせておけばタレの完成。
シンにキャベツの千切りをお願いしてから、私はお肉にとりかかる。
オーク肉はスプーンでも食べやすいようにさらに小さくカット。そして軽く塩コショウをしてから片栗粉をまぶし、油を入れて熱したフライパンにオーク肉を入れて中火で炒める。
オーク肉の色が変わって、ちゃんと火が通ったら、タレを絡めながら炒めて、軽く水分を飛ばしたらできあがり。
うはあ……いい匂い。
「ご飯をよそって、その上にキャベツ、そしてオーク肉の照り焼きをのせて……と」
煮詰まったタレを追加でかけて、照りマヨ豚……じゃない、オーク丼の完成!
ごくり……と大きく喉を鳴らす二人に試食用の小さな器を渡し、自分も少しだけいただくことにする。
そうそう、黒銀くろがねたちの分を確保しとかなきゃ。
三人前の照りマヨオーク丼をインベントリに収納して……と。
「いただきます!」
「「い……いただきます!!!」」
お肉とキャベツとご飯をバランスよくお箸で掴み、口に運ぶ。
こってりした味のオーク肉がシャキシャキのキャベツと混ぜ合わさって、ご飯がそれを受け止めて……ふわぁ、美味しい。
シャキシャキ食感のキャベツが苦手な場合は蒸して柔らかくしても美味しいのよね。
他の野菜を組み合わせてもいいし。
野菜たっぷりのほうが甘辛こってりなタレと合う気がするわ。
「これは……濃いめの味付けながらも、キャベツとご飯が上手いこと中和して……いや、引き立てているのか……キャベツが単調になりがちな食感のアクセントになり、こってりに偏りがちな口の中をさっぱりとさせて……」
おおう、料理長の食レポが炸裂している。
「ええと、作り方は今のでわかったわよね? あとはお願いしてもいいかしら?」
料理長が陶酔しているのをやや引きながらも尋ねると、ハッと我に返ったようで、口元をササっと拭い姿勢を正した。
「ハッ、もちろんです! ご指導いただきありがとうございました!」
シンの頭を押さえながら礼をする料理長に「いや、私は別に指導なんてしてないから!」と言って、照り焼きの美味しそうな匂いに後ろ髪引かれつつも、そそくさと調理場を出たのだった。
はあ……特別寮の方が気兼ねなく作れて楽かもしれない……
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