転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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散策しよう!

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照りマヨオーク丼は家族皆に好評だった。
お父様は2回おかわりしたからね。
「やはり、娘の手料理はいい……」なんてボソッと言っていたけれど、お父様が食べたのは多分料理長作ですからね? 残念!
お父様ったら、食に関してはチョロすぎて時々心配になるんですけど⁇

昼食後は庭を散策することにした。
インベントリ内の備蓄も減ってきたから補充しときたいけど、入学からこっちずーっと忙しかったもんね。
少しはのんびりする時間があってもいいと思うのよ。
我が家の庭は庭師の手入れも行き届き、色とりどりの花で埋め尽くされている。
領地の庭も素敵だったけれど、王都ここの庭はもっとすごい。
自宅に噴水があるとか、普通なら考えられないよねぇ。
この噴水には水の魔石が組み込まれていて、水を浄化しつつ循環させているんだって。
魔導具らしいんだけど、これひとつで平民が遊んで暮らせるくらいのお値段なのだと庭師が言っていたと真白ましろが教えてくれた。
黒銀くろがね真白ましろは時折人の姿で王都や領地の敷地内をパトロールしている。
その時に使用人ともよく話しているようだとミリアに以前教えてもらった。
黒銀くろがねはイケメンだから、メイドさんたちにモテモテみたい。
真白ましろはその見た目からメイドさんだけでなく年配の方にも人気があるそうよ。孫みたいに可愛がられてるってことかな?
その反面、護衛の皆からは恐れられているらしい。
二人とも人の姿でも強いからね。
真白ましろは剣技が苦手だけど、組手なら自分より大きな大人でもポンポン投げ飛ばしちゃうのよ。
真白ましろの元の姿はホーリーベアだから、人の姿になっていても相当な力持ちなんだろうね。
黒銀くろがねは人の姿でも闘うことに慣れていて、剣や魔法を駆使して護衛を蹴散らしているそうだ。
器用でそつのない黒銀くろがねのことだから、さもありなんって感じよね。
そんな二人を引き連れて散歩してるもんだから、周囲の視線がすごい。
雇い主(お父様)の娘である私をジロジロ見るのは失礼だとわかっているから、皆こっそり、チラチラと見ているのだけと、バレバレよ?
いけないとは思いつつ、こちらを見ながらヒソヒソ話をしているのが気になって、こっそり強化魔法で聴覚を強化してみた。
「はあ……今日のまかない、美味しかったよねぇ」
「ええ、本当に! クリステア様がいらっしゃると料理長が張り切って作るからか、まかないがいつもよりさらに美味しくなるのよね。この週末はクリステア様が戻られて嬉しいわぁ」
……え? 私?
メイドさんたちがとろけそうな顔をしているのは、黒銀くろがねたちのせいじゃなくて、ごはんのせい⁉︎
「お! クリステア様に黒銀くろがね様たちだ」
「本当だ。いやぁ今日の昼メシ、美味すぎておかわりしちゃったぜ」
「俺も! クリステア様は俺たちにも同じものをって美味いものを食べさせてくれるからありがたいよなぁ」
「そうそう! 今やエリスフィード公爵家で働くってだけですげー羨ましがられるんだぜ! 俺もう他のところで働ける気がしねぇよ……」
「わかる。それに加えて黒銀くろがね様たちは実は聖獣様で、クリステア様の契約聖獣だって貴族の間じゃすごい噂になってるってよ」
「聖獣様と複数契約できるだなんて、クリステア様はすげえなぁ……」
「美味いメシを考案できて、魔力量もすごくて、聖獣契約とか、うちのお嬢様は女神かなんかかな?」
「「「それな!」」」
えええ⁇ 護衛の皆さんまで何言っちゃってんのぉ⁉︎
「ふ……奴らめ、当然なことを今更ぬかしおって」
「だよねー」
黒銀くろがね真白ましろ?私が聞き耳してないと思って、二人して得意げにヒソヒソ話してないで⁉︎
皆の視線が実は自分に向けられていたことに気づき、いたたまれなくなった私はそそくさと庭園を後にした。

調理場の裏手に回ったところで、シンに出会った。
「あらシン。今から休憩?」
「んあ? お嬢、なんでこんなとこに……っと、はい、そうデス。お嬢サマ」
「別に今更言葉遣いなんて改めなくても気にしないわよ。使用人部屋に戻るの?」
「しゃーねぇんだよ、料理長がうるさいから。あー、この先にいい昼寝スポットがあっ……いや、なんでもないデス」
ヤベッ! って顔をしたけどもう遅いもんね。
「ついていってもいい?」
「だめ」
「えー! いいじゃない」
「労働者の貴重な休憩時間ですので」
「う、それを言われちゃうと……」
毎日何十人分の食事を作る料理人の仕事は結構ハードなんだよね。
夏の暑い日に火を使い、冬の寒い日に水を使い……下ごしらえの量も調理するのも大変なのは自分でも料理するから理解してる。
次の仕事に取り掛かる前の休息は大事だ。
それを雇用主の娘わたしのわがままに付き合わせるのは理不尽というものだ。
「んじゃ、そーゆーわけで。あ、そうだ。この先にできた菜園ってお嬢のしわざだろ?」
「え、菜園⁉︎」
「お嬢に頼まれたとかで庭師があれこれやってたぜ」
「……! 行ってみる! シン、ありがとう!」
私の言葉にシンはひらひらを手を振り雑木林の方へ歩いて行った。
そうそう、そうだった。
お父様に入学祝いに欲しいものはないかと聞かれて、ささやかな広さで構わないので領地と同じような菜園が欲しいですって頼んだのよね。
王都だけあっていろんな野菜が手に入るけれど、鮮度がイマイチだったからなぁ。
こっちにも領地と同じような野菜畑が作れたらいいなと思ってダメ元でおねだりしてみたのだ。
お母様は渋い顔をしていたけれど「新鮮な野菜をたくさん食べると美容にいいですよ」のひとことでOKが出たのだ。やはりお母様には美容ネタが一番ね!
私はシンを見送ってから、菜園のある方へ向かうと、ささやかどころではない広さの野菜畑が姿を表した。
「……えっ?」
ひ、広っ! これに比べたら領地のなんて家庭菜園だわよ?
え、あの立派な庭園を管理する庭師の皆さんにここまでさせてしまったのか……ありがたいやら申し訳ないやら。
今はまだ苗や種を植え付けたばかりのようね。
でもこれが育ったら……夏場なんてわっさわさと使いきれずに売るほど実りそうなんだけど、大丈夫かしら?
「余ったら通いの使用人にでも分けてもらえばいいか……あ」
畑を眺めていると、向こうから苗を運んできた庭師の姿が見えたので、私は畑仕事を手伝おうと駆け寄ったのだった。
結局「お嬢様に畑仕事をさせるなんて、とんでもありません!」って、断られちゃったけどね。しょぼん。
仕方ない、調理場に行って備蓄を作るとしようかな……
私は黒銀くろがね真白ましろを連れて、とぼとぼと調理場に向かうのだった。

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10月14日(木)はコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」の更新日です!
よろしくお願いしますー!
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