転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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聞きたいことって?

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アリシア様の謝罪を受け入れ、これ以上の謝罪は不要であるということで落ち着いたところで、アリシア様が真剣な表情で私を見た。
「あの……クリステア様に聖獣様のことでお聞きしたいことがありますの」
「はい? 何でしょう?」
聖獣様のことって、黒銀くろがね真白ましろに関することかしら。

「先日修練場でおっしゃっていた、王太子殿下の婚約者を目指すのなら聖獣契約を避けた方がよいというお話なのですけれど……国の守護聖獣様と敵対するかもしれないと言うのは本当ですの?」
あー、あれね。黒銀くろがね真白ましろは私が王宮でレオン様と接触した時からずっと毛嫌いしてるのよねぇ。

「ええ。先日もお話した通り、聖獣様は基本的に独占欲が強く、自分の主が他の聖獣様と親密になることを好みませんから。私の契約聖獣達はその旨はっきりと陛下と妃殿下にお伝えしています」
「で、でもクリステア様はフェンリル様やホーリーベア様と複数契約なさってますよね? それに、シキシィマ様も……それなのに、ですか?」
「ええと、私の場合は出会いが少し特殊と言いますか……どちらも私と契約すると言って聞かなかったのでやむを得ず同時に契約することになっただけで、普段の二人は自分が一番の契約獣だって張り合ったりしてるんですよ?」

「張り合って……いるんですの?」
ええそれはもう。
最近は随分落ち着いてきたものの、契約してすぐの頃はライバル心燃やしまくりだったもの。

「シキシィマ様の聖獣様は……」
アリシア様が朱雀様を見ると、朱雀様は頬に手を添えてこてりと首を傾げた。
「そうですわねぇ。本来、聖獣は守護する者に対する独占欲が強めではありますわね。私と白虎は、とある事情のためにセイ様を守護しておりますのよ。そういう意味では私どもも特殊だと言えますわね」

セイの場合はヤハトゥールの次期帝として、現帝を守護する神龍の命で本当は白虎様・朱雀様・青龍様・玄武様の四神獣の皆様が守護しているという、私なんかよりもっと特殊な事情があるものね。秘密だけど。

今は秘密裏に動く形で守護している青龍様や玄武様の存在が明らかになったらとんでもないことになりそうよね。
二体でも珍しい複数契約が実は四体だったなんて、聖獣を神聖視してるドリスタン王国の貴族たちが知ったら卒倒しちゃうんじゃないかしら。
別の意味でヤハトゥールに帰れなくなっちゃいそうだもの。

それを思えば、私の複数契約なんて可愛いものよね。
……その発端は白虎様の暴走だけど。ああ
それも秘密にしとかなきゃ。
簡単に聖獣契約ができると誤解されそうだわ。そんなわけないのだけど。

「特殊……そうなのですか……」
「ちなみにぃワタシはぁ? マリエルが他の聖獣と契約するのは許さないわよぉ?」
「そ、そうですか……!」
ルビィが戯けた仕草で言ったものの、声は普段より低かった……こわ、束縛宣言じゃん。
アリシア様もちょっと怯えてるみたいじゃないの。

「あ、当たり前じゃないですか! 私はルビィとの契約だけで精一杯ですよぉ!」
「うふん、ならいいのよ」
マリエルちゃんが無理無理無理! と首をブンブンと横に振りながら言うのをルビィが満足げに見ていた。
確かに精一杯だろうねぇ……いつもルビィに振り回されまくってるもんね。
それでいて気が合うんだから不思議な二人だわ。

「ああでも、特殊といえばこの国の代表とも言うべき聖獣もそうよね?」
マリエルの返答に満足した様子のルビィが専用の野菜スティックを手にポリポリと齧りながら言った。
「え? 我が国の聖獣様がですか?」
アリシア様が初耳とばかりにルビィを見た。

「初代国王と契約してこの国を建国してから代々国王と契約してるのよね? 普通は契約した主が死んだからってその子どもと契約し続けたりなんかしないわよ」
「え? でも現に……」
「おそらく初代国王との約束だったんじゃないかしら。思い入れが強い主との約束は本人が死してなお続くことは稀にあるわね。そうは言っても中にはどうしても合わない主人がいただろうからよくやるわと思うけど」
確かに。でも、そう言われてみればレオン様は陛下の守護より国が平穏であることに執着しているような節があるような気がしなくもない……かな?

