転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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いつもどおりでいいんです。

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セイ宛にマリエルちゃんを学園に送り届けてほしい旨の手紙を書き、黒銀くろがねに配達をお願いしたら、了承したとの返事も持ち帰ってきてくれた。
うむ、安心確実の黒銀くろがね便。

その後は黒銀くろがね真白ましろを労うために二人の毛並みがふんわりもっふもふになるまでブラッシングしまくってから就寝した。
私ももふり倒したので満足、満足。

翌朝、いつも通り早起きして身支度を済ませてから調理場に向かった。

「皆、おはよう」
既に仕込みに忙しい様子で、皆手を動かしながらも挨拶を返してくれた。

「クリステア様、おはようございます」
「おはようございます、料理長」
私が調理場に入ってきたのを目ざとく見つけて素早く駆け寄ってきた料理長と挨拶を交わし、調理場横の小部屋で打ち合わせだ。

「あの、今朝は本当にいつも通りのメニューでよろしかったのでしょうか?」
料理長が心配そうに私を見る。

そうは言われても、サモナール国の定番の朝ごはんとか知らないし、国によっては朝食は摂らないってところもあるからなぁ。

それに、今回のカルド殿下の宿泊はイレギュラーな事態なんだから、正直な話、朝食ごときでぐだぐだと文句言われる筋合いはないと思う。

それに、カルド殿下は話してみれば少々短絡的ではあるものの、国民思いのいい人だってわかったし、せめて心尽くしのメニューで持て成せば私たちの誠意は伝わると思うのよね。

「ええ。晩餐会前に開発したメニューをお出しして晩餐会こちらの手札を減らすわけにはいかないし、カルド殿下は密かに入国してからはしばらくこちらの料理で過ごしていたわけだから問題はないはずよ」

それに、貴族の料理と違って平民の料理は味付けも素朴なものが多いから、多少物足りなくてもカルド殿下たちの手持ちの香辛料でどうにか味変はできただろうし。
……そう考えたら、どうにもできないほどこってりの貴族の料理って問題だらけよね。こわ。

「それに、我が家の料理はこの国で一番美味しいはずよ。そうでしょう?」
私がそう聞くと、料理長は「もちろんですとも」と言ってニッと笑った。

とはいえ、ヤハトゥールを思わせる和食を出すわけにはいかないので、朝食のメニューはトーストにサラダ、オムレツ、コンソメスープとスタンダードなものだ。

パンは天然酵母を使ってふんわりふっくら焼き上げた食パンに、たっぷりのバター、お好みでジャムやマーマレードを。

サラダは館の裏手で育て始めた野菜を収穫したフレッシュなベビーリーフを散らし、作りたてのフレンチドレッシングかマヨネーズで。

オムレツは卵専用に鍛えたフライパンを使って、ふるりと震えるほどに柔らかい最高の状態のものを目の前で焼く演出付き。

コンソメは昨日仕込んでおいてもらったもので、透き通った黄金色のスープは一口飲んだだけでうっとりするほど複雑な味のハーモニーが味わえる逸品だ。

これに、紅茶かコーヒーを付けて、スタンダードかつ完璧なモーニングの完成である。えへん。
あ、ミルクやフルーツジュースも選べるので、私はジュースにするけどね!

コーヒーは、ミリアに頼んでマリエルちゃんが作ってくれたネルドリップ用のフィルターを真似て縫ってもらった。

それをミリアが先生になって給仕たちにネルドリップコーヒーの淹れ方を教えて実際に飲んでもらったのだけど、意外と好みが分かれた模様。

お父様たちにも試飲していただいたのだけど、お父様には好評で、お母様は紅茶のほうがお好みだったみたい。
ふむふむ、お父様はコーヒー党、お母様は紅茶党か。

朝食については問題ないということで、その後のイディカ米の炊き方検証に関する打ち合わせや、それに合わせるおかずなどをどうするかで話し込み、朝食の時間に近づいたので後のことは料理長にまかせて食堂へ移動した。

食堂に入ると、早くもカルド殿下やお父様たちが着席していた。
えっ、早くない?
「おはようございます、カルド殿下」
「ああ、おはよう。クリステア嬢は朝早いのだな」

カルド殿下は昨日とは打って変わって爽やかな笑顔で挨拶してきた。
やさぐれた様子のイケメンから爽やかイケメンにジョブチェンジだ。

「カルド殿下もお早いのですね。お疲れでしょうから朝はごゆっくりなさってもよろしかったのに」
「いや、イディカのことが気になってな。早く目覚めてしまった。それに、領地にいる時は畑の見回りもあるので朝は早いのだ」

そういえば、領主なのに自ら畑仕事してるんだっけ。薬草の育て方を教わりたいかも。

「あら? そういえばティカさんは……?」
昨日は毒味役と言ってちゃっかりカレーをおかわりまでしていたティカさんの姿が見えない。

「ああ、ここなら護衛は必要なさそうだからティカには宿にイディカを取りに行かせた。すまないが戻ったら食べさせてやってもらえるだろうか」
「は、はあ……」
ティカさん、かわいそう。
せめておかわりは自由にさせてあげよう。

「カルド殿下、もちろん我が家での安全は当然ですが、御身に何かあってはいけません。護衛なしなど……」
お父様は護衛を遠ざけたことに苦言を呈すると、カルド殿下はハハッと笑った。

「そうは言われても、クリステア嬢の護衛だけでも相当な手だれとわかるのに、ティカや俺が太刀打ちなどできるわけがないだろう? 公爵殿が俺を庇護するというのであれば、クリステア嬢の近くにいたほうが余程安全と思えるが?」

「それは……どうでしょうな。このおふた……ゴホン、二名はクリステアだけに忠実なものですから」
お父様が困ったとばかりに眉間の皺を深めた。
うん、それは否定できないっていうか、その通りだと思う。
もちろん、私がカルド殿下を助けてって頼めば渋々ながらも助けてはくれるだろうけれど、基本的に私優先だろうからなぁ。

「ほう、クリステア嬢は良き従者をお持ちだな。公爵殿は余程娘御が可愛いと見える」
「はは……」
お父様の乾いた笑いが私の心の中ととシンクロした。

お父様が知らないところで聖獣の白虎様と関わって、さらに紹介されて聖獣契約までしちゃったからね……ここ数年でお父様の眉間の皺が深くなったのは私のせいだね、多分……

そうして始まった朝食タイムは、カルド殿下がパンの柔らかさに驚き、サラダの瑞々しさに喜び、オムレツのパフォーマンスに心躍らせ、コンソメスープの滋味にしみじみと心打たれるという結果に終わったのだった。

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