転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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美しき友情……⁉︎

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エイディー様の誤解が解けないまま、話題は選択コースの話になった。
「エイディー様は騎士コースの他に何を選択されるのですか?」
私の質問に、エイディー様が、指折り数えてつつ答える。
「えーっと、まず貴族コースだろ、それから魔物学の上級コース、あとできたら魔導具コースも受けようと考えてる」
「あら、魔物学はともかく魔導具コースもですか?」
「ああ、今日の見学で決めた」
え、あの見学で⁉︎
「試作品の中に、武器らしきものがあったんだ! それで考えたんだ、もし俺が自分に合う武器が作れたら……それって、最強だと思うだろ?」
そう言って、エイディー様はニカッと笑った。
……いえ、全く思いませんが。
むしろ武器ならドワーフのガルバノおじ様に師事したほうがよっぽどいいと思うわ。
言わないけど。
「あの……特別クラスの生徒は授業免除が多いとはいえ、一年生のうちからそんなに詰め込んだら大変なのではありませんか?」
「大丈夫、体力には自信があるから!」
いやいやいや。体力だけでごり押しできるわけないから。
コースによっては課題の量が多くて大変なコースだってあるんだから。
例えば貴族コース。
私は免除されているものの、マリエルちゃんに付き合って選択するけれど、私が貴族コースのために家庭教師をお願いしていたマナー学のレティア先生のスパルタ教育っぷりはものすごかったんだから。
レティア先生の「ひたすらシリーズ」は最早トラウマレベルよ。
合格点が取れるまでひたすらカーテシー、ひたすら飾り文字の書き取り、ひたすら、ひたすら……あああ。思い出すのも嫌だ。
今あれをやりなさいって言われたら絶対やりたくないもの。
前世で受験を体験していたからこそどうにか乗り越えられたけれど、あんな風に課題だらけだったらどうしよう。
レティア先生は厳しくて有名だったそうだから、あそこまでひどくはないだろうけれど……
淑女コースと違って、紳士コースはまた学ぶことが違うだろうけれど、それなりに課題は出されるだろう。
騎士コースにしたって、戦略や騎士のマナーなどの座学もあるだろうし、実技では体力を使うから寮に戻ってたくさんの課題をこなす気力が残っているかどうか……
特別クラスの生徒がいくら優秀でも、所詮は十歳児なんだから、無理は禁物だと思うわ。
セイも私と同意見だったのか、どんな武器が作りたいかを語るエイディー様にまったをかけた。
「エイディー、初めのうちからあれやこれやと手を出したところで中途半端になってしまっては意味がないと思う。まず自分が何になりたいのか、それが一番大事だと思う」
「そりゃそうだよ、俺は騎士になりたいんだから」
「じゃあ聞くが、騎士は自分で武器を作るのか?」
「いや、武器は鍛冶師や魔導具師に……」
「エイディーが何でも自分でできるようになりたいと思うのは素晴らしいことだと思う。だけど、どれも中途半端になるより、一つの道を極めた者のほうが強いと思う」
あー、わかる。
器用貧乏の人って、他のことは不器用でもこれだけは負けないってくらい極めた人には敵わなかったりするもんね……
マリエルちゃんも思うところがあったのか、うんうん、と頷く動作が私とシンクロしていた。
「道を……極める……」
「ああ。騎士になるためには途中険しい道もあるだろうし、強くなるための道に終わりはないんだ。その道をひたすら前に進める者だけが心も技も強くなるのだと思う」
おお……セイってばすごい。
武道ってそういう感じだもんね。
いや、武道じゃなくてどんな分野でもそうだろう。極めるってそういうことだよね。
「セイ……お前って、やっぱりすげえよ!」
うおっ⁉︎ エイディー様がまたもやキラキラお目目でセイの手を握っている……!
