転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
335 / 423
連載

試食会へご招待!

しおりを挟む
お兄様とレイモンド王太子殿下宛に出した試食会の招待状はミリアによってすぐに届けられ、ミリアが戻ってきてまもなく返事が届いた。はやっ!
レイモンド王太子殿下とお兄様のどちらも返事は「何が何でも行く」だった。

さすがに学生の身とはいえ、王太子ともなれば公務の手伝いなど色々とあるので、忙しいそうで。
普通ならお茶会のお誘いも前々から招待状を出してスケジュール調整しなければならないところを今回は無理矢理予定を空けてくださったみたい。

何だか無理させてしまったみたいで申し訳ないけれど、二人とも「楽しみにしてる」とあったので、せめて美味しい料理で労えたらいいな。

夕食は簡単に済ませ、試作の済んでいたメニューを皆で手分けして作り、インベントリへ収納しておいた。
残るスパイスのメニューももちろん試作済み。

これは翌日の試食会でのお楽しみだからとインベントリに即しまうと皆からブーイングの嵐だったけれど、今から試食するなら味見程度しか出さないし、明日の試食会には参加させませんと言うとおとなしく引き下がった。

だって、全て試食済みなら試食会に参加する必要がないでしょう?
元々、アリシア様やレイモンド王太子殿下たちだけ招待して試食会をする予定だったのを我も我もと参加表明したんですからね。
そのくらいは我慢してもらわないと。

それに、そう何度もスパイスの調合なんてしてられないもの。
クリア魔法がなければ、スパイスの香りが染み付いてしまうんじゃないかしらってくらい延々と薬研でゴリゴリしまくらなきゃなんだもの。
早いところレシピをまとめて料理長やシンに押し付け……もとい、引き継がなければ。

そんなこんなで翌日の午後、お茶の時間より少し遅い時間にアリシア様やレイモンド王太子殿下、お兄様がサロン棟のいつもの部屋に招待した。

お茶会とは違って、今回は試食会ということで少しずつとはいえ色々と食べるからお腹いっぱいになるだろうと思い、早めの夕食のつもりで時間を指定したのよね。

アリシア様は殿下より遅くなるわけにはいかないとすでに部屋で待機している。
手土産に紅茶をいただいたので後でお出ししようかな。
合いそうならチャイを淹れてノーマルな紅茶と飲み比べていただくのもいいかも。

お兄様とレイモンド王太子殿下がお花を手土産に来てくださったので、ミリアに花をテーブルに生けてもらうよう頼んで、お二人を料理が準備してある部屋へ案内した。

「やあ、テアの手料理が食べられて嬉しいな。依頼してそんなに経ってないのに、もう試食ができるとは思わなかったよ」
「そ、そうだな! さすがはクリステア嬢だ。どんな料理が出るのか楽しみにしているぞ!」
「お客様に喜んでいただけるものになっていればよいのですけれど……まずは私たちが美味しくいただけるものか試していただきたくて」

「まかせておけ! 俺は上級向けのカレーだって食べられるのだからな。香辛料たっぷりの料理だろうが問題ない! ……そういえばカレーを出すという手もあったな。今回は試食できるのか?」
レイモンド王太子殿下がドヤって聞いてきた。
やっぱり! カレーにはスパイスをたっぷり使っているのは伝えているから、そう言うんじゃないかとは思ってた。

「カレーは我が家の秘伝のレシピですから、王宮の料理人には教えられませんわ」
「ああ……そうだったな。残念だ。またあの病みつきになる辛さを味わいたかったのだが。時折ふとあの味を思い出しては食べたくなるんだ。それくらい美味かったんだが……」
殿下が心底残念そうに言った。

定期的にカレーが食べたくなる身としてはその気持ちは痛いほどよくわかる。だけど、そのような中毒性があるのならあれはこの世に出してはいけないものなのだ。うん。
一皿がなかなかのお値段がするものだからね。
前世では庶民のメニューだったのになぁ……

そう言う意味では、今回スパイスをふんだんに使い放題だった試食会もなかなかのお値段になるはずだけどね。
料理が並べられた部屋の扉を開けた途端、スパイスの香りがブワッと広がった。
おお、これはなかなかの破壊力。
……試食会が終わったら、部屋全体にクリア魔法をかけなくちゃ。

「うわ、すごい香りだね」
「ああ、カレーに似ているようで違う、香辛料独特の香りだな」
殿下たちも強烈な香りに迎えられ、鼻をすんすんとさせながら室内へ入った。

「やあ、アリシア嬢」
「レイモンド王太子殿下、ノーマン様。お茶会ぶりでございますわ。この度も同席させていただきます」
「堅苦しい挨拶はいい。共に試食を楽しもうじゃないか」
「ありがとう存じますわ」

さすがアリシア様。さすアリ!
美しいカーテシーで優雅に挨拶を決めた。
マリエルちゃんはその後ろでギクシャクしながらなんとかといった様子でカーテシーっぽいポーズをした。
……うん、はい。今日からカーテシーの特訓だね。このままじゃ淑女教育の授業で落第しそう。

セイは騎士の礼で二人を迎えた。
まあ、セイは留学生だしドリスタン王国の臣下ではないから殿下たちも特に気にはしないだろう。
聖獣の皆様は私とセイの命令で壁際で控えている。じゃないとつまみ食いされそうだったからね!

殿下たちがくるギリギリまでインベントリに入れていたのでどれも熱々の状態だ。
壁際で今か今かと待ち構えていた聖獣の皆様は殿下を気にすることなく料理に集中していたので、殿下もお兄様も苦笑していた。
は、恥ずかしい……食いしん坊聖獣たちめ!

「本日はビュッフェ形式での試食会となります。お好きなものを取り分けてご試食ください。皿の側に料理名とその説明。小瓶に使ったスパイスを入れておりますので自由に香りなどお試しください」

私がそう説明すると待ってましたとばかりに皆がテーブルに殺到した。
それを見た殿下たちも慌てたようにテーブルに向かったので、思わず笑ってしまった。
「皆様、そんなに急がなくてもおかわりはありますから!」

どうしたらいいのかオロオロしているアリシア様の手を引いて、私もテーブルに向かうのだった。

---------------------------
いつもコメントandエールポチッとありがとうございます!

執筆の励みになっておりますー!

しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。