転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
379 / 423
連載

悪役になりきれない悪食令嬢、それが私⁉︎

しおりを挟む
昼に食べ過ぎたこともあり、夕食は自室で軽く食べるだけにとどめることにし、カルド殿下たちにはカレーうどんを出すように料理長に伝えた。

カレーライス、カレーチャーハン、カレーうどんとカレー味が続くけれど、カルド殿下がカレーカレーとうるさいそうなので、せめて変化を、ということでフォーを使ったカレーうどんを出してもらうことにしたのだ。

私は普通のお出汁のうどんに、甘辛く煮付けたすじ肉と温玉をトッピングしてもらうことにした。

ああ、スパイシーな味つけが続いたせいか、鰹節の風味が効いたお出汁の優しい味がしみるぅ……

ズズッと麺をすすりながら、先程料理長から渡された、今後我が家で取り引き可能な香辛料のリストの内容を反芻する。

……ほぼほぼ全種類の香辛料や薬草の取り引き可能な上、どの貴族よりも優遇しますって内容だったんだよね……いいの?

カルド殿下ってば、「何なら王家より優遇しますよ?」って言ってたって、本気?

同席していたレイモンド王太子殿下も「それでいいと思う」って許可してたって、正気?

さすがにそれは陛下に叱られ案件だと思うから、お父様と陛下とカルド殿下とでうまいこと話し合っていただきたいわね。

本音を言えば、ベーコン他燻製品の新フレーバーとしても使えるから、優遇とまではいかなくても融通してもらえるのは非常に助かる。

オークの納品が増えて領地でベーコンの生産量がぐんと上がったそうなので、ここらでベーコンなどの肉料理に合うスパイスを売り出してもいいかもと思っていたところなのよね。

それというのも、野営していて困ることの一つに食事……料理がある。

ただ焼いて塩を振るだけと言っても、塩梅という言葉があるように素材のうまみを引き出すよう程よく、適量で……ということすら難しいぶきっちょさんだっているのだ。
料理オンチのマリエルさんがいい例だろう。

そんな人たちがいくらスパイスが広く安価に流通しはじめたとしてもそれらを上手に使いこなせるかは甚だ疑問なのよね。

そこで、ささっと振りかけるだけでリッチな味わいになるハーブ塩やスパイス塩を販売するのはどうだろうと考えたのだ。

だから、香辛料の取り引きが有利に動くのは願ったり叶ったりなのよ。

だけど、ただでさえ王家と懇意にしているエリスフィード公爵家が香辛料の取り引きで王家を凌ぐほどの圧倒的優位に立つのはまずいでしょ?

私だってそのくらいわかるわよ。
なんでもかんでも手放しに喜んではいられないってわけ。

いくらお父様が娘に甘いとはいえ(その割にはお小言が多いけど)、政治的なパワーバランスを考えてうまくことを運んでくださいます……よね? お父様⁉︎

とりあえず、私が定期的にまとまった量の納品を希望する香辛料や、もし手に入るならたまにでよいから納品していただきたい香辛料や薬草などをリストアップしてお父様に渡しておこうっと。

ん? 政治的なパワーバランス?
わかってるんじゃなかったのかって?

嫌だわ、私はただこれが手に入ったらいつでもお父様に美味しいごはんを召し上がっていただけるのになあって思ってお手紙を書くだけですわよ、おーっほっほ(ゲスな高笑い)

私はあくまでも無理のない程度に、手に入ったら嬉しいなあって、そう思っただけですのよ? うふふふふ。

私がそんなことを考えながら素知らぬ顔でリストアップしていたのを見たミリアが後で「クリステア様、何だか悪巧みしているかのようでしたよ」って苦笑いしていた。
あれ? 素知らぬ顔、できてなかった……?

私にはポーカーフェイスとか、腹の探り合いとか、そういう類には向かないなってしみじみ思ったわ。

悪食令嬢には悪役令嬢は向いてないみたい。
できてポンコツ悪役令嬢がせいぜいだと思う。

翌朝。
学園に戻ることにした私は早めに起きて食堂に向かうと、お兄様とレイモンド王太子殿下がいた。

え、殿下泊まってたんだ。

「おはようございます。お兄様、レイモンド王太子殿下」
「おはよう、テア」
お兄様は昨夜遅くまでお父様たちと話し合いをしていたそうなのに、疲れた様子も見せず優雅に微笑みを返してくれた。

「お、おはよう! いい朝だな、クリステア嬢!」
レイモンド王太子殿下は朝から元気だなぁ。
でも、いい天気? だったっけ?

「……? 今朝は曇りですけど」
「あ⁉︎ ああ、暑くもなく寒くもないいい天気だな⁉︎」
変な殿下。

「……そうかもしれませんわね。ところで殿下は王宮に戻られなかったのですか?」
「え? あ、ああ。遅くまでお邪魔していたのでな。公爵の勧めで泊まらせていただいたのだ。この後そのままカルド殿下を王宮にお連れする予定だ」

ああ、なるほど。
夜遅くに王宮に帰ってまた早朝に迎えにくるって面倒だもんね。
さすがお父様、レイモンド王太子殿下の負担を減らそうと気を利かせたのね。

「そうなのですね。私はこれから学園に戻りますので、カルド殿下によろしくお伝えくださいませ」
「え? もう戻るのか? そうか……」
レイモンド王太子殿下も学園に戻りたかったのかな。
若いのに接待疲れしてるのかも。
ごめんね。お先に失礼しますよっと。

「テア、僕もレイモンド王太子殿下に付き添って王宮にカルド殿下をお送りしてから学園に戻るよ。明日にでもサロンで話をしよう」
「承知しましたわ。お茶会の準備をしておきますわね」
「楽しみにしてるよ」

フレンチトーストとサラダ、スープで簡単に朝食を終えた私は、途中食堂にやってきたお父様やお母様に挨拶もそこそこに学園に向かったのだった。

昨夜の話し合いの内容は気にならないわけじゃないけど、ここで話し込んでいたらカルド殿下とまた鉢合わせしそうなので、面倒ごとは避ける方向でひとつ。
---------------------------
いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` ) ♪
執筆の励みになっております~!
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。