こらこら、マリエルさん? 「ふおっ⁉︎」とか言って口元を押さえながら二人をガン見するのやめよう?
「そ、そんなことは……」
「いや、あるよ! セイ、一緒に騎士を目指して頑張ろうな!」
エイディー様がセイの手を両手で握りしめながら見つめているのをマリエルちゃんが「スクショ……スクショしたい……!」と目を潤ませて震えながら見ているので収拾がつかなくなりはじめている。
白虎様、ニヤニヤ笑いながら見物してないで、どうにかしてくださいよ⁉︎
朱雀様も「あらあら、うふふ」みたいな顔で微笑ましそうに眺めてないで!
「いや、俺は騎士にはならない」
「はあ⁉︎ 何でだよ? 俺と一緒に騎士を目指そうぜ!」
ふるふると冷静に頭を振るセイに、断られるとは思っていなかったエイディー様が信じられないという顔でセイを見る。
「留学生の俺がこの国の騎士には慣れるわけないだろう? それに、いつかは帰国しなくちゃならない」
……そうなんだよね。セイはいずれヤハトゥールの帝にならなきゃならないんだもの。
今ヤハトゥールにいたら命の危険があるから逃れてきただけで……
「……そっか、国に……じゃあ、何で騎士コースなんて選ぶんだよ。騎士にならないなら選ばなきゃいいじゃないか!」
「俺は、この国とは異なる剣術を身につけている。これからもそれを極めていくつもりだが、同じ剣術の者同士の戦い方しか知らないんだ。だから剣術の違いを知り、それをこれからの鍛錬に生かそうと思ってる」
セイの言葉にエイディー様がムッとして立ち上がり、反論した。
「それって、さっき言ってた器用貧乏と何が違うんだよ?」
「騎士になるために他のことにあれこれ手を出して本末転倒になるのと、相手の戦い方を知り、それに負けないよう己の剣を磨こうとするのは同じことだと思うか?」
「……違う」
エイディー様はハッとした顔を見せたかと思うと、しゅんとしてボスっとソファに腰を落とした。
「魔導具コースはやめておく。でも、魔物学は頑張る。俺も契約獣のことは諦めてないから」
「それはエイディーの夢なんだし、いいと思う。頑張れ」
「ああ……うん。頑張るぜ!」
キリッとした表情で応援するセイに、照れながら応えるエイディー様。
……男同士の友情って、いいわねぇ。
少年漫画とかでよくあるシーンみたいで感動するわね。
……って、マリエルちゃん⁉︎
マリエルちゃんを見ると、両手で口元を押さえてブルブルと震えていた。
あのね、マリエルちゃん。口元押さえてるけど「やばい、神回……尊い、滾るぅ……」ってぶつぶつ言ってるの漏れてるからね……?
そろそろマリエルちゃんに氷魔法が必要かと考えていたら、グーっと腹の虫が鳴るのが聞こえた。
え? 私じゃないけど……誰?
「……悪い。腹が減っちゃって」
へへ、と照れながら頭をかいたのはエイディー様だった。
食べ盛りの男子だもんねぇ……お腹空くよね。
よぉし、いっちょおやつでも作りますか!
「あの、少しお待ちいただけますか? 何か食べるものを用意してきますわ」
「え、いいのか?」
「はい。マリエルさん、手伝ってくださる?」
「えっ‼︎ 私ですか⁇」
「ええ。さ、行きましょう?」
マリエルちゃんの料理の腕が壊滅的なのはわかってるけれど、このまま放置しておくのもね……てことで連行します。
「は、はひ……」
マリエルちゃん、悲壮な顔でついてこないの。

そのまま私とマリエルちゃん、そして黒銀くろがね真白ましろは厨房に移動した。
「あのね、マリエルさん。もう少し感情を抑えないとダメよ?」
全員にクリア魔法をかけつつ、マリエルちゃんに注意した。
「えへへ、面目ない。つい、衝動が押さえきれなくて……」
「マリエルちゃんの考えてることがしれたら、不敬罪で処罰されることもあり得るんだから、気をつけてよね」
「はい! 気をつけます!」
マリエルちゃんは不敬罪という言葉にビクッと反応して敬礼した。
「さあ、それじゃ一緒におやつを作りましょう」
「え、本当に私もやるんですか⁉︎」
「当たり前よ。さて、何にしようかな……」
マリエルちゃんでもお手伝いできるもの、かぁ……

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