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連載
伝説の鍛冶師ガルバノ
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「よし、そうと決まればヤツの店に行くか」
ガルバノおじさまはそう言うと、書き上げたばかりの設計図を手に店の出入り口へ向かう。
「え、あの、どこに……?」
マリエルちゃんたちと慌ててその後を追うと、おじさまは店のドアに「本日休業」の札を下げ、扉を支えて私たちが出てくるのを待っていた。
「うん? そりゃあもちろん、魔導具師のとこに決まっとろう。ヤツ抜きで勝手に進めるわけにはいかんからな」
おじさまは私たち全員が出てきたのを確認すると、施錠してのっしのっしと目的地へ向かい始めた。
「おお、そうそう。ヤツへの報酬だが、あの魔石ほどじゃなくてもええから、ちょいと上質のやつをくれてやってもらえんかな?」
「えっ? ……あ、はい。ええと、魔石ならたくさんあるのでかまわないそうです」
ルビィは店から出てくる間にマリエルちゃんの影の中に隠れてしまったので、マリエルちゃんが念話でルビィに確認して答えていた。
「うむ。それならヤツも二つ返事で引き受けるじゃろうて。ヤツめ、素材の確保にはいつも苦労しておるからなぁ」
おじさまはガッハッハと豪快に笑いながら、職人街の大通りを進んでいく。
すでに昼近いこともあり、通りに人影は少ない。
大半の冒険者たちは朝早くからギルドに向かい、目当ての依頼書がないか探し、とっくに動いている頃だ。
混み合うのは午後をかなり回ってから、夕暮れ前。
戻ってきた冒険者たちが武器を修理に出したり、報酬で装備を新調するために押し寄せるのだ。
職人たちはそれまでの間に新たな商品や依頼の品をせっせと造ったり修理したりして過ごすそう。
この時間帯にいる冒険者がいるとすれば、装備の修理や休暇、旅立つ前の補給などで残っているのだろう。
「お、おいあれ。ガルバノ師じゃねぇか?」
「本当だ。こんな時間に起きて出歩いてるなんて珍しい……武器選びのアドバイスもらえねぇかなぁ? 呑んでる時に下手に声かけっとはっ倒されるからなぁ……」
「ああ……おめぇ、やっちまったのか。あの人は下手な冒険者よか強ぇんだぞ。バカだな」
「身に染みてわかったっつーの。酒場で声かけて気がついたら朝まで床に転がってたわ。それ以来、声かけられねーっての」
「ダハハハハ! ざまあねぇな!」
「うっせぇ! でも今ならいけるかも」
「バッカおめー、あんなにゾロゾロと連れがいんだから接客中だろ。素面の時にやらかすと出禁になンぞ」
「ゲッ、マジかよ……クソッ、せっかくの機会だと思ったのによぉ」
通りすがりに、周囲の冒険者からそんな会話が聞こえた。それ以外にもチラチラとおじさまを見ては声をかけようとして止められる姿が幾つか見えた。
おじさまって、本当にすごい人なんだなぁ。
あんないかつい冒険者たちに恐れられたり尊敬されたりしてるんだもの。
私にとっては、ちょっぴりお酒にだらしないけど何でも気前良く作ってくれる、激甘おじいちゃんという印象しかないんだけど。
小声のつもりかもしれないけれど、地声が大きな冒険者たちの囀りは私だけではなくおじさまにも当然だけど届いていたようだ。
おじさまは、はー……と大きなため息をついてからぴたりと立ち止まり、振り返って周囲を見た。
「おい、お前らぁ! わしのところに来るつもりなら、精神と身体、どっちももっと鍛えてから来るんじゃな! わしは見どころのあるやつにしか武器を作る気はないぞい!」
おじさまは大きな声でそう言うと、冒険者たちがそそくさとその場を去るのをフン! と鼻を鳴らして眺めた後、踵を返してズンズンと歩き始めた。
私たちが慌てておじさまについていくと、おじさまは呆れたような顔をしていた。
「まったく、近頃は嘆かわしいことに骨のあるやつがおらん。わしに一発殴られただけで怖気付き、再び挑戦してくることもない。その時点でわしの武器を手にする資格などないわい」
えええ……あのガタイのいい冒険者をこぶし一発でのしたのなら、そりゃ皆警戒もするでしょ……
そんなんじゃおじさまが武器を作る機会なんて当分ないんじゃないかな?
