転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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連載

浮気はダメ、絶対。

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試食の後は各自お弁当を食べてから採取を再開した。
「お、あった!」
「エイディー様、正解です」
エイディー様が摘み取った薬草を見せたので確認して頷くとその手をそのまま振り上げた。
「やったぜ! やっと見分けがつくようになってきた!」
「その調子で頑張ってくださいね」
そろそろエイディー様一人でも大丈夫だろうと、私も追加の薬草を採取しておこうと周囲を見渡してみた。
ルビィの言ったとおり、この周囲に薬草がたくさん生えているようなので、皆の邪魔にならない程度に採取していく。
あ、レモングラス発見。これも薬草なのよね。
胃の薬とか、解熱剤とかになるんだっけ?
前世のハーブも、もっと勉強しておけばよかったなぁ。
料理に使う基本的なものくらいしか知識がないもんね。
まあ、それがわかるだけでも助かってはいるのだけど……

「あらぁ、いいもの見っけ♪」
ルビィがウキウキしながら近くの木の根元に跳ねていくと、そこには見覚えのあるきのこが。
「ルビィ……なんですか、そのきのこ。色がなんというか……毒々しくないですか?」
胡散臭そうに見つめているマリエルちゃんをルビィがちょいちょいと招き寄せて、耳元にボソボソと何かを告げると、マリエルちゃんは顔を赤らめながらもギン! と反応した。
あ……あれは媚薬きのこだって教わったみたいね。
ルビィとマリエルちゃんはうん、と頷きあうとせっせときのこを採取し始めた。
こらこらこら。
「マリエルさん、ルビィ。それは採取の対象じゃありませんよ?」
二人に声をかけるとマリエルちゃんがビクッとしたけれど、ルビィはしれっと採取を継続していた。
「ああああのこれはですね、何かと使えるきのこで……」
あたふたといいわけをするマリエルちゃんはどう見ても不審そのものだよね?
「マリエルさんには必要ないでしょう?」
「……はい」
妄想が捗るだけよね? 使い道はないよね?
「んもー、かたいこと言いっこなしよぉ? これが何かアナタだってわかってるみたいだしぃ?」
「うっ」
「アナタだってこれでピンチを切り抜けたみたいじゃないの。ちょっとくらいはいいじゃない。まあマリエルはこのくらいにしときなさい。ワタシはもうちょっと取っていくから」
あくまでもマイペースなルビィは私たちに薬草採取に戻るように言うと、そのまま採取を継続していた。
私はまだ物足りなさそうなマリエルちゃんを促して薬草採取を再開する。
「ルビィったら、あれをどうするつもりなのかしら?」
ルビィに媚薬きのこを使う場面が思いつかないのだけど。
「さ、さあ……? て、いうかクリステアさん、こ、このび、びびや……ええと、きのこでピンチを切り抜けたって、どういうことです?」
「ああ、それは……」
他の人たちに聞こえないよう、私たちの周囲に遮音魔法をかけてから、輝夜を捕まえた時のことをかいつまんで説明した。
「え……っ? じゃ、じゃああの黒猫の輝夜かぐやって、はじめはクリステアさんを食べようと狙ってきたんですか⁉︎」
「ええまあ……それで、たまたま採取中だった例のきのこを食べさせて、ね……」
「クリステアさん……無謀すぎだって言われたことありません?」
失礼ね。無謀だなんて。
……言われてないけど、お父様やお兄様には厳重注意はされたかな。
「ま、まあいいじゃない。今や輝夜かぐやは我が家でただの黒猫として平穏に暮らしているわけだし。結果オーライってことで」
「このきのこ……父に高く売ってもらおうかと思ってましたけど……クリステアさん、護身用に差し上げましょうか?」
「いりません」
媚薬きのこを護身用に持ち歩く公爵令嬢って意味がわからないわよ⁉︎
私は丁重にお断りして、マリエルちゃんにも処分するか早めに商会に回すように忠告するのだった。

『主、近くに魔物がいるようだ。いたずらする程の小物だが、片付けてよいか?』
突然黒銀くろがねが念話で話しかけてきた。
予想通り近くで見張りをしていたようだけど……
『魔物? 学園の結界内に魔物がいるの?』
『うん、いるよー。どれもがくえんのせいとたちでかたづけられそうなやつばっかだけど』
なるほど。魔物の脅威も忘れずに警戒しておかないと、学園外での採取のときに危ないものね。
『ヘクター様の任務を奪うわけにはいかないからいいわ。私たちでも対処可能なんでしょう?』
『……主の場合はやり過ぎに注意せねばな』
『てかげんだいじ』
ちょっと何よそれ。私がやらかす前提なのは。
『そもそも、あなたたちがいたら近寄ってこないんじゃないの?』
『我らは今、かなり気配を薄めておるのでな。魔物共も我らの存在に気づくことはなかろう』
ああ、だから私も二人が近くにいるかさっぱりわからなかったのか。
普段なら近くにいるなー、くらいは魔力の気配を感じるものね。
『そろそろ主たちの近くまできておるので注意しろ』
『くりすてあ、うわきはだめだからね?』
なっ? 真白ましろったらなぜここで浮気とか……
そこで念話が途切れた。もう。

「わ、可愛い!」
マリエルちゃんの声に目を向けると、ふわふわの毛玉のような生き物が数匹、もそもそと茂みから出てきた。
「なにこれ、もふもふで可愛いぃ……」
マリエルちゃんが毛玉を撫でようと手を伸ばしかけたところで、ルビィが「ていっ!」とマリエルちゃんの手を蹴りとばした。
「痛ぁ⁉︎」
マリエルちゃんが痛みに手を引っ込めたのと同時に、毛玉のふわふわの毛が一瞬にして無数の針に変化した。
「きゃっ⁉︎」
「危ない!」
ヘクター様とお兄様が駆け寄り、剣と氷魔法で毛玉をあっという間に退治してしまった。
「ふう……こいつはハリウサギと言って、普段は柔らかい毛だけど、威嚇の時に毛を硬質化させて針のようになるんだ」
名前はハリネズミみたいだけど、硬質化した針はかなり鋭利で危なかった。
死んでしまうと硬質化しないようで、元のふわふわの毛に戻っていた。
「慣らしたらそんなことないってんでペットにしていた奴が学園に持ち込んだのをある日逃しちまって、採取の森で繁殖したんだよな、確か」
「ああ。駆除しようにも増えるのが早くて見つけたら狩るように言われているんだ。君たちも今後見つけたら駆除に協力してほしい」
「ええ……?」
「あんなに可愛いのに駆除……?」
「ああ見えて、野生のハリウサギは好戦的なんだ。油断してると大怪我をするよ。剣や槍などの得物がなければ、魔法で遠隔攻撃するようにね」
「うう……わかりました」
もふもふ好きな私としては殺処分は避けたいところだけど……
『くりすてあ。だからうわきはだめっていったよね?』
真白ましろだ。
……浮気って、そういうことか!
私の好みを熟知しているがゆえの牽制だったのね。
『うむ。これ以上契約獣が増えるのは我としても看過できぬな。やはり主の目に届く前に我らが間引くとするか』
『さんせーい』
……じゃないでしょ!
ああ、契約獣の独占欲ってめんどくさい!
私だってそんなにホイホイ聖獣や魔獣と契約したりなんかしないんだからね!
……多分。

---------------------------
皆様、台風は大丈夫でしょうか?
私は今、迫り来る台風に震えております……皆様何事もなくやり過ごせますようお祈りしております。
私も頑張って乗り切ります!
(強風怖いけども!)
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