「何だ? 俺に用か?」
「えっ?」
背後から耳元に囁くような声が聞こえたかと思うと、ルビィが即座にマリエルちゃんと一緒に部屋の隅に転移していた。
いやうん、ルビィはマリエルちゃんの契約獣だからそれが正しい行動だけど……一瞬で見捨てられてちょっと悲しい。

でもこうして落ち着いていられるのは、その声に聞き覚えがあったからだ。
そうは言ってもいきなりの登場に驚いて振り向く。
「レオン様⁉︎」
「よう、お嬢。元気してたかぁ?」

噂をすればなんとやらってやつ⁉︎
そう思った私に向かってニッと笑うレオン様は入学式の時に会ったきりだったけど、相変わらずラフな服装で気のいいお兄さんと言った風貌だった。

私とレオン様とのやりとりを見て脅威ではないとわかったのか、ルビィの警戒が解けた。
「はーもう、驚かせないでよね……」と力が抜けた様子のルビィをマリエルちゃんが慌てて抱きかかえていた。
まあいきなり知らない聖獣ひとが現れたら誰だってびっくりするわよね。

「……ええ、レオン様もお元気そうで何よりですわ。それにしても……」
どうしてここに? と問おうとした瞬間、目の前に人型の黒銀くろがね真白ましろが現れた。
「くりすてあになんのよう?」
「我が主に軽率に近寄るな」
剣呑な気配を隠すこともなく二人は今にもレオン様に噛みつきそうだ。

「ちょっと、黒銀くろがね真白ましろったら! レオン様に失礼でしょう⁉︎」
「以前我らは警告したはずだ。何故我らの不在を狙って主に近づいた?」
「くりすてあにちょっかいかけたらゆるさないよ?」
なんで君たちレオン様に対してそんなに警戒してるの⁉︎
最近やっと白虎様や朱雀様とは普通に接するようになったと思ったのに……

「いや~何やら学園の方から俺を噂してる気配がしたんでな。探ってみたらお嬢だったんで、なんか用かなって思って挨拶がてら飛んできた」
……いや気軽すぎでしょ。
国を守護する聖獣様がそんなほいほい転移魔法で現れたらダメでしょ。

「ついでに場所がサロン棟だったから、なんか美味いもんあるかなって期待して?」
「……むしろそれが本命では?」
「バレたか。いいだろ? リリーにも土産に持って帰ってやったら喜ぶしよ」
……王妃殿下のお土産にとかさらっと決めないでほしい。

「ずうずうしい。おまえはしろのおかしをたべてればいいだろ?」
「その通りだ。お前に主の菓子など勿体無い」
「冷てぇなあ。同じ契約聖獣仲間だろぉ?」
「「おとといこい」」
こらこらこら。二人ともレオン様に喧嘩ふっかけるのはやめなさいってば。お菓子ねだりにくるのはどうかと思うけど。

そうは言っても渡さないわけにもいかないので、ストック用に取っておいたスコーンやショートブレッド、アップルパイも忘れず皿に盛り、バスケットに入れて渡した。

「ありがとうよ。あれ? お前朱雀じゃねぇか。何でここに?」
「それはこちらの台詞セリフですけれど……本日は女子会なる女性のためのお茶会ですから、そこの独占欲にまみれた聖獣どもの代わりに護衛兼メイドとしてお供しているだけですわ」
「なんだと?」
「ちゃんとごえいできてないくせに」
朱雀様が鼻で笑いながら黒銀くろがね真白ましろを見ると、二人が気色ばんで朱雀様に抗議した。

「まあ待て。いきなりやってきた俺が悪かったって。しっかし、前にも言ったろ? ちったあ鷹揚に構えてろって」
「ぐっ」
「むむむ」
両手を軽く挙げてひらひらと手を振るレオン様の言葉に二人の動きが止まる。

「悪かったなお嬢。せっかくのじょしかい? ってやつの空気悪くしちまった。また今度詫びの品持ってくるわ。じゃあまたな」
レオン様はそう言って転移魔法で去ってしまった。
「「にどとくるな!」」
「……貴方たち、この時ばかりは息がぴったりですわよね」
うん、朱雀様。私もそう思う。
……って、わああ⁉︎
「アリシア様⁉︎」
アリシア様が座ったままの姿勢で気を失っていた。
えらいこっちゃ!

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