「……あれ? でもお父様には武器を作ったんですよね?」
魔法攻撃が多いお父様は、滅多に使うことはないけれどガルバノおじさまが鍛えた剣を持っている。
どう見ても冒険者よりは優男風のお父様なのに……
「ふん、あいつは剣も使えるが、普段は魔法メインだからのう。そのせいか武器に関しちゃあ無頓着でなぁ。使えたら何でもええっちゅうような感じでな。わしに武器作りを頼むでもなく、自分に全く合ってない剣で冒険者の真似事をしようとしとったんで、見かねて作ってやったんじゃ。当時ティリエが駆け出しの冒険者の指導をしとった頃に紹介された縁もあってな。知らんかったとはいえ、今の陛下の分もついでに作る羽目になってえらい目にあったわい」
……てことは、お父様が学生時代に陛下と冒険者の真似事をしていた頃に作ったってこと? 陛下の分も?
「え、陛下の剣って……あの剣が、ついで……?」
マリエルちゃんがポソッと呟いた。
「え、マリエルさん。あのって?」
「え、あの……」
マリエルちゃんの話によると、当初王太子だった若き陛下の剣の才に感銘を受けた伝説の鍛冶師(ガルバノおじさまのことね)が、「この剣をぜひ陛下に使っていただきたい」と献上した最上級の剣なのだとか……
えええ、何それ。
おじさまに事の真偽を問おうとチラリと見ると、なぜか困ったような顔をしていた。
「ああ、あの噂か……陛下は自分が広めたんじゃないと必死に弁解しとったがのう。大方、陛下に仕える臣下あたりが箔をつけるために広めたんじゃろうて。まあ、本人は否定しとることじゃし、国を治める者には多少のハッタリは必要じゃろうと思って態々訂正して回ったりはせんがの」
あ、そういうこと……
おじさまがそういうことをするタイプには見えないからびっくりしちゃった。
隣にいるマリエルちゃんは真相を聞いて「え、これ私が知ってはいけないことなのでは……?」と動揺していた。
いやいや、言いふらしたりしなきゃ問題ないってば。
私は怯えるマリエルちゃんの背中をさすり、気にしないよう説得するのだった。
それから通りをしばらく歩き、小道に少し入ったところで、とある店の前で立ち止まった。
「よし、この店だ。客もおらんようだしちょうどいい。さあ、入るぞ」
おじさまはそう言って店のドアを勢いよく開けて入って行った。
「おおい、オーウェン! お前さんにぴったりの仕事が舞い込んだぞい!」
あー、やっぱりかぁ……
私は諦めにも似た境地で「魔導具狂い」と呼ばれる、見覚えのある魔導具師の店に足を踏み入れたのだった。
---------------------------
噂の魔導具狂いの彼については、書籍二巻をお読みいただければ幸いです!
文庫版の書き下ろし番外編にもちょこっと出ていたりします(ダイマ)
ガルバノおじさまはそう言うと、書き上げたばかりの設計図を手に店の出入り口へ向かう。
「え、あの、どこに……?」
マリエルちゃんたちと慌ててその後を追うと、おじさまは店のドアに「本日休業」の札を下げ、扉を支えて私たちが出てくるのを待っていた。
「うん? そりゃあもちろん、魔導具師のとこに決まっとろう。ヤツ抜きで勝手に進めるわけにはいかんからな」
おじさまは私たち全員が出てきたのを確認すると、施錠してのっしのっしと目的地へ向かい始めた。
「おお、そうそう。ヤツへの報酬だが、あの魔石ほどじゃなくてもええから、ちょいと上質のやつをくれてやってもらえんかな?」
「えっ? ……あ、はい。ええと、魔石ならたくさんあるのでかまわないそうです」
ルビィは店から出てくる間にマリエルちゃんの影の中に隠れてしまったので、マリエルちゃんが念話でルビィに確認して答えていた。
「うむ。それならヤツも二つ返事で引き受けるじゃろうて。ヤツめ、素材の確保にはいつも苦労しておるからなぁ」
おじさまはガッハッハと豪快に笑いながら、職人街の大通りを進んでいく。
すでに昼近いこともあり、通りに人影は少ない。
大半の冒険者たちは朝早くからギルドに向かい、目当ての依頼書がないか探し、とっくに動いている頃だ。
混み合うのは午後をかなり回ってから、夕暮れ前。
戻ってきた冒険者たちが武器を修理に出したり、報酬で装備を新調するために押し寄せるのだ。
職人たちはそれまでの間に新たな商品や依頼の品をせっせと造ったり修理したりして過ごすそう。
この時間帯にいる冒険者がいるとすれば、装備の修理や休暇、旅立つ前の補給などで残っているのだろう。
「お、おいあれ。ガルバノ師じゃねぇか?」
「本当だ。こんな時間に起きて出歩いてるなんて珍しい……武器選びのアドバイスもらえねぇかなぁ? 呑んでる時に下手に声かけっとはっ倒されるからなぁ……」
