転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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イディカが届いた!

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カルド殿下が朝食後のコーヒーを楽しもうとする頃、ティカさんが屋敷に戻ってきた。

「ほら、殿下! 取ってきたっすよ! まったく、従者づかいの荒い主人で困ったもんっすよね!」
ぷんすかしながら戻ってきたティカさんの肩には米俵相当の量のイディカが入っているであろう麻袋が担がれていた。
え、それ重くないの⁇
それに、そんなに必要ないと思うんだけど?

「ティカ、うるさい。イディカの未来、ひいてはサモナール国の未来がかかってるんだから文句を言わずきりきり働け。ああ、待たせたな、クリステア嬢。これがイディカだ。好きなように使ってくれ」
そう言って私の目の前に麻袋がドスンと置かれた。

いや、サモナール国の未来って。
いつからそんな大事になってたんです⁉︎
聞いてませんけど⁉︎

いつの間に私はサモナール国の未来を背負うことになっていたのか。
え、これイディカを美味しく食べられなかったら契約(は特にしてないけど)不履行で罪に問われちゃったりしない?

「お、お預かりしますわね……」
イディカが私の想像通りのものじゃなかったら詰むやつじゃん……と内心冷や汗をかきつつも、黒銀くろがねに麻袋を運んでもらい、調理場へ向か……おうとしたら、カルド殿下たちがついてくるんですけどぉ⁉︎

「あの……カルド殿下。私たちはこれからイディカを調べて検証のため実際に調理してみますのでお部屋でお待ちくださいますか?」
くるりとカルド殿下に向き直ってそう言うと、殿下は首を捻りながらなぜ? と言わんばかりの表情をこちらに向けた。

「サモナールの未来がかかっていると言っただろう? そんな大事な場面に俺が立ち会わないでどうする?」
「ええと……検証するのも作業するのも調理場ですので」

カルド殿下が言ってることはそれっぽいんですけどね、うん。
でもこれからするのは食材のチェックと調理なんですよ?
裏方仕事なんですよ。我が家の舞台裏なんですよ。
そこに他国の王子様を招き入れるわけにはいかないんですってば。

「そりゃあ調理するのだから調理場でするのは当然だろう? 毒を盛るつもりでもなければ何ら問題は無かろう」
なに言ってるんだこいつ? みたいな顔で見つめられたんですけど。
え、私、変なこと言ってる? 言ってないよね? 国賓に対して極々当たり前を説いたつもりなんだけど⁇

「あーっと、クリステア様。発言させていただいてもいいっすかね?」
私がどう断ろうか返答に困っていると、ティカさんが挙手して発言の許可を求めたので、思わず頷いた。

「えっとですね、殿下は薬草の調合だけでなく香辛料の調合もやりますし、何なら調理もしますので調理場そういうとこに入ることに抵抗はないんす。なんで、自分たちのことは気にせず動いてもらって平気なんで。何なら空気扱いでも構いませんよ」
にぱっと笑って言うティカさんに唖然とした。

ええ……? 空気扱いはないでしょ。自国の王子様をそこまで言っていいの?
……ていうか、王子様なのに調合だけでなく料理もするの? 王子様なのに?
いや、私も公爵令嬢だけど料理するんだし、料理する王子様がいたっておかしくはないけど。
……おかしくないよね?

「……調理場には我が家の料理人がおります。中には無作法な者もいるかもしれませんがご容赦を」
渋々了承すると、カルド殿下はニヤッと笑った。

「そこは心配せずともよい。俺の従者がだからな。少々のことじゃ不敬とは思わんさ」
「そうそう! カルド殿下も大概ですからね。何ならこき使っても大丈夫ですよ」
カルド殿下の言葉に乗っかってティカさんがまた怖いことを言うし……

「……お前に関してはそろそろ不敬罪で処罰してもいい頃じゃないかと思っているところだ」
「え、ひどい! こんなにも主人思いの従者なんっすから、むしろ褒章が与えられててもいい頃だと思ってるっすよ⁉︎」
「お前のその自信はどこからくるんだ⁉︎」

ぎゃいぎゃいと言い合いする二人を見て、私はすっかり気が抜けてしまった。

まあ、初めて会った時も王子様とは思えない感じだったもんね。
これ以上あれこれ言っても引かないだろうし……

「わかりました。それではご案内します」
そう言って調理場へ向かう私たちの後ろを、カルド殿下とティカさんが言い合いを続けつつも着いてくるのだった。

私が調理場に入ると、いつものように料理長が目ざとく見つけて駆け寄ろうとしたのだけど、私の背後の面々を見て固まった。

「クリステア様……え、あ、あのこれは一体……?」
恐る恐る、しかし失礼がないようにコック帽を即座に外した。

「昨夜から滞在なさっているサモナール国の第二王子、カルド殿下です。従者のティカさんと共に視察にいらしたの」
野次馬に来たという方が正しい気がするけれど。

「は、ははー!」
本来ならば膝をつくところだけど、調理場で膝をつくなど衛生面を考えれば言語道断なので、例え王族だろうと許しません! という私の言葉に忠実に、しかし最低限失礼のないような礼を料理長がとると、調理場にいた全員が同様に動いた。
あわわ、例え王族でもだなんて言わなきゃよかった……!

「かしこまらずともよい、我々はクリステア嬢に頼みがあってここへ参ったのだ。君たちはそれぞれの持ち場で職務に励んでくれ」
「はっ! 寛大なお言葉、ありがとうございます!」

料理長が他の料理人たちに持ち場に戻るように指示を出すと、おずおずとだけど、それぞれの業務に戻っていった。

「それでは、クリステア様。検証する食材はどちらに?」
「ああ、これよ。黒銀くろがね、そこの少し空いているところに置いてちょうだい」
「うむ」
私が指定した、部屋の角に少しだけ広いスペースを指定して麻袋を置いてもらった。

「ティカ、開けてやれ」
カルド殿下が顎でくいっと麻袋を示すと、ティカさんが「へいへい……っと」などと軽い返事をして麻袋の口を縛っていた紐を解いた。

「クリステア嬢、これがイディカだ」
カルド殿下が麻袋に手を突っ込んでつかみ出したものを小皿に移してもらい、受け取る。
「拝見します。あ、これは……」

間違いない。長粒米、タイ米にそっくりだ。
特長もタイ米と一緒なら、炊き方も同じようにすれば多分いけるはず。

「ラースとは異なりますが、調理次第では美味しくいただけるはずです。試してみましょう」
「本当か⁉︎ ……頼む!」
カルド殿下は私の言葉にパッと顔を上げ、それから頭を下げた。
「あ、頭を上げてくださいぃ!」

あわわ、責任重大……でも勝算はある!
イディカ米……攻略するわよ!

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いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております~!

偶然米騒動とタイミングが合ってしまいましたが、そろそろ新米の季節ですからね。
皆様の食卓に美味しいごはんが出てきますように( ´ ▽ ` )
我が家はいまだにお米がありませんが(笑)
新米ゲットまでしのぎます~!
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