転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
307 / 423
連載

……怖っ!

しおりを挟む
アリシア様を落ち着かせてから、手土産を持たせてサロン棟のロビーで別れた私たちが特別寮に帰ると、お兄様とレイモンド王太子殿下が談話室でセイたちと待っていた。

「お兄様! ……と、レイモンド王太子殿下⁉︎」
「テア、おかえり。お茶会は楽しめたかい?」
「や、やあクリステア嬢。お邪魔してるぞ」
悠然と微笑むお兄様と落ち着かない様子のレイモンド王太子殿下。
セイの隣には白虎様もいらっしゃるし、さっきまで黒銀くろがね真白ましろもいたのだろうからレイモンド王太子殿下がそわそわしていてもしかたないわよね。

「ええ、アリシア様と楽しい時間が過ごせましたわ」
レオン様がいらしたことでプチパニックにはなったけれど。
……レイモンド王太子殿下には報告しておいた方がいいのかしら?

「それはよかった。それで、さっきの騒ぎのことなんだけど……今話しても大丈夫かな?」
さっきの騒ぎ……えーと、トリ……トリなんたらって人のことよね?
「ええ、もちろんです」
「ありがとう。じゃあ二人とも座ってくれるかな?」

お兄様の言葉に私たちは頷いて、空いている席に座った。
ルビィがマリエルちゃんの膝の上で寛ぐ様子を見た黒銀くろがね真白ましろが聖獣の姿に戻ってそれぞれ私の足元と膝の上を確保したのをお兄様とレイモンド王太子殿下が引き攣った笑顔で見守っていた。黒銀くろがねたちったら、ルビィに対抗しなくてもいいのに。
お兄様たちに呆れられてしまったじゃないの、もう!

「コホン、……ええと、さっきの男子生徒のことだけど、彼はガドリー侯爵家のトリニアンといって、テアが聖獣契約をしたことが学園内で公になると真っ先に誘いをかけてきた貴族のひとつだ」

あー、そうそう! トリニアンだ!
そういえば以前わたしをお茶会に招待したって言ってたっけ。
お母様が全部シャットアウトしてたから、私は誰に招待されたとかわからないから困っちゃった。
これからもこういうことがあるのなら対策を考えないと。

「母上からの情報によると、内々に婚約の打診もあったそうだ。もちろん、丁重にお断りするよう母上には頼んだよ」
お兄様お兄様、笑顔で冷気を放つのはやめませんか?
レイモンド王太子殿下が何故かうんうんと頷きながら寒そうにしているのですが⁉︎

「だけど諦めていなかったみたいだね。ガドリー家は男兄弟ばかりで殿下の婚約者候補にねじ込める子女もいなかったから、聖獣契約者のテアを娶ることで政治的に優位になろうとしたみたいだ」
お兄様がチラッと見ると、殿下は不貞腐れたような顔をした。
「……俺のせいみたいに言うなよ。しかし、全くもってけしからんことだ。そんなくだらん理由でクリステア嬢に近づこうとは!」
「ええ、万死に値しますね」

うーん、うっすらとそうだろうなーとは思っていたけれど、学園長から全校生徒・職員に盛大に釘を刺したにも関わらず、アリシア様とのお茶会を拡大解釈して私との交流が解禁されたとしてちょっかいかけてくるとか……
向こう見ずというか、何というか。

「彼にはまだクリステアをはじめとした聖獣契約者には身内や君たちが認めた友人などの関係者以外の接触は現状許されていないと改めてあの場で皆に説明したよ」
「ああ。俺からも念押ししておいた」
「あ、ありがとうございます、お兄様、レイモンド王太子殿下」

「テアのためならこれくらいなんてことないさ。でも彼はまだ諦めていないみたいだから気をつけてほしい」
「え、お二人がそこまでおっしゃっているにも関わらず、ですか?」
「うん、まあ……テアは大丈夫かもしれないけれど……マリエル嬢が危ないかも」
お兄様の言葉にマリエルちゃんがギョッとした。