「ああ……おめぇ、やっちまったのか。あの人は下手な冒険者よか強ぇんだぞ。バカだな」
「身に染みてわかったっつーの。酒場で声かけて気がついたら朝まで床に転がってたわ。それ以来、声かけられねーっての」
「ダハハハハ! ざまあねぇな!」
「うっせぇ! でも今ならいけるかも」
「バッカおめー、あんなにゾロゾロと連れがいんだから接客中だろ。素面の時にやらかすと出禁になンぞ」
「ゲッ、マジかよ……クソッ、せっかくの機会だと思ったのによぉ」
通りすがりに、周囲の冒険者からそんな会話が聞こえた。それ以外にもチラチラとおじさまを見ては声をかけようとして止められる姿が幾つか見えた。
おじさまって、本当にすごい人なんだなぁ。
あんないかつい冒険者たちに恐れられたり尊敬されたりしてるんだもの。
私にとっては、ちょっぴりお酒にだらしないけど何でも気前良く作ってくれる、激甘おじいちゃんという印象しかないんだけど。
小声のつもりかもしれないけれど、地声が大きな冒険者たちの囀りは私だけではなくおじさまにも当然だけど届いていたようだ。
おじさまは、はー……と大きなため息をついてからぴたりと立ち止まり、振り返って周囲を見た。
「おい、お前らぁ! わしのところに来るつもりなら、精神と身体、どっちももっと鍛えてから来るんじゃな! わしは見どころのあるやつにしか武器を作る気はないぞい!」
おじさまは大きな声でそう言うと、冒険者たちがそそくさとその場を去るのをフン! と鼻を鳴らして眺めた後、踵を返してズンズンと歩き始めた。
私たちが慌てておじさまについていくと、おじさまは呆れたような顔をしていた。
「まったく、近頃は嘆かわしいことに骨のあるやつがおらん。わしに一発殴られただけで怖気付き、再び挑戦してくることもない。その時点でわしの武器を手にする資格などないわい」
えええ……あのガタイのいい冒険者をこぶし一発でのしたのなら、そりゃ皆警戒もするでしょ……
そんなんじゃおじさまが武器を作る機会なんて当分ないんじゃないかな?
「……あれ? でもお父様には武器を作ったんですよね?」
魔法攻撃が多いお父様は、滅多に使うことはないけれどガルバノおじさまが鍛えた剣を持っている。
どう見ても冒険者よりは優男風のお父様なのに……
「ふん、あいつは剣も使えるが、普段は魔法メインだからのう。そのせいか武器に関しちゃあ無頓着でなぁ。使えたら何でもええっちゅうような感じでな。わしに武器作りを頼むでもなく、自分に全く合ってない剣で冒険者の真似事をしようとしとったんで、見かねて作ってやったんじゃ。当時ティリエが駆け出しの冒険者の指導をしとった頃に紹介された縁もあってな。知らんかったとはいえ、今の陛下の分もついでに作る羽目になってえらい目にあったわい」
……てことは、お父様が学生時代に陛下と冒険者の真似事をしていた頃に作ったってこと? 陛下の分も?
「え、陛下の剣って……あの剣が、ついで……?」
マリエルちゃんがポソッと呟いた。
「え、マリエルさん。あのって?」
「え、あの……」
マリエルちゃんの話によると、当初王太子だった若き陛下の剣の才に感銘を受けた伝説の鍛冶師(ガルバノおじさまのことね)が、「この剣をぜひ陛下に使っていただきたい」と献上した最上級の剣なのだとか……
えええ、何それ。
おじさまに事の真偽を問おうとチラリと見ると、なぜか困ったような顔をしていた。
「ああ、あの噂か……陛下は自分が広めたんじゃないと必死に弁解しとったがのう。大方、陛下に仕える臣下あたりが箔をつけるために広めたんじゃろうて。まあ、本人は否定しとることじゃし、国を治める者には多少のハッタリは必要じゃろうと思って態々訂正して回ったりはせんがの」
あ、そういうこと……
おじさまがそういうことをするタイプには見えないからびっくりしちゃった。
隣にいるマリエルちゃんは真相を聞いて「え、これ私が知ってはいけないことなのでは……?」と動揺していた。
いやいや、言いふらしたりしなきゃ問題ないってば。
私は怯えるマリエルちゃんの背中をさすり、気にしないよう説得するのだった。
それから通りをしばらく歩き、小道に少し入ったところで、とある店の前で立ち止まった。
「よし、この店だ。客もおらんようだしちょうどいい。さあ、入るぞ」
おじさまはそう言って店のドアを勢いよく開けて入って行った。
「おおい、オーウェン! お前さんにぴったりの仕事が舞い込んだぞい!」
あー、やっぱりかぁ……
私は諦めにも似た境地で「魔導具狂い」と呼ばれる、見覚えのある魔導具師の店に足を踏み入れたのだった。
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