「え⁉︎ え……ええ⁉︎ わ、わわ私でしか? ……ですか?」
噛んだ。相変わらず慣れてない人相手だとこうなっちゃうのよね。
「そうなんだ。サロン棟で注意したのが僕と殿下ということもあって、テアに手出しするのは禁止だけど、男爵令嬢のマリエル嬢は上手いこと御せれはなんとかなる、と思っている輩が少ないながらもいそうなんだよね」
あー……トリ……トリニ……トリなんたらのあの曲解の仕方を考えたらありそうだわ。

「それでも正式に婚約を申し出るならましなほうで、失礼な話だけど身分的に側室や妾にと思う家もあるかもしれない」
「そっ側室にめめめ妾⁉︎ そ、そんなあ……」
マリエルちゃんが半泣きになりながらルビィをギュッと抱き込んだ。

思い切り強く抱きしめたのか、ルビィが転移でマリエルちゃんの腕の中から脱出してそのままマリエルちゃんの頭上に現れた。
あ、マリエルちゃんの頭をべべべッと何発か蹴ってから肩に着地した。うわあ、痛そう。

「いったいわね、もう!」
「痛ぁ……ルビィも酷いよぉ……」
ルビィは痛みとショックでべそをかくマリエルちゃんの顔を前脚で自分のほうに向かせた。
「んもう、シャキッとしなさいよマリエル! ワタシが付いててそんなことさせるわけないでしょ⁉︎ ワタシを誰だと思ってんの?」
「ふえぇ、ルビィ……」
「ああほら、そのみっともない顔なんとかしなさいよね」
ルビィはインベントリからハンカチを取り出すと、マリエルちゃんの顔にグリグリと押しつけた。

「うぶぶ、酷いよルビィ……でもありがと」
「まったく世話の焼ける子ねぇ。ワタシはアナタの聖獣なんだから、アナタを当たり前のことでしょ。そもそもアナタが気をつけてドジ踏まなきゃ問題ないんだから気をつけて行動しなさいよね!」
「うう……善処します」
うん、マリエルちゃんにはルビィがいるから大丈夫だと思うけど、私もマリエルちゃんの周囲には気をつけておこうっと。

「……ええっと、マリエル嬢の身の回りは大丈夫そうだね。もし必要ならエリスフィード家からメイヤー家に護衛を派遣しようかと思うのだけど、どうかな?」
お兄様がマリエルちゃんとルビィのやり取りに困惑しつつも提案した。
さすがお兄様! マリエルちゃんの対策も考えてくださってたなんて! 優しい!

「あらっ! アナタ気がきくわねぇ。そうねぇ、マリエルの家族に何があってもいけないからお願いしたいわ。あと、マリエルに害を及ぼしそうな奴らのこと教えてくれたらワタシがなんとかす・る・わ・よ?」
ルビィがお兄様の膝に転移して、お兄様の胸にしなだれかかった。

「……精神関与系の魔法の使用はご法度ですよ?」
「えー? いいじゃない。ね? そいつらの悪事をぜーんぶぶちまけさせて、なんなら全員アナタたちのいうことをよく聞くいい子に改造しちゃうからぁ」
ちょっ、ルビィったら物騒すぎる発言はやめよう⁉︎ 殿下の前だよ⁉︎

「……ダメです。ああでも、彼らの悪事を詳らかにするのは興味ありますね……お願いしても?」
「あらぁ? それってワタシとマリエルに利があるのかしら? ワタシたちに都合の良くない奴らをいい子に改造しちゃだめなんでしょ?」
「……メイヤー家の護衛だけでは足りませんか?」

「あー……そっか、それがあったわねぇ……まあ内容によっては教えてあげる。いちいち全部報告するのは面倒だもの」
「今のところはそれで満足しましょう。よろしくお願いしますね」
そう言ってお兄様とルビィは握手を交わした。
レイモンド王太子殿下がそんな二人を横目に見ながら「……怖っ」と呟いていた。
うん、私もそう思います。怖っ!

---------------------------
いつもコメント&エールポチッとありがとうございます!
執筆の励みになっております!
ありがたやー!

毎日猛暑が続きますが、体調など
崩されませんよう……!
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。